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第18話 西洋からの贈り物

 父の死から三日間の沈黙――。李総管から聞かされた事実は、蘭瑛ランエイの心に重いおりを残していた。

 翌日、後宮の片隅にある蘭瑛の作業場に、載淵サイエンが数人の宦官を引き連れて現れた。彼らが抱えているのは、豪奢な装飾が施された木箱の数々だ。


「……蘭瑛。昨夜はあまり眠れなかったようだな」

 載淵が箱の一つを開く。中から現れたのは、見たこともないほど透明度の高い、美しい磨きがかけられた数枚のガラスレンズだった。


「これは……?」

「西方の国から届いたばかりの最新の光学レンズだ。それと、そちらの箱には極小の鋼を叩き出して作られた精密なゼンマイと歯車が入っている。宮廷専属の職人でもここまでの細工はできまい」


 蘭瑛の瞳が、一瞬で色を取り戻した。

 彼女は李総管の話に沈んでいたことすら忘れ、吸い寄せられるように箱の中身を覗き込んだ。


「嘘……これ、レンズの屈折率が均一だわ。これなら、光の反射を利用したあの『幽霊の消失』を、もっと明るい場所で再現できる! それにこのゼンマイ、この反発力なら鳩を飛び出させる仕掛けを今の半分以下のサイズに凝縮できます!」


 蘭瑛はレンズを太陽にかざしたり、ゼンマイの動きを指先で確かめたりと、もう夢中だ。ついさっきまで父の悲劇を思って曇っていた表情はどこへやら、今は新しい玩具おもちゃを手にした子供のように頬を紅潮させている。


「載淵様! これ、すごいです! 西洋の理論では、光を操ることで人の視覚を完全に欺けると祖父が言っていました。このレンズがあれば、鏡を使わずに『空気の壁』を作れるかもしれません!」


「……そうか。気に入ったようで何よりだ」

 載淵は、呆れたような、それでいてどこか満足げな溜息をついた。

 本当は、父の真実を知って傷ついた彼女に「かけるべき言葉」をいくつも用意していたのだ。だが、目の前の奇術馬鹿には、甘い言葉よりも最高級のパーツを与える方がよほど特効薬になるらしい。


 蘭瑛はレンズ越しに載淵を覗き込み、ケラケラと笑った。

「見てください載淵様! レンズを二枚重ねると、貴方の顔が逆さまに見えます。威厳たっぷりの親王様が逆さまなんて、これ自体が最高に面白い手品ですね!」


「……貴様、私をマジックの道具扱いにするな」

 載淵は蘭瑛の手からレンズをひょいと取り上げたが、その口元はわずかに緩んでいた。

「そんなに喜ぶなら、そのレンズを使った『新作』とやらを、いずれ私に一番に見せろ。いいな」


「もちろんです! 最高の驚きを予約させていただきますね」


 蘭瑛は再びゼンマイの山にかじりついた。

 父が遺した謎は、まだ解けていない。けれど、この新しい「武器」があれば、いつかあの玄天ゲンテンを驚かせ、父の沈黙を打ち破るための『史上最大のマジック』が作れるかもしれない――。


 作業場に響く、ゼンマイを巻く小気味よい音。

 蘭瑛の心には、父への誓いとともに、新しい奇跡を生み出そうとする術師の情熱が、再び鮮やかに燃え上がっていた。


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