14.ウィンドワーウルフ
「それじゃあ始めましょう。今回のクエストの作戦会議っ!」
エリスは快活に話しだした。
「ああ」
「まず、クエスト内容から整理しましょう。今回のクエスト内容は、ウィンドワーウルフの討伐。成功条件は件の魔物を一頭以上討伐すること。成功報酬はウィンドワーウルフの大きさ、討伐数によって決定する」
「王都を出発する前の話だと、このクエストで利益を出すには最低三十匹の討伐が必要になる、と」
「そうです。というわけで、次はウィンドワーウルフをどうやって多頭討伐するかを話しましょう」
魔物の多頭討伐。
ウィンドワーウルフは戦闘能力自体は先日、タロー村を襲撃したゴブリンと変わらない。しかし、俊敏性と鼻の良さはゴブリンの比ではない。
恐らく、その俊敏性と鼻の良さが、多頭討伐の難易度を上げる要因になるだろう。
「ウィンドワーウルフは二十から五十くらいの群れで行動する夜行性の魔物。恐らく、村の畑を襲っているタイミングは真夜中でしょう」
「であれば、行動を起こすのは夜。手っ取り早いのは、畑で待ち構えて、そこに来たところを叩く、か」
「カイルさんの戦闘能力を客観的に考えると、ウィンドワーウルフの数頭はそれで討伐可能でしょう」
ただ……。
「ただ、それだとクエストで利益を出すことは出来ないでしょうね」
エリスの言葉に、俺は同意を示すように頷いた。
ウィンドワーウルフは群れで行動する魔物だが、畑で作物を食らったりするのは群れの精鋭の一部に過ぎないはず。魔物の大多数は、巣で精鋭達の帰りを待ち、精鋭達の持ち帰った食べ物を食らうことで生きていると思われる。
つまり、畑でウィンドワーウルフを待ち構えても、討伐出来るのはせいぜい五匹程度。
サイズは大型になるだろうが、とてもじゃないがクエストでの出費を回収出来ないのだ。
「となると、手っ取り早いのは……」
俺が顎に手を当て考えていると……。
「巣を直接叩く」
エリスは、不敵な笑みを浮かべていた。
ウィンドワーウルフの巣を直接叩く。確かにそれであれば、畑で奴等を待ち構える以上の報酬を得られることは間違いない。
「しかし、リスクもある」
俺は続けた。
「まず一つ目は、奴等の巣に乗り込むことは、畑でウィンドワーウルフと戦闘する時以上の個体数に一斉に襲われることになる、ということ」
巣に飛び込む以上、三十匹近いウィンドワーウルフに対して、四方から襲われることはまず間違いない。そんな状況で、ウィンドワーウルフを大量に討伐出来るのか。そもそも、俺は生きて帰ってこれるのか。
「カイルさんは自らの実力を過小評価しているようですね」
エリスは呆れた様子だった。
「その点は、恐らく大丈夫です」
「……そうだろうか?」
「長年、冒険者ギルドで働き、たくさんの冒険者を見てきたあたしが言うのです。大丈夫です」
……長年、冒険者ギルドで働いてきた、か。
タロー村でゴブリン襲撃が遭った際、潜伏先に選んだ森に来れたこと。その後、タロー村に戻る際、しばらくは俺に付いてこれたこと。
彼女の身体能力は、一般人のそれより高いと思われる。
……思えば彼女は、どうして冒険者をしていないのだろう?
まあ、今はそのことはどうでもいいか。
「……不測の事態が起こりうることを想定するのは、当然のことだ」
「あ、そうですか」
エリスはあまり納得していないようだった。
「そして、もう一つのリスクだ」
一旦、俺に戦闘能力の是非はともかく……俺にはもう一つ、不安要素があった。
「そもそも、ウィンドワーウルフの巣はどこにある?」
それこそ、ウィンドワーウルフの巣に乗り込むことに際した、俺の一番の不安要素だった。
そもそも俺は、この辺の土地勘に明るくない。
今回のクエストを通じて、この村がウィンドワーウルフという魔物に襲われていることさえ初めて知ったのだ。そんな俺が、数日この村に滞在したとて、ウィンドワーウルフの巣を見つけることは容易ではないはずだ。
「……うふふ」
エリスは、また不敵に微笑んだ。
「カイルさん。それこそ、あたしがあなたのアドバイザーを務める意義になりますね」
なんだか随分と遠回しな言い方だ。
「つまり、案がある、と?」
「えぇ」
「……そういえばあなた、この国の地図が頭の中に全て入っているんだったな」
「えぇ、でも……さすがに魔物の巣窟まではインプットされていないです」
「それもそうか」
「はい。だから、あたしの持っている案は……まあ、簡単なことです」
エリスは立ち上がり、部屋の扉に手をかけた。
「ウィンドワーウルフの巣の場所が、この辺の土地勘がないからわからない」
どうやらこの部屋を出て、どこかに行くつもりらしい。
「ならば、この辺の土地勘があり、ウィンドワーウルフの巣の場所を知っていそうな人物に話を聞けばいいのです」
……なるほどな。
「とりあえず、情報収集ならば、酒場ですかね」
俺は頷いて、ベッドから立ち上がった。




