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第7話 評議会は“数字”が嫌い

評議会の間は、金と権力の匂いがした。

 長机の左右に貴族が座り、中央に王太子、奥に宰相。

 私はひとり、立ったまま。


 追放の宣告がまだ生きている。

 この場は裁判ではない。公開処刑に近い。


「臨時監査官リディア」

 王太子が言う。「お前は聖堂に踏み込み、神殿を侮辱した」


「監査しました。侮辱はしてません。数字を見ただけです」

「数字で神は測れぬ!」

 貴族の誰かが怒鳴る。


 私は淡々と言う。

「測れます。寄付金は金です。金は数字です」


 ざわめきが大きくなる。

 宰相が咳払いし、場を鎮めた。


「……監査報告を提出せよ」

 宰相は冷静だ。

 だが彼の背後に、黒い契約糸が絡んでいるのが見える。


(宰相も、完全な白じゃない)


 私は押収した契約札の束を机に置いた。

「第三期寄付金の移送契約。二重契約が混入。受領者の一部が宰相府に繋がっています」


 宰相補佐ギルベルトが立ち上がる。

 笑顔。完璧な笑顔。


「証拠は?」

 私は答える。

「契約記録です。契約魔法は嘘をつけません」


 ギルベルトは肩をすくめた。

「契約魔法は万能ではない。改竄の可能性も――」


「改竄痕跡も出てます」

 私は遮った。「あなたが指示した“分割送金”。ここに」


 私は要点を読み上げた。

(改竄指示は宰相補佐ギルベルト、分割指示あり、受領先は灰色商会)


 評議会の空気が冷える。

 王太子が机を叩いた。


「黙れ! お前は追放される身だ!」

「だから、追放で構いません」

 私は静かに言った。「ただし、不正を残して去るほど、私は親切じゃない」


 そのとき、扉が開き、近衛騎士が報告に入った。

「団長エーヴァルト、入室の許可を」


 王太子が眉をひそめる。

「……許可する」


 エーヴァルトが入ってきて、私の隣に立った。

 それだけで、場が静まる。


「団長、これは評議会だ。口を出すな」

「命令を受けている」

 エーヴァルトは冷たく言った。「臨時監査官の生命保護」


 王太子が苛立つ。

 私は心の中でだけ感謝した。

 私は孤立していない。少なくとも、剣が味方にいる。


 宰相が言った。

「……監査官。お前は何を求める」


「三十日」

 私は即答した。「三十日だけ、監査権限をください。

 本丸まで行って、証拠を揃えて、全部まとめて裁いてから――静かに休みます」


 貴族たちが笑う。

「静かに休むだと?」

「追放される女の戯言だ」


 私は微笑んだ。

「笑っててください。笑ってる間に、帳簿があなたたちを裁きます」


 宰相は少し黙り――そして、意外なことを言った。

「……よい。三十日、与える」


 王太子が叫ぶ。

「父上!」

「条件がある」宰相が続ける。「監査官は、監査局ではなく――“王太子府”の管轄に置く」


 私は一瞬だけ息を止めた。

 それは監視どころじゃない。首輪だ。


 宰相が微笑む。

「逃げれば追放即時。逆らえば投獄。

 それでも、監査したいか?」


 私は頷いた。

「もちろん。さっさと片付けて帰るために」


 宰相の背後の契約糸が、ざわりと揺れた。

 ――嫌な予感がする。


 評議会が終わり、廊下に出た瞬間。

 エーヴァルトが私の手首を掴んだ。


「王太子府管轄は危険だ」

「ええ。でも、ここを逃したら終わる」

 私は一歩だけ近づいて言った。

「だから――離れないで」


 エーヴァルトの目が、ほんの少しだけ揺れた。

「……俺の隣は、逃げ場じゃない」

「え?」

「……檻だ」


(やっぱり、離してくれない……!)

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