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第4話 氷の騎士団長は離してくれない

出納係ラザールの自白は、王宮内を走った。

 だが走ったのは噂だけで、公式は何も動かない。

 ――上の誰かが蓋をしたのだ。


 私は朝、監査局の机に新しい封筒が置かれているのを見つけた。

 赤い蝋。王家の印。


「……召集?」

 封を切ると、短い命令文が入っていた。


『臨時監査官リディア・アルベール。

 本日より、行動範囲を限定する。護衛は近衛騎士団長エーヴァルトが兼務せよ』


「……護衛が“団長本人”?」

 それは護衛というより、監視だ。


 私は机から顔を上げた。

 ちょうど扉が開き、黒銀の男が入ってくる。

 冷たい目。整った顔。無駄のない動き。


「命令だ」

 エーヴァルトは簡潔に言った。

「お前は今日から、単独行動禁止」


「今日は早く帰りたいんですが」

 私が言うと、彼は一拍置いて答える。


「なら、今日中に終わらせろ。俺が邪魔を排除する」

 ……理屈は通っている。悔しい。


 その日の監査対象は、聖堂の寄付金の“支払先”――灰色商会だった。

 商会は王都の裏路地にある。表向きは香料と布を扱うが、裏の顔は資金洗浄。


 私は商会の帳場に入り、店主に微笑んだ。

「監査です。契約記録を見せてください」

「は? 何を――」

「契約魔法の記録。見せないなら、あなたの“手”を見ます」


 店主が顔をしかめた瞬間、エーヴァルトが一歩前に出た。

「拒否するなら、営業停止。今すぐ令状を取る」


 店主の顔が引き攣る。

「ちょ、ちょっと待て! なんで団長が――」

「俺がいるのは、お前が“消される”からだ」

 エーヴァルトは淡々と言った。「喋るなら守る。黙るなら――俺も守れない」


 店主は汗を垂らしながら、奥の金庫を開けた。

 中から出てきたのは、契約札の束。

 私は【契約監査】を起動し、糸を辿る。


 ――糸は、聖女の侍従へ。

 さらに――王太子の側近へ。

 そして最後に、見覚えのある名へ。


(宰相補佐はギルベルト)


「やっぱり」

 私は呟き、契約札を一枚抜いた。

 その裏に、魔法の刻印が薄く残っている。


「これは……二重契約」

「二重?」

「表は“香料の仕入れ”。裏は“寄付金の移送”。同じ札で、用途だけすり替えてる」


 エーヴァルトの目が鋭くなる。

「誰がすり替えた」

「札を扱えるのは、聖堂か王宮の公印係。……つまり、内部です」


 その瞬間、店の外でガラスが割れた。

 矢が飛び込み、壁に突き刺さる。

 矢尻には黒い布――暗殺者の印。


「伏せろ!」

 エーヴァルトが私を引き寄せ、盾のように前に出た。


 私は彼の胸に押し当てられ、鼓動を聞いた。

 氷の騎士団長――なのに、鼓動は熱い。


「……狙われてるのは、あなた?」

 私が息を整えながら言うと、彼は短く答えた。


「違う。狙われてるのは――お前の“口”だ」

 彼は私の耳元で囁く。

「今夜から、お前は俺の部屋の隣だ」


「は?」

「異議は?」

「大ありです!」

「却下」


(早く帰るどころじゃない……!)

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