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第3話 最初の“報い”は帳簿から

白紙の契約書は、白紙のままでは終わらない。

 この国の貴族は、白紙の署名を“未来の命令”として使う。好きな文言を後から書き足せる。

 もちろん、法律では禁じられている――建前では。


 私は契約書をそっと箱に戻した。

 今ここで騒げば、証拠は消える。

 監査は“勝ち筋”を作ってから殴るのが鉄則だ。


 私は寄付金帳簿の束をほどき、机に並べた。

 入金の欄は綺麗だ。問題は出金。

 支払先が、妙に同じ筆致で統一されている。


「支払命令書の筆跡が、全部同じ」

 私は呟く。


 本来、複数の係が扱えば筆跡は割れる。

 つまりこれは――ひとりがまとめて“書き直した”。


 団長――名前をエーヴァルト・フォン・グレイヴと聞いた――が壁際で腕を組んでいる。

「口に出すな。壁にも耳がある」

「大丈夫です。紙のほうがよく喋る」


 私は【契約監査】を起動し、支払先の契約糸を辿った。

 糸は一本に見えるが、途中で枝分かれしている。

 ――途中で“受取人”が変わっている証拠だ。


「これ、寄付金が“洗われて”ますね」

「……洗われる?」

「一度は正規の口座に入り、そこから別の契約で外へ流す。外に出た金は、もはや寄付金じゃない」


 団長の目が細くなる。

「誰がやった」

「会計局の出納係。たぶん名前は――」


 私は帳簿の末尾、担当印の並びを見た。

 印が妙に薄い。何度も押し直した跡。

 そこにだけ、契約糸が絡んでいる。


「……“ラザール”」

 印の横の名札が、古いインクで読めた。


 その夜、私は会計局の出納室に入った。

 当然、単独ではない。エーヴァルトが扉の前に立ち、誰も近づけない。


「臨時監査です。帳簿を提出してください」

 私は淡々と言う。


 ラザールは最初、強気だった。

「追放される女が何を――」

「追放は受け入れます。ですが、あなたが先に落ちます」


 私は【契約監査】を起動したまま、彼の机に置かれた“鍵”を指差した。

「その金庫。寄付金の一部が戻ってきてますよね」


 ラザールの喉が鳴る。

 彼の背後で、契約糸が一斉に震えた。


「……証拠は?」

「あなたの契約記録です。ほら」


 私は流れ込んだ要点を、そのまま口にした。

(寄付金分割送金契約あり、受領先は灰色商会、再送金あり、手数料は三割、改竄指示は宰相補佐)


 ラザールの顔が蒼白になる。

「し、知らない! 私は命じられただけで――」

「そう。命じた人がいる。だからこそ、あなたが“最初”なんです」


 私は机の上に、監査報告書の雛形を置いた。

「選んでください。

 自白して協力者になるか、隠蔽して首を切られるか」


 エーヴァルトが低い声で言う。

「自白すれば、刑は軽くなる。嘘をつけば――今夜で終わる」


 ラザールは震える手でペンを取った。

 そして、署名しかけて――止まる。


「……書けない」

 彼は泣きそうな声を出した。「契約が、指を――」


 見れば、彼の指先が赤く滲んでいる。

 “嘘の反動”。契約魔法は、逃げ道を塞ぐ。


 私は静かに言った。

「――因果応報、第一号」


 そして彼が吐いた名前に、私は背筋を冷やした。


「命じたのは……宰相補佐だけじゃない。

 ……聖女様の“侍従”も、同席していた」


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