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日陰の本棚  作者: invitro
【現実世界・恋愛】
8/23

うざキャラパリピな橋本くんとぼっちが落ち着く塩沢さん

 ―あらすじ―


 クラスで人気者のチャラ男くんがぼっちの私に絡みはじめてから生活が変わった。

 たまにうっとおしい反面、私をクラスの輪に入れてくれたチャラ男くんが少しずつ気になりだし、彼を目で追うようになると、彼のおかしさに気づいてしまう。

 彼が私にかまってくれた本当の理由は――


 全文約4000字


 いつも教室の片隅で何かしらの本を開いてじっと座っている。

 それが私、塩沢絵里だった。

 だけど別に読書が好きってわけじゃない。もともと人と会話するのが苦手なだけ。本に目線を落としているとあまり話しかけられなくなるし、退屈な時間を忘れられるから本を読んでいる。

 そんな私だったけど、最近クラスでの立ち位置が変わってきた。


「ねねね、長老、聞いて聞いて! 昨日彼氏と見た映画がねー」

「長老ぉたすけて~、数学の鎌田が次赤点だったら補習だって言うの~」


 私の席は、なぜかクラスのお悩み相談室に変わっていた。

 今までまったく接点のなかったギャルの方々に囲まれると、少し緊張してしまう。

 しかもあだ名までもらってしまった、『長老』って……私もあなたたちと同じ華の女子高生なんですけど、クール系女子のつもりだったんですけど。

 そのあだ名がクラスに浸透する原因を作ったのが、この人だった。


「塩沢っち~、何読んでんの?」

「橋本くんが興味持てそうな本じゃないのは確かね」

「今日もクールだねー、また難しい本をお読みかなー……ちらっ」


 橋本優希――名前もだけど、整った顔立ちに、色白で、まつげ長くて、スポーツは得意だけどスラッとしてて、ちょっと女の子みたいな男の子。

 ノリが軽くてみんなの人気者。教室にいる時は、周りに誰かいない時が一秒もないんじゃないかってくらい男女問わずモテる。

 そんな彼は、クラスで誰とも話さず一人ぽつんと座っている私が許せなかったようだ。ある日、彼が唐突に勉強を教えてくれと私の席に来た日から、私の周りまで賑やかに変わってしまった。


「ってファッション誌じゃーん!」


 サイズと紙質で覗かなくてもわかるだろうに大袈裟に言う。


「綾香さんが日曜に大学生とデートするから清楚系ってやつを教えてくれって……私、流行とか疎いんだけどね」


 と言いつつ、服やアクセサリーの雑誌もよく読んでいる。

 でも知識はあってもセンスがあるかは自信がないので橋本くんには言わない。コイツは声がデカい、いろんな意味で。


「インフルエンザとかの流行には敏感なのにねー」

「そっちは向こうから寄ってくるのー、って誰が病弱女か」


 てか、あんたは去年別のクラスで私を知らなかっただろが。

 私は子供の頃から皆勤賞ですよーだ。


「おーいユウキーうるせーぞぉ、長老の邪魔すんなって」

「ねぇねぇ綾香ぁ、おっぱい当たってるよー?」

「はいはい、あててんのー」


 橋本くんが綾香さんに首を絞められて男子の溜まり場に連行されていった。ようやく席が静かになって読書に戻れる。今日は難しい本じゃなくて綾香さんから渡された雑誌だけど。


 橋本くんがそのままポイッと捨てられる。

 しかし、すごいな~男子に首しめとか。

 チャラ男とギャルの距離感はマネできない。

 私がやったら「肋骨当たってイテーよ」とか笑われそう。

 橋本くんと入れ替わりで来たクラスメイトと、どれが綾香さんに似合うかしゃべりながらチェックを入れていく。


「いくら長老でも綾香を二日で清純風にするとかムリ筋っしょ」

「だよねー」

「ハァ? アンタら長老の知恵袋なめてんね」

「私はおばあちゃんではなくJKですが」

「あはは、なにそれ、長老ウケるっ」


 と、どこが面白いのか分からない笑いが起こったり、とにかく私の周りは賑やかになった。

 最初の頃はみんなうるさくて、チャラチャラ態度が軽くて橋本くんも含めて少し鬱陶しく思っていた。

 ……いや、橋本くんだけは少しじゃないな。勉強は何度教えても同じ場所を聞いてくるし、興味ないって言ってるのにしつこく前の日に見た恋愛映画や女の子受けしそうなドラマの話をしてくる。


 けど、バカ話も慣れてくると少し楽しくなってくる。

 私は人付き合いが嫌いなわけじゃない。やさしい言葉や面白い言葉がとっさに出てこないから会話するのが苦手なだけ。普通に話したら、きっとみんなから嫌われてしまう。

 だから、今のクラスになって、橋本くんが話かけてくれるようになって……私みたいな口下手でも、それなりに人と楽しく話せるんだって初めて知ることができた。

 そのせいかな。別に好きとかそういうのじゃ全然ないんだけど、今でもちょっぴりウザいと思いながら橋本くんを目で追うようになってしまったのは……

 毎日代わり映えのしないやり取り、漫画やスポーツの話、バイトの愚痴、女子にセクハラ……よく飽きないな。

 そして一番すごいは、橋本くんはどのグループに入っても、同じ話題を出されてもすごく楽しそうに新鮮な反応をする。

 リアクションのプロフェッショナルだ。まるで芸人みたい。これには素直に感心する。私は同じことを繰り返されるとすぐ飽きてしまう。彼には人を楽しませる才能がある。見習わないと。ちょっとウザい人でも学ぶべき点はある。


「……おい、塩沢さんにニラまれてるぞ」

「ユウキがしつこく読書の邪魔するからだ」

「えー、違うよ。あれは恋する乙女の眼差しだよ」

「どっから湧くよ、その自信」

「そりゃ塩沢さんとは両想いだから分かるよ……テレっ」

「オメーそのうち殴られんぞ」


 おっと、真剣に観察しすぎてしまった。

 実は単なる人除けで、度は入ってないけど眼鏡のせいで目つきが悪く見えるらしい。ちょっと笑ってみせようか。

 綾香さんみたいに胸はそんなないけど、顔は卑下するほど悪くないつもりだ。

 男子諸君、私はにらんでないよー。にこー。


「やべーな、あれ長老マジギレじゃね?」

「おーい全員ちょい静かにしろー」


 ……わりと本気で傷ついた。

 ヤリたい盛りの男子どもには乙女の清楚な魅力がわからないみたい。

 ついでに男子たちの勘違いのせいで教室が静かになってしまった。

 今日はもういいや面倒くさい、読書に戻ろう。

 視線を落としていつもの一人の世界に入る。





 そんな風にときどきチャラ男くん観察を続ける。

 その内、私はあることに気づいてしまった。

 橋本くんはどうも見かけと違う人間な気がする。

 なんだろう、彼を見るといつも同じ顔をしているような錯覚に陥る。

 誰とでも仲の良い彼だけど、特別仲の良い友達もいないような……

 でもそれがおかしいことなら、なんで私だけが気づくんだろう。


 その答えを確認する日は意外とすぐに来た――



「おっはよー。塩沢っち、こんな時間に来てたんだねー」

「あれ? 橋本くん?」


 電車の人混みが嫌いで朝早くから学校の図書室にいる私に、橋本くんがダルそうに話しかけてきた。

 私が彼の観察を始めてから、最近は教室でも話かけられる頻度が上がってるけど、なんなんだろ。

 わざわざ図書室でまで私にかまう必要はないでしょうに、なんでコイツは私に懐く? なんで私にかまう?


「ああ俺? 野球部の朝練あってさー」


 と、一目で野球部員ではないと分かる色素の薄い茶髪に微妙にウェーブかかった細いくせっ毛を揺らして、肩を回してみせる。


「新聞部でしかも幽霊部員じゃなかった?」

「あら知ってたんだ、俺の部活ぅ」


 平然とつかれたウソに私が目を細めると、橋本くんは屈託もなく笑った。

 会話はまず冗談から入るのが彼のクセらしい。

 やっぱり一対一で話すとちょっとうざい。


「橋本くんはなんで私にかまうの?」

「実は昨日の帰りにまた告られちゃってさー。しかも、その子同じ電車だから今日は時間ズラしてきたんだよねぇ」


 聞いてない聞いてない。

 というか私の質問はどこいった。

 まあ、そう言ったところで話を止める男じゃないから、本に目を落としたまま適当に話し相手になる。


「告白ってさ、断るのもエネルギーいんのよ」

「へえー、されたことないから知らない」

「そうなの~。する方も疲れるだろうし、口約束で付き合いましょーなんてしなくても一緒にはいられるわけだし、なんでみんないちいち恋人になりたがるんだろ。意味わかんないよね」


 ……この男、実はかなり性格悪いのでは?

 と、頭に疑問が浮かぶ。

 私の表情はたぶん、一層きついものになっているはずだけど、橋本くんはいつもの軽い態度はそのままに、頬杖をついて私に笑顔を向ける。


「俺ってば昔からモテんだけどさぁ」

「自慢?」

「好きだって言われると萎えるんだよねー、どうしよもなく」

「それはテキトウに軽い関係のまま女と遊びたいから?」


 橋本くんが性格の悪いことを言うから嫌味で返すと、静かに首を振られた。


「本当は感情表現が苦手っていうか、いつも自分を取り繕ってるとさー、告白されてもこの子は人を見る目がないんだな~とか。それとも俺の顔しか見ていないのかな~とか。そういう風に人を穿って見ちゃうんだよね~」


 ああ、そうだ、私はこの顔を知っている。

 目の奥が笑っていない。

 口調と表情はやわらかいようで、他人を深く観察しているような……橋本くんは私と話している時だけ、たまにこういう眼をする。


「で、なんでそういう話を私にするかな」

「いやぁ、だって知り合いの女の子で塩沢っちが一番恋愛と遠そうだからさ。実際、俺と二人で話してても全然どきどきしてないっしょ」


 そりゃしてないけど、どゆことだ?

 いつになく何を言っているのかわからない。

 チャラ男じゃなくて不思議少年だったのか。


「本気で人に好かれるのは苦手だけど、やっぱ高校生だし恋の一つもしてみたいってことで、なら俺のことを絶対好きにならない人を俺の方から追っかければいいって考えたわけよ。それも青春じゃん」


 ここで一つウインクが挟まれた。

 背筋にぞわりと気持ち悪いものが流れる。


「だーかーらー、これから塩沢っちの良いトコを探していこっかなって。顔はけっこう好きだし」

「…………あ、それ私にかまう理由?」

「そっ」

「なにその暇つぶしみたいな告白……うざ」

「辛辣だなぁ、塩沢っちの反応は新鮮でいいね」


 私は眉をひそめて唇を尖らせてみる。

 彼はますます楽しそうに笑った。


「あっでも、こういう相談ってなんか恋のはじまりみたいじゃない?」

「ぜんぜん」


 反射的にスパッと否定する。


「はははっ、塩沢っちのそゆとこやっぱ好きだなー」

「私は橋本のそういうとこ嫌い」


 私に学生生活を教えてくれたチャラ男は、どうやら世渡りに長けただけの変人だったらしい。


「んじゃ、教室で~」


 橋本くんは私の返事に満足そうな顔をして席を立った。

 時計を見れば朝礼まであと五分、私も橋本くんを追って図書室を後にする。

 私を狙うとか言いながら、明らかに私を女として見ていない態度に少しムッとして、前を歩く彼の背中をにらみつける。


「おっすユウキ、今日フットサル行かねって、朝から長老とデートかよっ」

「見りゃわかるだろー、モチ!」

「私と橋本くんはただのクラスメイトです」


 私たちの関係がここからどうなるかは、まだ誰にもわからない――


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