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日陰の本棚  作者: invitro
【ハイファンタジー】
13/23

追放できないっ!

 ―あらすじ―


 俺のパーティーに一人ゴミがいる!

 いるんだが、俺は気が小さくてどうしても「お前を追放する!」の一言が言えない。俺はどうしたらいい。俺はあと何回みんなの愚痴を聞けばいいんだ。ギルド長は俺に何も言ってはくれない。誰か教えてくれ。


 全文約7000字



「アデル!! 早くあいつを追放してよ!!」


 冒険者ギルドの隣にある酒場。

 いつものように魔法使いであるサーシャが爆発した。

 このやり取りもこれで何度目だろう……


「ちょっとペース落とせって。飲みすぎだぞ」

「うっさいわね! ザガンだって見てたでしょ! あいつ今日もヒールかけるフリして私のおしり触ったのよ!」


 パーティーの壁役である戦士ザガンがサーシャの怒りを静めようとするも無駄だった。

 彼女の怒りは誰にも止められない。ひとしきり怒鳴った後は、酒狂いのドワーフでも薄めて飲むような火酒をイッキ飲みしていく。


「でもまあ、サーシャの言う通りだ。アデルがこのパーティーのリーダーなんだし、ビシッと言ってくれねえと」

「それにアデルは勇者なんだからね」


 そう、俺は勇者をやっています。一応。

 とある丘に刺さった先代勇者の剣とやらを偶然抜いてしまったばかりに、勇者などという称号をもらってしまった小心者です。

 そして、小心者だからパーティーのリーダーという役目も押しつけられてしまった。


「俺に言われてもなあ……」


 ちなみに、勇者の武器と呼ばれる物は剣の他にもあり、それを手に入れた者は全員勇者と呼ばれるため、ありがたみはあまりない。


「まあ彼も仲間なんだ。もう少し一緒に頑張ろう」

「なら聞くけど、仲間がこんなことするか?」


 ドンッ。

 突然テーブルに置かれたのは山のようなポーションだった。


「これがなに」

「クロトの野郎が買ってくれたのよ」


 クロトとはパーティーの回復役であり、みんなが追放しろと言っているゴミの事だ。

 スケベで自分勝手で戦闘ではすぐ逃げようとするしパーティーの資金を遊びに使い込む。

 追放しろと言われるのも正直分かる。だけど――


「ほら、彼もちゃんとパーティーのこと考えてくれてるじゃん」

「ンなわけねぇだろ!」


 今度はザガンの怒りが爆発した。


「俺は最前線でお前らを守るのが仕事だろ。だから一番ケガすっけど、ヒールかけるのに近づくのは危ないから戦闘中は自分でポーション使ってね~、なんて言いやがったんだぞ、あの野郎! 両手塞がっててポーション飲めるわけねえだろ!」

「あーないわー、あのクズほんとないわー」

「だろ? セクハラなんかよりオレが一番の被害者だぜ」

「ふざけないで! 一番の被害者は私よ! 今回の依頼中だって私が寝てる所ずっと見てたのよ、このままじゃいつ襲われるか」


 ああ、確かにそれはクズだな。

 ザガンが倒れないようにする事がクロトにとっても一番大事な仕事だ。

 俺も前衛だがザガンがいなくなったら戦線を維持できない。

 パーティーは全滅してしまう。

 クロトはそんなことも分からないバカだったか。

 サーシャとザガンが「飲み比べで勝った方が一番の被害者だ」とか意味の分からない勝負を始めたところで、酒場の扉が開いた。


「やぁやぁ、みんなこんなシケた店で飲んでたんだね」


 金髪で線の細い遊び人風の色男が歩いてくる。

 両脇には女を抱えていた。

 またどこかの娼婦だろう、ゆったりとした服の襟から女の胸に手を突っ込んでいる。


「だれー、この人達?」

「君達はまだ顔を知らなかったか、彼が勇者のアデルだよ」

「いつもクロト様の足を引っ張ってるっていう?」

「やだー、ほんとにさえない顔してる。目つきも悪いし盗賊みたーい」

「ハハハッ、おいおいそれは言ったらダメだ。彼は聖剣に偶然選ばれてしまっただけで、元々はシーフという賤職だったから仕方ないんだ」


 クロトは娼婦たちを連れてカウンターで飲み始めた。


「アデル、言い返しなさいよ」

「そうだぜ。リーダーがナメられてるパーティーは必ず全滅するんだ」

「彼のことはギルド長に相談してみるからさ、もう少し待ってくれよ、な?」


 どうにか二人をなだめる。

 二人はクロトが近くにいると酒がマズくなると言って別の酒場へ行った。


「ハァー、ふたりは気楽でいいよな」


 俺だって、言えるものなら言ってやりたいさ。


『おまえをパーティーから追放する!』


 そんな一言で全てが解決するならな……




 翌日、酒が抜けてから俺はギルドに向かった。

 受け付けで一時間ほど待たされてからギルド長の部屋に入る。


「大丈夫か。目がヤバいぞ」

「悪人面なのは生まれつきですよ。元々しがいないシーフですし」

「いや、もう顔がゾンビ……土色になってる」


 開口一番、ギルド長がギョッとした顔で心配の言葉をくれた。


 そうか、顔が土色か。

 もう貧血ですらないのか。

 このところしくしくと胃が痛む。

 夜もほとんど眠れない。

 ようやく眠れたと思ったらクソ眩しい太陽がおはようと挨拶してくる。


「じゃあ、クロトの件で相談に乗ってくれます?」

「それはできない。ギルドは個々のパーティー間の問題には関与しない」

「アンタ俺らのボスだろ、しっかりしてくれよ」

「規約違反だ。ギルドは個々のパーティー間の問題には関与しない」

「いやいや、パーティーの管理責任は属しているギルドにあるはずだろうが」

「諦めろ。ギルドは個々のパーティー間の問題には関与しない」

「壊れたゴーレムかよ! 同じセリフ繰り返しやがって!」


 ギルド長はアドバイスすらくれない。

 他の冒険者の相談には乗っているくせに。

 とんだタヌキ親父だ。


「はぁーもぉー……ならせめてウマい酒でもおごってくださいよ」

「それならお安い御用だ」


 ギルド長は棚の奥に隠していた秘蔵のワインを出してくれた。

 ルビーのように美しく、上質なブドウの甘い香りが漂ってくる。

 金貨十枚はするだろう。まさにとっておき。


 酒は命の水だ。

 酒があるから俺はどうにか今の生活に耐えることができる。

 しかし、その高級酒が俺の喉を通ることはなかった。


「これはなかなか。82、いや81点ってところですかね」

「お、おお俺の酒がッ」


 突然ノックもせずに入ってきた男に飲み干されたからだ。


「ひどいじゃないですか。ボク抜きでこんないい酒を飲んでるなんて」

「このクソ……クロトどうしてここに……」

「それはもちろん、ここの受付嬢や冒険者が教えてくれたからですよ。アデル、なんでもギルド長にボクについて相談しに来たんだって?」


 クロトはそう言いながら、首に下げたペンダントを見せつけてきた。

 中心にサファイアを嵌めた黄金の十字。

 この大陸全土に広がる極光十字星教の物だ。


 その十字教徒の密告があると言っている。

 全ての敬虔な十字教徒がクロトの目となり耳となる。

 それはなぜか。

 公然の秘密ではあるが、クロトは法王の隠し子だから。

 おかげでなんか宗教の神子的な扱いをされてて、こいつは勇者の俺より社会的ステータスが上なんだよなクソッたれ!



「ア、アハハ……それ、なんだけどな、実はパーティーのリーダーには、俺なんかよりクロトの方が相応しいんじゃないかって相談に来たんだよ」


 黄金の十字が、どこにいても空の十字星が見張っていると言わんばかりに卑しく光っていた。

 十字教徒を敵に回すのは魔王と戦うより恐ろしい。

 人間は魔物より弱いが、奴ら宗教モンスターは魔物と違ってどこにでもいる。

 都市にも、街にも、村にも、どこにでもだ。

 狙われたら逃げきれない。

 だから俺は相談していた内容と心情をねじ曲げてクロトに伝えた。



「うーん、頭の悪いアデルにしてはイイ意見だと思うけど、ボクにはそういう雑用係っていうの? 地味な仕事は似合わないからなぁ、アデルが続けていいよ」

「……そうか?」

「でもアデルが言うなら、今後の功労賞や凱旋パレードだけはボクが勇者パーティーの代表として出席するよ。君みたいな華のない田舎者には荷が重いだろうしね」


 クロトは有意義な話ができたと笑って出て行った。

 その背中が遠ざかる姿を窓から確認して叫ぶ。


「ぐあああ! ギルド長ぉ!! あいつ、あいつ、あの野郎ぉ!」

「声を押さえろ。ギルドにも耳がある」

「だけどっ」

「わかっただろ、クロトは追放できないんだ」

「くそがぁぁぁぁ」


 憎い。

 権力者の息子が憎い。

 だけど小市民の俺には権力者に逆らう勇気なんてない。

 法王が勇者のパーティーに入れることで、クロトに箔をつけたがっている。

 ほんと勇者ってなんなんだよ。

 めんどうなだけじゃないか。

 俺は先代勇者の持っていたという聖剣を床に叩きつけた。


 いっそこんな剣、折れちまえばいいのに。






 それからも俺の眠れない日々は続いた。

 好き勝手するクロトの後始末が俺を追い詰める。

 旅先の街では、踏み倒した飲み代を請求され、なぜかクロトが寝た娼婦の相手が俺ということになっていて子供を認知しろと言われ、戦闘で役に立たないクロトのミスを他の冒険者から責められる。



「おい、おいアデル、マジで大丈夫か」

「顔が黒いわよ?」

「ああー……ははっ、それはクマだよ。最近あまり寝てないんだ」

「いえあの、顔全体が黒いんですけど……息も上がってるし、膝枕でもしようか?」


 一応、同じパーティーのサーシャとザガンだけが心配してくれた。

 サーシャの膝枕、ひどく魅力的だ。

 だけど今横になったらもう二度と起きられない気がする。


「また今度お願いするよ」


 それに今は複数のパーティーでドラゴン退治の最中だ、そんなことはできない。

 どうにか心配はかけまいと愛想笑いを返して歩き出す。

 しかし、歩くだけでもツラい。

 近頃は一日に数度、何分か意識が飛ぶことがある。

 それが俺の睡眠だった。


「勇者さん、平気か。フラついてんぞ」

「大丈夫よ! アデルはやる時はやるんだから!」

「というか聖剣が勝手に体を動かしてくれるから問題ない」


 ……また意識が飛んでいたようだ。

 気づくとドラゴンの巣穴の入り口に立っていた。

 他のパーティーも引き連れ、俺が先頭になって巣穴を進んでいく。


「ふふっ、これでボクも龍殺しか……そうだっ、今度からは女を抱く時、ボクのアレをドラゴンキラーと呼ばせよう」


 全員が緊張して息を殺す中、クロトだけは能天気にそんなことを言っていた。

 こいつはマジのガチでアホだが、ここまで来ると大物に見えなくもない。


 洞窟の奥、太陽の光が差し込む開けた広場には巨大なドラゴンが鎮座していた。


「グオオオオオオオオオォ!!!」


 そして俺達の姿を確認すると、目の前にいるだけで胃がひっくり返りそうになる咆哮を上げ炎を吐いた。

 俺は聖剣を持つ手に力を込めて仲間達を奮起させようと叫ぶ。しかし、


「よしっ、みんな行くぞ!」

「あ、ああ、あんなのムリだよ、助けてパパぁあああ!」


 戦闘開始一秒でクロトが小便を漏らしながら離脱した。


「なあ勇者さんよ、アンタんとこのクズ……」

「よしっ、みんな行くぞッ!!!!!」


 さっきより強く叫んで仕切り直した――




 ◇




 ドラゴンは強かった。

 あれはモンスターというより生きた災害だ。

 回復がひとり抜けたこともあって、全員満身創痍。

 俺もポーションが切れて腹から血が止まらない。

 ……いや、むしろクロトがいななかったからこの程度で済んだのだろう。

 強そうな敵が相手だとテンパって足手まといにしかならないからな。


「俺達……勝てたのか」

「さすが勇者だ。アデルのおかげだよ」

「おい待て、あそこにいるのって……」


 パチパチパチ――出口へ向かおうとしたところで、拍手する音が響いてきた。

 クロトの野郎だ。

 さては一人じゃ町まで帰れなかったな。


「よかった、こっちも無事だったんだね」

「……何を言ってるんだ、お前は」

「ボクの作戦だよ。ほら、ドラゴンはもう一匹いただろ。二匹同時に戦うのはやはり無理があるからね、ボクが囮になって引きつけてたんだ」


 こいつは何を言っているんだ。

 ドラゴンは最初から一匹だけだっただろ。

 そんな視線がクロトに刺さる。

 ついでに、俺にも。

 おまえのとこのお荷物だろ、リーダーがどうにかしろ。

 みんなの視線がそう言っていた。


「あのなクロト、ドラゴンは一匹だけだった。間違いない」

「いたよ! 絶対いた! じゃないとボクがまるで逃げたみたいじゃないか! 実は上空を飛んでるヤツがいたんだよ」

「元斥候職の俺が気づけないものをお前が気づくわけないだろ」

「そ、そそそそんなはずない! ボクがいたと言ったらいたんだ!」

「あーもう、マジでいい加減に――ッ!?」


 咄嗟にその場から飛び退いた。

 空から飛来した大きな影にクロトが押しつぶされる。

 まだ戦闘の緊張が抜けきっていないことが幸いしたな。



「ほーらぁ! 言っただろう! ドラゴンはもう一匹いるって! ほらアデル、ボクに謝れよ! ほら土下座して謝れ!」


 ドラゴンの足下から声がした。


「あそこまでイクとアイツちょっとスゲーと思うわ」

「クロト、足潰れてるけど大丈夫かしら」


 サーシャの声でクロトが自分の状態に気づく。

 左足は完全に踏みつぶされていた。


「んぎゃああああああ! ボクの、ボクの高貴な足がああああ!」

「どうしよう、助けなきゃ」


 仲間達が再び武器を手に取った。

 仲間を死なせるわけにはいかない。

 仲間を見捨てるようなヤツは勇者以前に冒険者じゃない。

 たとえそいつがクズでも。

 カスでも。

 バカでも。

 ゴミでも。

 死んだ方がいいクソ野郎でも!

 助け――




「どうしたアデル、やっぱ腹の傷で動けねえか」

「…………いや」


 頭の中で悪魔が囁いた。


『死んだ方がいいクソ野郎を助けるって矛盾してない? 見捨てちゃおうゼ』


 おいおいマジか。

 クロトを助けるなって?

 しっかりしろアデル。

 たとえ聖剣を抜いただけの凡人でも、お前は勇者なんだぞ。

 みんながお前に期待している。

 お前を信じているんだ。

 今の声は気の迷いだよな。


『死んだ方がいいクソを助けるということは、クソが起こす未来の犯罪を肯定することです。あなたは犯罪者の仲間になるのですか。時には人助けを諦めることも勇気です。さあ見捨てましょう、それこそが勇者として正しき行いです』


 くそっ、ダメだ。

 頭の中の天使まで同じことを囁いてきやがる。

 そしてこの瞬間、俺の中でずっと溜め込んでいた何かがハジケた。




「どうすんだアデル! 支持をくれ!」

「俺が行く。みんなは下がっていろ」


 他のみんなは満身創痍だし、俺は元シーフで回避が得意だ。

 ドラゴンの足元に飛び込んでクロトを助けられるのは俺しかいない。


「早くしろよこのカス共! ボクが死んだら呪ってやるからな!」

「すぐ行く! 絶対に助けるから叫ぶな! 出血で死ぬぞ!」


 俺は大声で怒鳴りクロトを黙らせる。

 しかし、俺とクロトの会話をドラゴンは理解していたようだ。

 仲間を助けようとしていることを確認すると、ドラゴンは俺の前を遮るように炎を吐いた。


「くそっ、これじゃ近づけない」


 ドラゴンが愉快そうに喉を鳴らす。

 俺は炎の壁に怯んだふりをして後ろに下がった。


「無理そうか、別の方法を考えよう」

「いや、俺達は一度撤退して体制を立て直す」

「え、それじゃクロトは助からな――」

「これはクロトの作戦だッ! クロトはわかっている!」


 サーシャの言葉を遮って、俺は悔しそうにこぶしを握った。


「近づいた時、クロトの唇を読んだんだ。ドラゴンはつがいを殺された復讐をするつもりだろう。そしてあいつは人語を理解するドラゴンを逆手にとって、自分を犠牲に俺達を逃がすと言っていた」

「あっ、そういう……」


 全員の視線がクロトに集まる。


「おいおいおいおい早く助けに来いよウスノロ! ボクが死んだらマジで呪うからな! 悪霊になってお前らが百万回生まれ変わるまで悲惨な死に方をさせてやるぞ!」

「……あれ演技なのかよ。あいつのこと見くびってたぜ」

「ああ、鬼気迫るって感じだ。あいつも勇者パーティーの一員なんだな」


 クロトのことをそれほど知らない他のパーティーのメンバーが、涙目でクロトへ小さく頭を下げた。

 全員でドラゴンに向けて一斉に魔法と飛び道具で攻撃する。そして、攻撃を防いだドラゴンが見せつけるようにクロトに爪を立てると――その隙に俺達は逃げ出した。

 愚かなドラゴンよ、そいつに人質の価値はないぞ。


「クロトォ! 必ず仇は取るからなああぁ!」

「あなたのこと大嫌いだったけど忘れないわぁ!」

「うおおおおい!! ふざけんな! 戻ってこい! 戻ってこないと殺すぞ! 戻ってお願いします、足でもケツの穴でも舐めるから! お願いします助けてぇ!」


 後ろでそんな声が聞こえていたが、俺は一度も振り返らなかった。

 ザガンだけは、役に立たないヒーラーのせいでこれまで大怪我してきた復讐の代わりか、ポーションが数滴残った空き瓶を無言で投げつけていた。



 ◇



 あれから三日後。

 俺達は再度装備を整えてどうにかドラゴンを討伐できた。

 そして今は、みんなでドラゴンの溜め込んでいた財宝を山分けしている。


「勇者さん、あんた本当に何もいらないのか?」

「ああ、俺はもう十分だ……」

「やめろって。犠牲者が出たんだ、仲間の命を財宝で埋めるようなマネしたくないんだろうよ」


 そう言うと他の冒険者たちは自分の取り分を持って立ち上がる。

 俺の手には、今は亡き友クロトのしていた十字のペンダントだけが残った。


「勇者さんはこれからどうする?」

「少しここで黙祷を捧げてから帰るよ」

「そうか。ドラゴン討伐の報せとクロトの勇姿は俺らがしっかり伝えておくからな。王都でまた打ち上げしようぜ」

「ああ、それよりクロトについては、教会の人達が感動して一週間泣き暮らすくらい話を美談に盛ってくれると嬉しい。……責任取りたくないし」

「おう! 任せな!」

「……最後なんか言わなかった?」


 手を振る他のパーティーを見送り、ドラゴンの巣穴へ眼を向ける。


 もう三年以上になるのか。

 クロトと出会ってから色んなことがあった。

 長い付き合いのはずなのに、あいつとした全ての冒険を鮮明に思い出せる。

 見事なほどに良い思い出が一つもない。

 まるで怒りと憎しみが脳にこびりついているようだ。

 だが今は、満ち足りた安息が心を包み込んでくれる。

 仲間を失ったのに、あるのは喪失感ではなく達成感だった。

 ついに、パーティーの疫病神を追放できたのだ。

 しかし最後くらいは――と俺はクロトが眠るドラゴンの巣穴へ黙祷を捧げた。




「……見てるかサーシャ。アデルのヤツ、立ったまま寝てるぜ」

「ほんと、こんな穏やかな顔ひさしぶりに見たわ」

「こいつが一番の被害者だったんだもんな」

「ええ、今はゆっくり眠らせてあげましょう」


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