幼馴染を捨てようとしたら、知らない天井から再スタートすることになりまして
―あらすじ―
「ミア、君との婚約を破棄させてくれ」
俺は幼馴染にそう告げた。俺にはもっと相応しい女がいるはず、そう思ったからだ。そしてミアと別れた後、俺は何者かに襲われて意識を失った。気づくとこの世界に転生したあの日と同じく、そこには知らない天井があって――
ハーレムを目指すカス男とクレイジーサイコ幼馴染の愛憎劇。
全文約8000字
「ミア、君との婚約を破棄させてくれ」
国立魔法学園の卒業式で、俺は幼馴染のミアにそう切り出した。
「どうしてアレン! わたしのどこが悪かったの!? お願いっ、悪いところがあったなら直すから、あなたの望む女になるから、そんなこと言わないで!」
ミアが腰にしがみついて懇願してくる。
こういうのが嫌だから、わざわざ人前で言ってやったのに、恥ずかしくないのかねこの女。
「ごめん、でも俺は本当の愛を知ってしまったんだ。これ以上、君を愛しているフリはできない……」
悲し気にそう言ってから、隣にきたシャルロットの腰を抱いた。
彼女はこの国の第一王女だ。
美少女で権力と金とデカいおっぱいを持っている。
それになにより、異世界に来たらやっぱり女はもっさい黒髪より輝くような金髪がいい。
まさに、神から与えられたチートスキルでこれから戦争の英雄として成り上がる俺様に相応しい女だろう。
対してミアは、俺が生まれた伯爵家となじみのある錬金術師の家の娘でしかない。
研究の功績で騎士爵は持っているが、領地のない名誉貴族だ。
親が研究に没頭しているマッドサイエンティストで、いつも一人でさびしそうにしていたから、優しくしてやったらコロっと落ちた。
まあ実際、顔はかわいいしスタイルもいい。
とりあえず、チョロくて扱いやすい女だと思ったから抱いてやった。
けど、優秀な俺様の周りに女が増えるにつれて束縛がキツくなってきたし、何をするにもどこに行くにも俺の予定を知ろうとしてウザいから捨てることにした。
これまでヤッた女の中でも、抱き心地がよかったから関係が続いただけで、別に恋してたわけでもないしな。
そんなことより、これからは超絶かわいい王女様と毎日ロイヤルセックスだぜ。
「ずっと一緒にいてくれるって言ったのに……永遠に愛し続けるって言ったのに……」
「幼い頃の約束やベッドでの睦言を本気にされても困るんだが」
「ねぇアレン。こんな気味の悪い子、放っておいて早く行きましょう」
「そうだな」
シャルを連れて講堂を出る。
今日はこの後、俺の親とシャルの親である国王と会食だ。
のんびりはしていられない。
着替えに時間がかかるお姫様を見送ってから一旦家に戻る。
そして迎えの馬車を待っていると、
「――んごっ!?」
突然、後頭部に鈍い痛みが走った。
倒れた地面に血が広がっていく。
「まさか……俺様が、こんなところで死ぬなんて……」
意識を保っていられなくなる。
「アレンがどうしてもって土下座するから婚姻前にヤラせてあげたのに……許さない……ッ!!」
最後に、そんな言葉が聞こえた気がした。
◇
「………………知らない天井だ」
懐かしいな。
一度目の転生をした18年前にも同じことを思った記憶がある。
ラノベやマンガにある異世界転生で定番のパターン。
そういえば、今回はなんだ。
いま普通に発声できたな、すでに声帯ができてる。
つまり赤ん坊スタートじゃないのか。
それに今の声は聞き覚えのあるものだった。
これは……なるほど、異世界転生のお次はループもの。
死に戻りってやつか。
でも声に違和感がある。
「あー、あー、よし……青巻紙赤巻紙黄巻紙! 生麦生米生おめこ!」
やっぱり普通に声は出るな。
けど妙に声が高い。
赤ん坊までは戻らなくとも、かなり幼い感じがした。
一体どこまで巻き戻ったんだ。
てか死に戻りなら、なんで知らない天井?
いや、売春宿の天井ならいちいち覚えてねえか。
権力を盾に好き放題やってきたからな、記憶にない天井山ほどあるわ。
だけど、そもそも俺は死んだのか。
最後の記憶があいまいだし、謎が多いな。
それに他にも、前回の転生時と決定的に様子の違うことが――
「くそがっ! なんだこの手錠、外れねぇぞ!」
俺はベッドに拘束されていた。
両手両足が鎖でベッドに繋がれている。
マジで首しか動かねえ。
しかも今気づいたんだが、なぜか俺はこどもの体で全裸だった。
俺は今、若返り、全裸で監禁されている!
それでも問題はない。
現状、意味はわからんが無問題だ。
この程度で俺を止めることはできない。
なぜなら! 俺は神に選ばれた男だから!
「こんな鎖ソッコーで焼き切ってやんよ」
この世界には魔法がある。
みんな、生まれつき一属性の魔法を使えるのだ。
そして俺は火炎系最強の魔法使い。
俺が生み出す炎はドラゴンブレスよりも熱く燃える。
「我、奉神に望むは神罰の代行、原初の炎を以て現世の咎を焼き払う者なり――イグニートランス!」
………………ん?
なんでだ、なにも起こらん。
超火力の炎の槍が鎖を切断するはずなんだが。
もう一度詠唱してみるも、線香花火ほどの火花すら起こらない。
んん? マジでなんで??
俺の肉体は神様から祝福を与えられた特別製だ。
魔封じの魔道具だろうと封印魔法だろうと結界魔法だろうと焼き尽くすはずなのに。
「あら、起きたのね」
扉が開いて人が入ってきた。
「ミア!?」
俺が捨てた幼馴染、元セフレだ。
こいつが俺を監禁したのか。
しかし、おかしい。
俺は若返ってるのに、なんでこいつは最後に会った時と同じなんだ。
「ループじゃない? なにがどうなってるんだ!」
「心配しなくていいのよ。今のあなたの身体は穢れのない新品同然なのだから。これからまた、二人で本当の人生を歩みましょう」
「なに言ってんだおまえ」
ミアは質問に答えない。
前にも増して言葉の通じない女になっていた。
「俺に何をした!?」
「アレンが教えてくれたんだよ。わたしに優しくしてくれたのはアレンだけだった。アレンがわたしに依存して生きることを教えたの」
「だからっ――」
ミアはベッドに腰をかけると、ゆっくり手足の鎖を外した。
しかし、こどもになっている俺は、ひどく非力で逃げられない。
簡単に押さえつけられてしまう。
「あの頃のアレンは本当に優しかったなぁ……いつもわたしに話しかけてくれて、お屋敷のお菓子を分けてくれて、わたしにはアレンだけだった」
「うおおおおおお! はなせええええええ!」
「わたしが好きって言うと、アレンも好きって言ってくれて……ああ、ほんと、今のアレンはあの頃のアレンそっくり。無垢で穢れないのないこどもの頃のまま。アレンの細胞からホムンクルスを作っておいて本当によかった」
……ホムンクルス?
ホムンクルスって人造生命体のホムンクルス?
まさかこいつ、錬金術でホムンクルスに俺の魂を入れ替えた?
だから魔法が使えなかったのか。
しかし、ホムンクルスの製造が成功したなんて聞いたことがないし、研究しているのが見つかっただけで一族郎党処刑台送りにされる禁忌なんだが。
「さあ、アレン。もう一度、わたし達の青春をやり直しましょう。今度こそ、アレンが穢れた大人にならないようにわたしが育て直してあげるから。今度こそ、わたしの理想の旦那様になってね」
それなんて光源氏?
なんてツッコミ入れてる場合じゃねえ。
どうやらミアは俺が思っていたより一万倍はヤバい女だったようだ。
早く逃げ出さなくては。
俺はひとりの女に束縛されて終わる男じゃない。
最強の魔法使いとして世界を支配する選ばれし者。
俺は世界中の女を抱くんだ。
こんなサイコ女に飼い殺しにされてたまっかよ!
「はなせえええええ!」
「こらこら、もうアレンったら、小さい頃からこんなえっちだったっけ? そんな風に胸に頭を押しつけても、今度はえっちさせてあげないんだからね」
「ふざけんな、このサイコ女が! 俺を解放しろおおお!」
どうにか振り払おうとするが、ミアの胸に抱きとめられて脱出できない。
こいつ、こんな力強かったのか。
それともこの体がクソ非力に調整されてるのか。
しばらく抵抗を続けるが、次第に腕が上がらなくなった。
ホムンクルスの身体は非力すぎる。
力づくでの脱出は無理か。
仕方がない……
「ごめん、ミア。俺が間違っていたよ。謝るから許してくれ。もう一度やり直そう」
「アレン……っ」
ミアは泣きそうな顔で、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
相変わらずチョロい女だ。
サイコな本性をさらけ出しても、所詮は男に依存するしかないバカ女よ。
――がちゃん。
とか考えてたら、ミアが俺に首輪をはめやがった。
首輪から伸びた縄が壁にあった鉄の輪っかに繋げられる。
俺は犬か?
「アレン、そう言ってくれて本当にうれしい。だけどね、アレンの自主性に任せるのはまだ早いと思うの。だって、前はそれであんなことになっちゃったわけだし」
さらにミアは、俺が何もできないように、両手を覆うでかい革袋を被せてしまった。
全裸に首輪に拘束具。
犬じゃねえな、これもう奴隷だわ。
「もう一度アレンが本当に優しいアレンに戻ったってわかるまで、このままだからね」
「くっっっそおおおおおおおおおぁ!!」
こうして、ミアと俺の監禁生活がはじまった。
監禁、と言ったが正確には調教生活と言った方が正しいかもしれない。
ミアの調教は食事からはじまった。
「ふふふっ、ねえアレン、おいしい?」
俺は両手を拘束されたまま、スープを飲まされていた。
食事の時はいつもこうだ。
自分の手で食べることは許されない。
ミアは俺が裏切れないように、俺に何もさせないつもりだ。
そして俺が何もできない大人にするつもりなんだろう。
「ねぇ、アレン聞いてるでしょ。わたしが聞いてるの、わかる? おいしいって聞いてるの?」
無言でスープをすすっていたら、ミアの手が止まった。
徐々に不機嫌な声になっていく。
「こんな状況で飲んだもんがウマいわけねえだろ!」
「ひどい! こどもの頃のアレンはそんなこと言わなかった! おままごとで出した泥のスープだっておいしいって飲んでくれたのに!」
「そりゃ飲んだ演技だ」
「そんなことない! わたしのアレンなら泥のスープだっておいしく飲んでくれる!」
そう言って、ミアは飲みかけのスープを捨てた。
このやり取りも何回目だろう。
ミアの作った食事には、毎回おいしいと答えて感謝を口にしないと食事が取り上げられる。ついでに、一度怒らせると丸一日は食事抜きにされる。
腹が鳴る。
なかなかツラい。
だが俺は負けない。
俺は神に選ばれしハーレムを作る男。
こんなサイコ女には負けないのだ。
俺とミアの食事を巡る争いは続いた。
他にも、
「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き」
夜になるとベッドの横で添い寝しながら、呪いの詠唱のようにひたすら好きと言い聞かせてくる日がある。
マジでうるせぇ。
どんだけ言うんだよ、てめぇは一休さんか。
「わかったわかった! ミアが俺を好きなのはもう知ってるから眠らせてくれ!」
「ちがうよ? アレンがわたしを想う気持ちを代弁してるんだよ? アレンの想いが溢れてわたしの心に聞こえてくるの」
「そんなこと思ってねえよ」
「もう、アレンてば、早く素直になればいいのに。そうしたら楽になれるよ」
まるで邪教の洗脳だった。
ミアは想いを押しつけるだけじゃなくて、俺の思考まで支配しようとしていた。
俺はこんなサイコ女好きじゃない。
たしかにミアのからだは好きだが。
今も添い寝しながら、腕に押しつけられたやわらかい胸が形を変えて――
「ぐあああああああ!」
ベッドから飛び降りて壁に頭を打ちつけた。
これはミアの策略だ。
俺の思考をコントロールしている。
少しずつ俺にミアを受け入れさせようとしている。
今更、こんなエロトラップに引っかかってたまるものか。
いいか俺、サイコ女は女じゃない。悪魔だ。
学習しろ。
ちんこじゃなくて頭で考えるんだ!
「ぬああああ煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散んんんっっ」
……ふう、落ち着いた。
無表情でミアを押しのけてベッドの真ん中に戻る。
ミアは悔しそうな顔で部屋を出て行った。
俺は負けない。
このままいけば、いずれミアが折れるだろう。
あの女はイカレていても心が強いわけじゃない。
長くは続かないはずだ。
そう思って俺は耐えた。
しかしある日、いつまでも心変わりしない俺に見かねたか、ミアは暴挙に出た。
「用を足すから革袋を外してくれ」
トイレを済まそうとすると、ミアが黙って笑っていた。
初日はホムンクルス体の調整もあって全裸で寝かされていたが、今では風邪を引かないように服を着ている。
いつもなら、トイレと身体を拭く時は拘束具を外してくれるのだが、今日はなぜか外そうとしない。
このままだとズボンをはいたまま、うんこ漏らすことになるんだが?
「……まさか」
「しょうがないなー」
ミアはズボンのボタンを外すとパンツと一緒にゆっくりずり下した。
そして、ちいさな俺の身体を持ち上げておまるの上に座らせる。
「していいよ?」
「マジかこいつ」
イカレてやがる。
どうやら今度は、俺のシモの世話までするつもりらしい。
しかも致す様子をじっくりと観察している。
小便くらいならどうってことないが、俺もうんこしているところは見られたくない。
相手がこのサイコ女でも、だ。
そこには常人では越えられない羞恥の壁がある。
「というか見られてたら出ないんだが」
「待つよ?」
おまるの上で30分ほどにらみ合っていたが、腹が冷えてとうとう我慢できなくなった。
「もお~、アレンちゃんはわたしがいないとだめな子なんだから」
用を終えたことを確認すると、ミアは汚れた俺のおしりを拭いておまるを片付ける。
最後に見せた、見下すような、うれしそうなニヤニヤ笑いが忘れられない。
ミアが出て行った後、俺はベッドに顔を押しつけて泣いた。
屈辱だった。
ついに俺は自分で用を足すこともできなくなった。
しかし、服を着たまま漏らすのもイヤだ。
赤ん坊のように介護されるか、うんこ漏らすか。
究極の二択。
俺はミアに屈することを選んだ。
だが、まだ俺は脱出を、ハーレムを諦めていなかった。
屈したのはトイレだけだ。
どれだけ羞恥に曝され自尊心を折られようと俺は縛られて生きるなんて御免だ。
転生者である俺こそがこの世界のキングなのだから!
ただ少し、攻め方は変えよう。
ミアはもうダメだ。
こいつは壊れている。
争っても無駄だ。
だから俺は、ミアに媚びを売りつつ隙を探ることにした。
反省したフリをしつつ、面倒を見てくれるミアに感謝している演技を重ね、体を重ねていた頃以上に愛の言葉をささやく。
そうした生活が続く内に、ミアがあることを漏らした。
「俺の身体がまだ保存されてる?」
「うん。だって、元の身体に戻らないとアレンは魔法使えないでしょ。あんな才能を捨てさせるなんてかわいそうでできないよ」
「無事だったんだ……よかった……」
そう言うと、ミアは照れたように顔を赤くした。
「やっぱり元の身体に戻りたいでしょ?」
「もちろ……」
言いかけて、ミアの態度がひっかかった。
これは罠だ。
身体がまだ無事というのは嘘ではないだろう。
長い付き合いだ、それくらいの嘘はわかる。
だがこれは俺の愛を試そうと、ミアへの依存具合を測っているんじゃないか。
そんな疑念に駆られる。
「ミアがそばにいてくれたら、ほかのことなんてぜんぶどうでもいいよ」
「アレンっ」
このバカ女め。
おまえみたいなサイコに誰が本気で感謝するか。
しかし、俺の身体がまだ残されていたことは朗報である。
それはつまり、神様から授かったチート、世界最強の火炎魔法を取り戻せるということだ。あれさえあれば、貴族の地位を捨てようといくらでも成り上がれる。他のものなんて全てどうでもよくなるほどの力だ。
その日から、俺はより一層、ミアに気に入られるアレンを演じることに努めた。
そしてついに、作戦決行の日が訪れた。
「ちょっと王都に行かなきゃいけない用事ができたの。いい子でお留守番しててね」
「うん、さびしいけどぼく待てるよ」
「アレン……っ」
ぎゅっと抱き締められる。
従順なアレンになりきって半年、ミアはどうやら完全に俺を信じたようだ。
ミアは部屋に大量の食糧を置いて出て行った。
まずは首輪の縄をどうにかしないと。
俺は毎日ツバをかけて、ベッドの柵を一本だけ密かに腐らせていた。
そいつを蹴り折って縄を切った。
折れた柵を使い、ついでに鍵を壊して錠を外す。
このホムンクルス体では脱出する意味がない。
俺はミアに聞いていた、この屋敷にあるという研究室に向かった。
目的は、マイボディの奪還と魂を移す錬金術の書だ。
錬金術の書はすぐに見つかった。
錬金術と魔法は違う。
異世界の物理法則に則った科学だ。
方法さえ知っていれば誰でも使える技術である。
あとは保存されているという俺の肉体を確保できればいい。
「空の容器しかないぞ……だまされたのか?」
しかし、屋敷中探しても俺の身体はなかった。
何か人間大のものを入れていた培養器みたいなものはあった。
だけど、そこには何も入っていなかった。
「いや、これ……濡れてる? まだだ、まだあきらめるな!」
培養器の内側には、つい最近まで使われていた痕跡があった。
ミアの両親はマッドサイエンティストだが、さすがに俺を監禁することに協力はしないだろう。俺の親を研究に必要な大事な金づるだと思っているからな。
だとすれば、友達のいないぼっちのミアに協力者はいない。
男の身体を簡単に移動はできないはずだ。
俺の身体はまだ近くにある! はず!
と言っても時間がどれだけ残っているのかわからない。
俺は慌てて屋敷を出た。
「ここは……親父の領地だったのか」
屋敷の外は見覚えのある風景だった。
遠くに俺の実家が見える。
どこに監禁されているのかと思ったら、ミアは王都から地元に戻っていたようだ。
「にしても、あれは何の集まりだ?」
俺の家にやたら人が集まっている。
収穫祭でもあんなに客が来ることはないんだけどな、何やってんだろ。
気になるついでに、親父に事情を説明して先に保護してもらうか。
予定を変更して家に向かう。
すると、徐々に集まっている人間の雰囲気が重いこと気づく。
どうしたのか事情を聞いてみる。
「昨日、去年王都で失踪した領主さまのご子息が死体で見つかったらしい」
「マジかよ」
いや、それ俺じゃん。
兄弟いないし、親父の息子って俺しかいないだろ。
死体っても魂抜けてるだけだからな。
錬金術で俺が中に戻れば復活するよ。
これは急いで戻らないと。
「うっそだろ……」
ダッシュで自分の屋敷に飛び込む。
しかし屋敷に着いた時にはすでに、俺の身体は火葬された後だった。
原型を失い白骨と化した俺の身体を入れた棺桶が墓地へと運ばれている。
その様子を、家族や屋敷の使用人たちが涙ながらに見送っている。
「あ、あ、おれ……ここ……」
俺はまだ生きているぞ!
そう伝えたかったけど、喉がかすれて声が出ない。
今の身体では、俺を俺だと証明する最強の火炎魔法を使えない。
ガキの頃の俺にそっくりな乞食だと思われるだけだろう。
下手をすれば、顔が似ていることだけを利用して貴族に取り入ろうとしている乞食として殴り殺されるかもしれない。
なにもできず葬儀の列を見送る。
身体を失った。
帰る家を失った。
神様からもらったチートを失った。
これからどうしたらいいんだ。
しばらく呆然としていたら、俺の肩に手を置く人がいた。
ミアだ。
なぜここにいる。
いや、そんなのは決まっているか。
王都に行くというのは嘘だったからだ。
ミアは今まで見た事のない表情をしていた。
怒るでも、悲しむでも、呆れるでもない。
なんの感情もない。
ただ、想定していた通りになったという顔だ。
そこでようやく気づいた。
俺はミアに操られていた。
勝手に抗っているつもりになっていただけで、ミアはずっと俺の心を完璧に折る方法とタイミングを計っていたのだ。
ダメだ。
俺はこのサイコ女に勝てない。
「アレン、帰ろ」
そう心が屈すると、それを察してか、ミアがやさしく手を差し伸べてきた。
俺の心には、もうミアに逆らう気力がなかった。
ミアの手を取り、ふたりの家に向けて歩き出した。




