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日陰の本棚  作者: invitro
【現実世界・恋愛】
11/23

最近仲良くなったクラスのギャルが悪い先輩と付き合っているらしい。今更自分の気持ちに気づいてももう遅い

 ―あらすじ―


 オタク趣味の中学生・小田は、最近クラスのギャル西澤に漫画やラノベを貸す仲になった。と言っても学校でたまに話をする程度だ。

 小田もその様にしか思っていなかったのだが、ある日の帰り道、顔を紅くした西澤から一緒に帰ろうと誘われて――


 全文約3000字


※失恋でもBSSでもNTRでもない。

 こういうのなんて言うんだ……?


「オダっち、今帰りぃ?」


 突然、背中に何かやわらかい衝撃がぶつけられた。

 振り向くと同じクラスのギャルの西澤が両手で僕の肩に体重をかけている。

 背は低い方。まだ中学二年なのに、一部分だけはもう大人と見分けがつかない非常にけしからん女子だ。


「帰り道おなじだっけ?」

「そだよー」

「つって今まで一緒に帰ったことなんてないじゃん」

「そだっけ? まあ今日はちょっと気分転換したくてっさ」


 なはは~、と軽快に笑う。

 いつも教室では授業を無視して寝ている西澤だが、夏休み明けくらいに「熱くて寝られん!」と僕のロッカーから勝手に持ち出した漫画やラノベを読むようになり、最近ではたまに話す間柄になった。


「なに? アタシと帰るのいやなの?」

「そうじゃないけど」

「あっ、ちょっと顔赤いね。もしかして熱ある?」

「それ夕日のせい」


 所詮は住む世界の違うギャルだとは分かりつつ、かわいくて中学生離れしたスタイルの西澤に話しかけられると、どきどきしてしまう。

 別に恋をしているわけではない、と思う。でも体が勝手に反応してしまうのは、僕がおかしいんじゃなくて、思春期の男子なら仕方のないことだ。そう思うことにした。



「そだそだオダっち、この前借りたラノベおもしろかった~」


 西澤がバッグから出したのは、三週間前から行方不明になっていた僕のラノベだった。

 しかもいつの間にか帯が捨てられている、どうしてギャルってやつは勝手に人の物を――


「ほい、返すね~」


 小さくてやわらかい手が、ぎゅっと握るように僕の手に本を押し付ける。

 もう冬なのに意地でも手袋をしない西澤は、寒い寒いと言いながら押し付けてきた手を僕に擦りつける。


 ……なんだろう。

 何かにイラ立ちを覚えていたはずなのに、一秒前のことが思い出せない。


「また無断で持ち出して……」

「燃えたよね。これまでずっと塩対応だった主人公が――」

「そこはせめて淡泊とかそっけないとか言わない?」

「そう! タンパク質だった主人公がヒロインを取られそうになって、やっと自分の中に熱い感情があるって気づくとことか!」


 西澤はいつも一方的に感想を漏らすだけだ。

 たまに僕も意見を言うけど、西澤にその言葉が残っていた試しがない。

 長く話を聞いていると小さな女の子と話している錯覚に陥る。

 実際には、ギャルの西澤の方がずっと大人な世界にいるんだけど。


 しばらく貸していたラノベの話題で盛り上がる。

 西澤の家はどこなのか、どこまで一緒に歩くのか、密かにそんなことを心配しながら僕は歩く。

 そして、ふと長い信号に捕まった拍子、それまで見ないようにしていた西澤の顔をちらりと見ると――西澤は楽しそうに話す声とは裏腹に、緊張した顔をしていた。


「……今日、何かあった?」


 教室の休み時間では、少し話すようになったと言っても、これまで西澤に帰り道で話しかけられたことはない。当然、オタクの僕からギャルの西澤に話しかけるようなこともない。

 これまで無かったことが起こるのは、何かきっかけがあるからだ。


「ねー、オダっち……」

「うん」

「アタシさー、先月から知里先輩と付き合ってるんだけどさ」

「へー……」


 何と返事をしていいのか分からず、相槌を打つだけになる。

 そうか、西澤には彼氏がいたのか。


 知里先輩……サッカー部のエースで学校一のイケメン。

 成績もよくて自信に溢れた姿は男から見てもカッコいい人だ。

 それでも、心にそれまで存在しなかった暗い感情が沸きあがってくる。


「でね、アタシ」

「うん」

「明日、林先輩とえっちしなきゃいけないんだー」

「えっ――んん゛? なんで林先輩!? 知里先輩どこいった!?」


 混乱と驚きで暗い感情が吹き飛んだ。

 冷たい空気を思いきり吸い込んでむせたついでに、鼻からびろんと一本長い線が引いた。


「ぶっ! 鼻水っ、オダっち驚きすぎぃー! ぷっはははは!」

「いやいや、ちょっと待って! なんで話飛んだの、ちゃんと説明してよ!」


 差し出されたティッシュで慌てて鼻水をふき取り、西澤を問いただす。


「あははははははは」

「……いや笑ってないで真面目に答えろよ」

「あ、だって、オダっち鼻水……ぶふっ」


 今度は大笑いして、鼻を紅くした西澤の顔にティッシュを押しつけてやる。

 次第に笑いが収まった西澤は、徐々に小さな声で続きを話しはじめる。


「先輩がね……」

「うん」

「先輩が、アタシが他の男に抱かれてるとこ見たいって……」

「中三でスゴイ性癖だな」


 再び頭が混乱しはじめる。

 そのせいでろくな返事ができなかった。

 どうして僕はこんな話をしているのだろう。


「でしょ? 笑っちゃうよね」

「笑っていいのかわからないよ、なんでそんな人と付き合ってるのかも」

「ね、でもね……好きなの……」


 そう言って、赤くした鼻をこすった。


「西澤……ハッキリ言うけど、お前バカだよ」

「知ってる」


 そうか知ってるのか。

 それでも明日は先輩の友達とデートするのか。

 やっぱりギャルはよくわからない。


「でもオダっちと話せてよかったぁ。人が真面目な相談しようとしてるのにアホ面して鼻水たらしてんだもん。緊張とけちゃった」

「オタクに相談するには刺激が強すぎた。西澤が悪い」


 女にとって好きでもない男に抱かれることは、そんなに軽いノリで流していいお願いなのだろうか。彼女なんていたことのないオタクな僕には想像もできない世界の話だ。

 結局、僕は気の利いたことは言えないまま、西澤もいつもと違う様子を見せたのは一瞬だけで、次の信号で別れることとなった。






 翌週になって月曜の朝、僕は西澤を止めるべきだったのかぐだぐだと悩みながら、教室前の廊下から校門の女子を眺めていた。


「あれれ~オダくん、朝からガールウォッチングですか~」

「違うよ、田村と一緒にすんな」

「今日もつまらない反応だな……あっ西澤だ! 知里先輩と付き合ってるってマジだったのかぁ~、くっそ~」


 田村に言われて視線を校門に戻す。

 件の知里先輩と腕を組んで歩く西澤がいた。

 校舎の窓から見下ろす僕と目が合うと、西澤はまぶしい笑顔で片手を上げる。

 まったくもって僕の心配は何だったのかと思いたくなるくらい、いつも通りの西澤だった。

 やっぱりギャルは住む世界が違うなぁ、と思いながら、僕はズボンのポケットにそっと手を入れた。

 驚きに固まったままだった僕と西澤の視線が再び交差する。

 今度は先輩に気づかれないように、照れた顔でニッと笑ってピースしてくる。

 気づけば後ろには知里先輩の友達の林先輩もいた。

 ちょっと複雑そうな顔をしているから、週末は西澤が言っていた通りのことが行われたのだろう。



 西澤は好きでもない林先輩に――



 やっぱりお前はバカだ、と両手で呆れたようなジェスチャーをする。

 まあ今の僕にできる精一杯の返しだ。


「えっ何? 今の反応なに!? オダって西澤と仲いいの!?」

「はぁ? 西澤には先輩がいるだろ」


 僕は何事もなかったかのように教室に戻る。


 席についてため息を吐くと、ちいさく胸が痛んだ。

 この感情は恋だったのかもしれない。

 でも、想像していた恋よりずっと薄暗い気持ちだ。

 そして胸に沈んでいく暗さよりも、硬くなっている股間に巡る熱い何かを、僕は確かに感じていた――


 鬱勃起は青春。


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