第4話:中学の残像
春菜は、レッスンで厳しい指摘を受け、才能ある同級生たちとの差に焦りを感じていた。そんな春菜の心に、中学時代の苦い思い出が蘇る。
春菜と斎藤 美波は、中学の吹奏楽部でトランペットパートを共にしていた。春菜は、幼い頃からの夢であるソリストを目指し、ひたすらに技術の向上を追い求めていた。一方の美波は、「音楽は楽しければそれで良い」という考え方で、練習にも真剣さが欠けていた。
ある合奏の日、顧問の指導にも素直に従わず、仲の良いメンバーにおどけた顔で「怒られちゃった」などと言って肩をすくめる美波。春菜は隣の席で、その姿をジクジクとした思いで見ていた。副部長として顧問と相談したり、対応を考えたりしたが、部の中はギクシャクし、春菜の行動が空回りしていた。
春菜は、美波のそんな態度に納得できなかった。県大会出場を目指すには、個々の技術を高め、パート全体として高みを目指さなければならない。春菜は、美波に練習の厳しさを求め、何度も衝突を繰り返した。
「美波、もっと真剣にやってよ!私たちは、県大会を目指しているんだから!」
「春菜、そんなにカリカリしなくてもいいじゃない。部活は、みんなで楽しむものでしょ?」
二人の間には、音楽に対する考え方の違いから、深い溝が生まれていった。春菜は、美波の「楽しければ良い」という考え方が、自分の夢を邪魔していると感じた。美波は、春菜の「完璧さ」を求める姿勢が、音楽の楽しさを奪っていると感じた。
そして、ある日の放課後、ついに二人の衝突は、決定的なものになった。
「美波、今日の練習、どうしてそんなに手を抜くの?私たち、県大会を目指しているんだよ!」
春菜が怒りをぶつけると、美波は静かに、しかし力強く春菜の言葉をさえぎった。
「春菜には、私の気持ちなんて分からないよ!完璧な音なんか出せない、私みたいな人間には、春菜の音楽は苦痛でしかないんだから!」
美波は、そう言い残すと、部室を飛び出していった。その日から、美波は吹奏楽部に来なくなった。
春菜は、美波が部活を辞めてしまったことで、ずっと罪悪感を抱えていた。自分の完璧さを求める姿勢が、美波を傷つけ、部活を辞めさせてしまったのではないか。そのわだかまりは、春菜の心に、重くのしかかっていた。
藝大で、美波と再会した春菜は、中学時代のわだかまりを、まだ完全に解き放てずにいた。美術科の学生として、絵画に打ち込む美波の姿に、春菜は、中学時代に失った友情と、自分自身の甘さを痛感する。
「美波は、自分の居場所を、美術に見つけたんだ……。それに比べて、私は……」
春菜は、藝大という才能の集う場所で、自分の音楽を見失い、迷路に迷い込んでいた。中学時代に、美波にぶつけた「楽しければ良い」という言葉が、今の春菜の胸に突き刺さる。自分もまた、音楽が楽しめなくなっているのではないか。
春菜は、中学時代の因縁の相手との再会を通して、自身の音楽に対する向き合い方を、改めて考え始める。




