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新しくも懐かしい家族


 爵位が上のものは、それより下のものを待たせてもいい。

 それが呼び立てた側であろうと、下級爵が高位に逆らうことは出来ない。国における不文律だ。


 下級爵位であるバークレー子爵夫妻は、三年間スカイウィング公爵家の娘を育てた功績として屋敷主人不在のまま使用人にもてなされている最中のはずだ。


 そして、正式にスカイウィング公爵家の娘として迎えられたわたくしの目の前には()()()()がいる。後ろには乳母のアナベル。


 で、お姉さまの腕に飛び込んだのが今。


「報告書どおり少々お転婆だ。先程は公爵令嬢らしい姿を見せていたように思ったが」

「いいではありませんかサディアス。妖精姫なんて呼ばれちゃって、擬態が異様に上手かったヴァイオレットを思い出しますわ。マーガレットは母を反面教師にしたのか、やたら貴方に似ましたもの。説得力が増すのではなくて?」


 わー、その話わたくし達の前でしちゃうのね。

 前回そんなこと無かったような、とよくよく思い返してみると、最初の使用人一斉お出迎えに臆して、そのままアナベルにくっついてされるがままになってたような。


 それで初めて見たマーガレットお姉さまの美しさに全部持ってかれて、ポカンとしたんだった。公爵夫妻をまるっと無視して。だってお姉さま以外の記憶ないもの。

 いやーわたくし、どこまでもマーガレットお姉さまの顔が好きなのね。前世の記憶がなくてもアレとは。


 しかしこの夫妻、戸惑ってる実の孫を放置してるわ。

 これきっと楽しんでるわね、孫がみせた初めての反応を。


 ちなみに今、お姉さまがされるがままなのをいいことに頬擦りしています。お姉さま肌スベスベー!驚いて固まってる顔すら天使〜!

 そう、幼少期のお姉さまはこの世にうっかり落ちてきてしまった天使みたいに愛らしくて美しいのよ。五歳にして国を傾けてもおかしくない美貌。

 絶対にお姉さまは国を傾けないけど。だって未来の護国の要ですもの。


「イーグルトン夫人、ここまでご苦労だったな」

「よくぞ守りきってくれました、アナベル。この子のお守りは大変だったのではなくて?」


 わたくしがお姉さまを構い倒してる間に交わされる、公爵夫妻の言葉に耳を立てる。

 確かアナベルは、元はお祖母様の専属侍女だったはずだ。

 アナベルの夫であるイーグルトン伯爵は公爵家の騎士で、第二騎士団長。ご子息も騎士団にいるはず。

 夫婦どころか家族で公爵家内に仕えている。


「いいえ、()()()を思い出して懐かしくなりましたわ。バークレー子爵家でのびのびとお育ちになられたのが良かったのでしょう。車に乗る前までは泣いて暴れて大変でしたのよ。それが急にご成長なされたかのように振る舞われて。公爵様のご炯眼には感服いたしますわ」


 おっとぉ?やっぱりアナベルには不審に思われたか。

 そりゃ泣き疲れて寝た合間を狙って車に乗せたのに、目が覚めたら暴れるかと思いきや()()ですもんね。


「ひどいわ、アナベル。ちゃんといいつけをまもったでしょ?きのうはおみみがいたくなるくらいに、きちんとごあいさつをー!って、いってたじゃない」


 聞き捨てならない!と違和感のないように言い返したら、アナベルは呆れた顔だけで(あなたはそんなこと気にしないでしょ)と伝えてきた。

 そうね。直前までお勉強嫌がって遊んでたものね。


「ところでダリア様。いつまで姉君にそうしているのです。きちんとご挨拶できていませんよ」


 あ、そっか。してないわ。飛びついたから。

 やらかしちゃったわ、いけない。


 慌ててお姉さまから離れて、アナベルの前に戻り、しっかりと公爵夫妻を見て、それからお姉さまにも視線を合わせ、また公爵夫妻を見上げる。

 結構カーテシーって筋力使うのよね、震えずできるかしら。


「おじいさま、おばあさま、おねえさま。おはつにおめにかかります。ダリア・シオン・スカイウィング、ただいまもどりました」

「うむ。よく無事で帰った」

「おかえりなさいダリア」

「……おかえり?」


 お姉さまったら、まだちょっと戸惑ってて可愛い!

 じゃない。ちょっとわたくし、お姉さまに夢中になりすぎよ。しっかりしなさい。

 どうだろうかこの反応。合格点だろうか。

 アナベルを振り返ると、ふ、と微笑まれた。

 あ、振り返ったのがダメ。はい。ちょっとくらい許してくださいな、わたくしまだ三歳よ。


「ご挨拶できるじゃない、凄いわダリア。きちんと教育してくれたのね、アナベル。ありがとう。このまま乳母としてダリアについていて貰いたいのだけれど、よろしくて?」

「はい、オリヴィア様」


 アナベルがその言葉に了承の意味で頭を下げると、目を細めた公爵夫人オリヴィア・アイビー・ハウエル=スカイウィング様は、わたくしに視線を定めた。


「それにしても初対面のサディアスの前で怖気付かずに、まっすぐにマーガレットに向かっていくなんて。肝が据わっていていい子だわ」

「どういう意味だオリヴィア……」


 厳格で冷徹、氷の知将で知られるサディアスお祖父さまでも、今でも社交界の重鎮であるオリヴィアお祖母さまの前では型なしなのね。知らなかった。


 お姉さまもこのやりとりには少しキョトンとしてる。無表情だけど。

 この頃のお姉さま、表情が少し乏しいのよね。ヴァイオレット様が亡くなったあとから、段々と表情が暗くなっていったらしい。

 元からの性格なのか静かに過ごされることが多かったけれど、武芸の稽古以外では表情を変えることがあまりないと。


 これは前世でお姉さまにかまって欲しくて周囲をうろちょろしていた時に、ヴァイオレット様付きの専属からわたくしの世話係になってくれた侍女が教えてくれたことだ。


 待って。

 時間が戻ったってことは、ぎこちなくもお姉さまの優しさがわかる、あのゆっくりと花が開花するような素晴らしい期間を追体験できるってこと!?

 神様本当にありがとう!!!!!!


 実の両親を待たせていることをすっかり忘れて、お姉さまの素敵メモリアルを増やせることに感謝していた。


 

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