舐めないでください、こちとらガチオタです。
前世……いや、前前世のわたしは、高級宝飾品店に勤めて売場接客の対応をしていた。
来店されるお客様は「人生に一度きりの大切な品」としてだったり、「資産を作っておくため」だったりと、いわゆる一般的なご家庭の方から海外から来られる方まで、様々な方々だった。
わたしはそこそこの売上を保ちながらオタ活に励んでいた。
ライトノベル、漫画は少女・少年・青年・レディコミとジャンルを問わず、アニメ、2.5次元、ゲーム。ついでに二次創作漁りと何にでも手をつけていたので、友人たちからの評判は「雑食がすぎる」。
そんな中で、わたしは運命に出会ってしまった。
少年漫画の週刊誌に掲載された「そらのまんなか」という作品に出てくる、主人公の上官で最初の壁、「マーガレット・アスター・スカイウィング」というあまりにも輝かしい光に。
だって初めての巻頭カラー数ページの一枚に大ゴマどころか一人抜き出て描かれて、あまりにもめちゃくちゃ美麗イラストだった。なんなら表紙の主人公霞んでた。
整えられた美しい銀髪は影に金がチラりと入り、キューティクルは虹色に反射する。
少し垂れ気味の目は髪と同じ白銀で、青紫の瞳が映えるように引かれたツリ目アイラインは深い青。
頬は薄く青みのあるピンクのチークだろうか、唇は艶のあるプラムレッドだった。
全てが完璧な配置と色遣い。
作者よありがとう、これで女性じゃなければ厄介ガチ恋オタクになってました。
真っ白な正装の将官服には数多の略章が飾られ、わざわざ紹介文に「キルマーク数歴代二位」と書かれていた。
超〜強キャラ。ちなみに一位は主人公が軍属になるキッカケになった伯父。
しかもその伯父と昔バディだったという過去でいわく付き。これはその時の主人公の心情描写にあったからガチ。
そんな美しさで読者を圧倒して来た推しは、自分の信頼する部下たちの前ではすぐに髪型を雑に崩して、息苦しいと言わんばかりに将官服を脱ぎ、さっきの威厳どこいったってくらいやる気の無さげな憂い顔をする。それも「キメ顔ですか?」ってくらい美しい。
やる気は無さそうに見えるし、実際たまにサボって副官にお小言されてたりするけど、仕事は超優秀。ちゃんと書類仕事は提出期限前に出す、軍人として締めるところは締める。
主人公にだけはかなり当たりが強いけど、周囲にとっては理想の上官。
ただ主人公に当たりが強いのも理由があって。
かつての自分の恩人でバディだった主人公の伯父を戦場から帰してやれず、その人が息子同然に可愛がって居た主人公を必ず生かすために厳しい訓練を自ら指導してたんだよね。
それで主人公が強くなっていく度に「私は彼を死に向かわせてしまっているのではないか」って悩むの。
ちょっと不器用で少しわかりづらいけど、めちゃくちゃ優しいんですよ。
そもそも「そらのまんなか」は中世的な世界観だけど、国の外にいる怪獣と人型ロボットみたいな魔導外装っていう機械に乗り込んで戦うファンタジー作品だ。
魔導外装に乗れるのは国の中でも一部の「特別な因子」を持つ人しかできない。
その「特別な因子」を持つ人は高位貴族に多いけれど、たまに平民からもそういう人が出る。
実際、平民の主人公の母は怪我で退役した軍人だったし、亡くなった父親も軍属で戦闘中に死亡した。もちろん主人公の母親の兄である伯父も平民。
そんな主人公の指導役になったマーガレットは、北の守護者、スカイウィング公爵家でも歴代最高の軍人と誉高い。
「妖精姫」とあだ名された母親譲りの美貌と、「氷の知将」と云われる祖父スカイウィング公爵の冷静で知略に優れた用兵を引継ぎ、尚且つ自身も「銀翼の戦女神」と称されるほどのキリングマーク持ち。
ね?強キャラでしょ?
だからこそ「主人公の最初の壁」なんだよね。
でもマーガレットには高位貴族として致命的な欠陥がある。
父親が不明なことだ。「妖精姫」が身篭ったのは、とある夜会での一夜の過ちだった。
マーガレットの母は絶対にその相手を明かさず、自分の父母にも「とっても素敵な方よ」だけで済ませて口を割らなかった。それは自分の娘にも。日記にすら残さなかった。
妖精姫様、「とっても素敵な方」は女を孕ませておいて放置しないと思います。
そのせいかマーガレットは適齢期になっても婚約者が決まらず、家臣団からは面倒な見合いを押し付けられていた。
そこで登場するのが、「ダリア・シオン・スカイウィング=エアルドフリス」。
マーガレットの異父妹で、スカイウィング家からエアルドフリス皇へ嫁いだ妃だ。
そう、前世のわたくしである。
ダリアは三男一女とここ数代の皇家においてはかなりの多産な皇妃で、歴代のように子供を産むためだけの側妃を持ちたくない、というエアルドフリス皇の方針に反対した貴族院を五年で黙らせた。王位継承権争いすら必要のない完璧な形で収めたからだ。
マーガレットは当初、異父妹となっているダリアの産んだ三男をスカイウィング家に迎え入れようと考えていた。
実際にスカイウィングの血筋が残らなくても、ダリアは「妖精姫」が産んだ父親似の子ということになっている。
妖精姫がマーガレットを出産してから、公爵家本邸から公的にも私的にも一歩も外に出なかったこと、そしてマーガレットが完全な母親似で、父親が不明だったからこそ出来た荒業だ。スカイウィング公爵は状況を逆手に取ったのだ。
もちろん皇家は全てを知っている。
ダリアは実際には他家からもらった養女であるが、スカイウィング公爵家本邸にいる一部の者しかその事実を知らない。スカイウィング家の抱える家臣団ですら知らされていないことだ。貴族院なんてもっての外。
マーガレットの思惑通り、皇家の三男をスカイウィング家に養子へ出せば、皇家の貴族院への発言力が増すという利点がある。皇家はその取引を受け入れていた。
ダリアがスカイウィング家から連れてきた侍女に殺されるまでは。
スピンオフで犯人であるジュゼ視点の単話が公式ガイドブックに掲載されていた。
言い分としては、「スカイウィング公爵家当主はもちろん正当な後継であるマーガレット様こそ相応しい、だけど皇妃に収まるのが下級でも貴族とはいえ他家から養女に迎えた女が、マーガレット様以上の待遇を受けているのが気に食わない。その皇妃の座も本来ならマーガレット様にいくはずなのに!」という、主家の意思をガン無視したものだった。
だからダリアが皇妃の務めとして子供を産み、マーガレットが結婚適齢期ギリギリのラインを狙って犯行に及んだのだ。
行き過ぎた忠誠心が暴走した、ただの迷惑である。
そのせいでマーガレットは皇家に嫁ぐことになり、妹殺しの誹謗を受けながら皇妃にたち、ダリアへの罪悪感と戦場に残した戦友たちを案じながら、皇妃の役目もきっちり果たしたあとに、自ら主導したプロジェクトを完遂させて死ぬのだ。
すり減ってしまった心で、「かつての恩人と同じように死にたい」という願いだけを抱いて。
号泣した。
そりゃあもう号泣した。
プロジェクトのために主人公の前に再登場したときなんて、麗しさは増したけど別人のようになっていた。
それが腑抜けたように見えた主人公と対立したときですら、諦めたように歪に微笑み、「かつての戦友だったあなた達が生きているだけで、私は私のことを許せる」と最初から和解を拒絶した。
その陰った表情すら美しくて泣いた。
全部ジュゼが悪い。そりゃあもう果てしなく憎い。
よくもわたしの推しを不幸にしてくれたな。
だから今度は、今度こそは、前前世の原作知識フル活用して、前世で身につけた権謀術数を駆使し、マーガレットお姉さまを全力で幸せにする。
神様、二度もチャンスをくださりありがとうございます。
そして作者よ、ごめんなさい。
ガチオタ、原作ぶっ壊します。
え?前前世の死因?
そんなの気にしてどうするんです?
まあ……白昼堂々強盗に押し入られてお客様を守った末に死亡しましたとだけ。




