四月の白雨
激しい雨が古めの校舎を強く打ち付ける。
空気全体が振動している様に感じられるのは雨のせいだろうか。それとも、淋しさのせいだろうか。
踊り場から見える景色は暗く、街を帳で包む。ぼぅ、と見つめているのはただ暇だから。でも、こういう時間が一番好き。
私だけの空間だと錯覚してしまう。私だけ濁流の中、中島に取り残されている。
現には戻れない事を知っていたのに、なぜか縋ってしまう。
腕を上げ、欠伸をしていると、後ろから足音がしてきた。振り向くか数秒悩んだ末、ゆっくりと後ろを見た。
「何してんの?」
少し低い声。しかし、どこか上振れている様に聞こえる。
「眺めてる」
正直、自分でも何を言っているか分からないけど。全てを伝える事は良い事だと思う。
それに、ある程度自覚はしている位、ちょっと変な感じはする。普通のつもりだけとよく見ると違う気がしてしまう。気のせいなら良いのにな。中途半端が一番困る。
「……何を?」
「何か全体」
「成程」
何が成程何だろう。
そういう適当な所というかノリに魅せられるのかな。
彼は私の横辺りへと歩みを進める。胸は決して高鳴らない。冷静沈着に受け止める。正でも誤でも。
「高い所って……怖くない……?」
「まぁ、確かに怖いけど、それ以上に綺麗だから」
「えー……。下見ると怖くない?」
「あんま意識しないようにしてたのに!私だって椅子の上で立つのだって怖い位、高所恐怖症だよ!」
「ごめんごめん。でも、俺もそういうレベル」
じゃあ言わないでくれよ……。まったく。
別にそれが嫌いになったりする要因にはならないけど。むしろ炎が燃えてゆく。
「何かあんまり共感はされないけど、そういう自分だけが持ってる感情……?あるよね」
「あぁ、分かる分かる。私、視力検査とか聴力検査とかゲーム感覚でやってるもん」
「それは……分からんな」
彼は笑った。笑ってくれた。
「っていうか、部活大丈夫?部長じゃなかった?」
「あっ、やば」
「えっ……。大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。特にやる事も無いし」
でも、やっぱ部長としての示しがあるんとちゃうん。とはいえ、私が言える事では無いけどな。逃げた私が……。
「みやっこーって何か部活やってたっけ?」
「んー……。入ってないよ」
心臓が苦しい。どうして逃げたんだろう。いや、もうそんな事どうでもいいか。今を幸せにしたいから、もう振り返らない方がいいよね。そう、信じているけど……。
「じゃあ、そろそろ行くね。また、明日」
まだ、届かないかもしれない。一緒に居る事は難しいかもしれない。だけど、頑張るから。貴方の隣でもっと笑えるように。貴方を守れるように。
「うん。また、明日!」
彼は反動を付ける様に動き、下へ降りる階段へと向かった。
階段を下りて行く音が聞こえる。音が聞こえるだけ。目を逸らしているから。彼が振り向いているか、そのまま進んでいるかも知らない。
嬉しかった。緊張もしたけど。
明日も頑張ろう。他でも無い自分の為に。
雨は止み、雲が少し割れ光が零れていた。