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第29話 諸勢力②


 王都冒険者ギルドにてガルドがカティアからスケルトン・ロードの討伐の報告を受けていた同時刻。


 ここ―――王都エルディア最奥のエルドグレイス城。数十メートル毎に巨大な円柱が設置されている。円柱の中には、城壁を守る王国兵士が10人待機しており鼠一匹入ることができない堅牢な護りが形成されている。

 貴族といえども顔パスで通ることができない城門を潜るとまず目に入るのは、細部まで施された庭園。そして城門からただ一直線に敷き詰められたレンガの道。雨天でも馬車が安全に進行できるようになっている。

 舗装された道を進むと1つの華美な建物―――ローゼリア宮殿が見える。城内と城外は正に天と地。この天を支配する一族こそアーディロン王家だ。


 国民に寄り添い争いを嫌う温厚なレオファルド三世が治める王国。その温厚な性格から貴族派閥と自身の派閥、さらには息子たちの派閥にすら良い顔を見せる。どっち付かずな態度から陰では日和見国王として蔑まれていが、彼の治世において問題が起きたことはない―――アルドリンが全王国兵の約1割に上る軍1万を率いて壊滅的被害を出したこの時までは。






 ローゼリア宮殿の一室。華美なインテリアとは対照的に部屋に集まっている王家を含めた貴族たちは暗い表情を見せていた。正確には一部の貴族いわゆる第一王子派と第二王子派は笑みを零さないよう注意していた。


「いくら殿下と言えども此度の件は無罪放免とはいきませんよ、陛下」

「まったくその通りですな」


 とある貴族の苦言に賛同する別の貴族の男。その言葉はまるで国王を追求するようであった。実際、その意味も込められていたことはレオファルド三世も気付いた。王の剣であり盾でもある男―――ダリウス・ノーラン・フェルド・ヴァルゼインは不敬な態度を見せた貴族を睨みつける。

 ダリウスは王派閥の最大貴族ヴァルゼイン侯爵家の嫡男だ。現ヴァルセイン侯が引退するまでの間、王との関係を蜜月にし地位を盤石にする。ヴァルゼイン家はそうして繁栄してきた。だが、王の守護騎士となるには途方もない鍛錬が必要であり貴族の子息が成るという条件こそあれどそれ以外に一切の損得は無い。

 そんな中、代々王の剣であり盾としてヴァルゼイン家が選ばれたのは、その実力と精神故である。ダリウスもまたその精神を受け継いでおり彼に睨まれた貴族の男は蛙が潰れたような音を出した。そのまま追撃するようにダリウスが口を開こうとするがそれは、彼が忠義を尽くしている人物―――レオファルド三世によって止められた。


 レオファルド三世は軽く上げた右手を下ろし重々しく口を開く。


「……確かにそうだな」


 騒然とする一同。

 確かに、レオファルド三世は日和見主義者として有名だ。しかし、それ以上に身内を大切に思っている。問題行動ばかりで国民からの印象も悪いガルハルトを処罰していないことからも察することができよう。だからこそ貴族たちは驚愕した。身内の罪を認めたことに。


 誰もが唖然とする中、バンッという叩きつける音と共にレオファルド三世の隣りに座っていた壮年の男―――ライオネル・エルディア・ヴァレン・アーディロンが立ち上がった。彼はそのまま苦言を呈する。


「父上!それは弟を罰するということですか?!」

「そうだ」

「ですが―――」

「兄上、いいのです。今回の遠征で相当の被害が出たのは事実。私を守護する親衛隊すらも壊滅したのですから」


 レオファルド三世の性格を悪い意味で受け継いだライオネルの激情を止めたのは、当事者であるアルドリンであった。彼は殊勝な表情を見せながら兄を止めた。彼の本当の姿を知っている者が見れば、あまりの豹変ぶりに己の脳を疑うだろう。


 アルドリンの裏の顔を知らないライオネルは不憫な弟を救わんと再び口を開く。


「だが―――」

「ちっ。兄者もお人好しが過ぎる」

「ガルハルト……」


 ライオネルの言葉はもう一人の弟―――ガルハルト・エルディア・ベルク・アーディロンによって遮られた。彼はアルドリンを一瞬見て鼻で笑うとライオネルを見る。


「既に父上が決めたことだぞ。国王の決定を覆すことは王太子である兄であろうとも不可能だ」


 どこまでも突き放すような言いぐさ。だが、彼の言葉は正しくライオネルは反論することができなかった。

 ライオネルは同じく可愛い弟からの追及に怯みながらもアルドリンのために弁論を続ける。


「ガルハルト、何もそこまで冷酷に―――」

「やめよ」


 ライオネルの言葉は三度遮られた。次は国王であり彼らの父親でもあるレオファルド三世であった。


「私を敬う気持ち、そして弟を思いやる気持ち。どちらも理解できる。その上で今しがたアルドリンへの罰を決めた。そなたの親衛隊を軍へ併合並びに軍指揮権の剥奪。そして1年間の謹慎を言い渡す」

「陛下それはあまりにも―――」

「其方らの言い分も分かる。だが、ここはつまらぬ親心に免じて許してはくれまいか」

「ち、父上!」

「陛下!」


 アルドリンの処遇に納得が行かなかった有力貴族の1人がレオファルド三世に苦言を呈そうとするが、それよりも先にレオファルド三世が部屋に集う貴族たちに頭を下げた。

 今日何度目かの驚愕。貴族ですら滅多に頭を下げない。国王に至っては尚更だ。レオファルド三世の側近である宰相ですら記憶に無い。例外中の例外だ。


 圧倒される貴族たちだが、このチャンスを逃す手立てはない。各々の陣営に有利になるようレオファルド三世から言質を取ろうとする―――ことはできなかった。


「王家あっての我ら貴族。陛下のお言葉を否定する者などどこにも居りますまい」


 そう口にするのは、エル・ラインを支配する辺境伯ドレイク・ライン・フェルド・バルデウス。前辺境伯から爵位を受け継いだ後もアルドリンではなく国王派に付いている貴族だ。


「……辺境伯。すまん」

「陛下が謝ることなど何もございません。それで陛下。本日の会談は以上ですか?」

「あ、あぁそうだとも。どうかしたのか?」

「いえ、此度の件。不敬は承知ですが、殿下に少しお灸を据えたいと思いまして」

「ほどほどに頼むぞ」

「かしこまりました」

「これにて此度のアヴェリス公国征伐の王国軍壊滅の責を問う会談は終了とする。意義のある者は居るか?……では解散だ」


 これまで静観していたドレイクが存在感を示した後、淡々と会談が終了した。貴族たちの心情は歓喜で埋め尽くされていた。王国の影の支配者として君臨していた第三王子派の力が一気に削れたことに加え、アルドリンの処遇に関しての国王の謝罪だ。王族であろうとも廃嫡は免れぬ被害を出しても王家として残すことに対する謝罪を貴族たちに示した。この事実は今後王家と交渉をする上で良い材料となりえる。


 部屋から続々と貴族たちが退出していく。ライオネルも王太子としての公務が残っているため後ろ髪を引かれながらもその流れに沿って部屋を後にする。

 アルドリンの横を通る際、「兄としてできることはしてあげるよ。心細く思わなくて良い。ガルハルトもそう思っているはずだよ」と呟いた。彼は暗い表情から少しだけ笑みを見せた。ライオネルは、その顔を見て余計にガラスのように脆く儚いように思えてならなかった。


 ガルハルトも座から立ち上がる。彼も同じようにアルドリンの横を通る際に言葉を残した。だが、それはライオネルのように彼を心配する言葉ではなく宣戦布告のようなものであった。

 何を呟いたのかアルドリン以外誰も聞き取れなかった。ガルハルトは一言二言呟きアルドリンを蔑んだ瞳を向けた後、部屋から姿を消した。


 ドレイクを除いた貴族たちが退出したことを確認したレオファルド三世は、大きなため息を零した。それを聞いたドレイクは彼を労わるように優しい瞳を向ける。


「お疲れ様でございます、陛下。此度の件、とても残念ですが命あっての物種。まずはアルドリン殿下が生き残ったことを喜びましょう」

「あぁ、そうだな。それにしても済まないなアルドリン。流石にこれ以上の譲歩は難しいだろう」

「何をおっしゃいますか。父上のおかげでまだこうして私の口で目で感情で話すことができます。あのままでは良くて国外追放もしくは永久監禁でした。改めてありがとうございます」

「うむ。だが、お主のおかげで王国は再び領土を取り戻すことができた。それを忘れるな。今はできないが、謹慎後望む物を其方に与えよう」

「有難き幸せ」


 アルドリンは座から立ち上がり膝を付いた。今アルドリンができる最上級の感謝の表現だ。それを見たレオファルド三世は、満足そうに頷くとダリウスを連れて部屋を後にした。


 部屋に残るはアルドリンとドレイクの2人。先程まで部屋に広がっていた雰囲気は消え静寂が部屋を支配する。先に口を開いたのはアルドリンだ。


「叔父上、ありがとうございます」

「気にするでない。可愛い甥が困っていたんだ。助けるのは当たり前だろ?」


 ドレイクは怪しく笑いながらそう言った。

 バルデウス辺境伯家は代々王家に忠誠を誓っている。王家もアヴェリス公国との国境線に位置する重要な土地を治める貴族を蔑ろにするわけにはいかないため女が生まれた時は、娶り逆に王女を与えるなどして繋がりを強固にしている。

 エルドリオン王国に限らずどの国家も国境付近の辺境伯はその土地を守護するため強い領軍を所持している。その治世が余程の愚か者でも無ければ辺境伯との繋がりを大事にするのは当然のことだ。

 レオファルド三世もその例に漏れずバルデウス辺境伯家長女を第二夫人として迎え入れ第三王子アルドリンを生んでいる。王位継承権こそ第三位だが、彼の有能さは誰もが知る所でありレオファルド三世もそれに合わせて褒美を与えている。バルデウス辺境伯家が始まって以来の好待遇に王家への忠誠心は増す一方だった―――前辺境伯家の頃までは。


 10数年前、前辺境伯から爵位を譲渡されたドレイク。彼も先祖代々受け継いだ王家との繋がりを重視する方針を取っていたが、水面下でとある計画を立てていた。


―――王位簒奪。


 アルドリンを国王にし、自身を侯爵の地位に押し上げ宰相となる。そして自身の都合の良いようにエルドリオン王国を動かす。それが彼の目標だ。

 アルドリンはドレイクを冷めた目で見ていた。傀儡にするつもりの相手からそのような目で見られているとは思いもしないドレイクは、数年後の未来を想像しては笑みを零した。


「親衛隊は解体され軍指揮権の剥奪。更には1年間の謹慎。これで第二王子派は動きやすくなりましたね」

「くくくっ。我の策とも知らずにな」


 全てが掌の上と言うドレイク。だが、彼もまたアルドリンの掌の上で踊らされていることに気付かなかった。


(父上以上の力があるとはいえ国内だけだ。裏で暗躍するのも限界がある。別に王位に興味はないが……セレネに関する情報は少しでも欲しい。恐らく裏に居るのはSランク冒険者と同等かそれ以上の実力者の可能性がある。

 クソッ!横からかっ攫いやがってッ!……ふぅ。だが王になればダリウスとヴァルゼイン家の力が手に入る。その力とより高質な親衛隊を結成すればSランク冒険者の1人や2人簡単に殺せるはずだ)


 クククッと2人は笑い合った。


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