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第28話 諸勢力①


 エドリオン王国王都冒険者ギルド。王国冒険者ギルドの本部。

 王都付近は王国兵士による徹底的な魔物駆除が功を奏しており、王国内でもっとも安全な場所として認知されている。滅多に魔物が発生しないため冒険者ギルドでは閑古鳥が鳴くだけだ。時折、Aランク昇級試験のために国内から冒険者が集中することがあるが、それを除けば暇な日が多い。

 もっともそれは受付嬢の話だ。ギルドマスターを初めとした幹部は激務に襲われている。王国内で討伐された魔物の情報、死亡した冒険者の記録、回収した魔石の数、貴族や豪商からの依頼。これら以外にもあらゆる情報が一辺に集う場所―――それが王都冒険者ギルドだ。


 王都冒険者ギルドへの情報伝達方法は主に2つ。

 1つはギルドマスターの定例会。数か月に1度、各都市に点在するギルドマスターが王都に集い見込みがある冒険者や魔物の発生具合などを報告する。

 1つは≪伝言/メッセージ≫による情報共有。地方のギルドマスターでは判断が付かない事や緊急を要する事案を伝えている。高ランク冒険者の死亡や地方では対処困難な魔物が出現した際に、高ランク冒険者を派遣している。


 集まる情報が多いため必然と資料も多くなる。王都冒険者ギルド最上階のギルドマスターの執務室は、現在大量の紙が部屋に散乱している状態だ。1枚拾うとそこには、王国のとある場所にていつもよりも多くの魔物が発生しているとの報告が記されていた。追加で1枚拾うと先月の魔石収穫量が記されていることが分かる。

 床に散らばる資料を拾い上げ机にまとめて置く女―――カティア・ロウラン。化粧により30代中盤とは思えない美貌だ。年齢を公開していないため若い冒険者たちは少し年上の女として惚れる者が多い。彼女自身このままでは行き遅れてしまうと思っているため、若い高ランク冒険者をひそかに狙っている。

 そんな婚活中の彼女の視界に写るのは、資料に埋もれた机に突っ伏した男。その男の肩幅は大きく服の上からでも筋肉が張っているのが分かる。カティアの倍近くある極太の腕。彼を見れば誰もが冒険者だと思うだろう。


 その考えは正しい。

 彼は元Aランク冒険者ガルド・ヴァレン。ここ王都冒険者ギルドのギルドマスターを担っている。前任のギルドマスターから半ば押し付けられるように任せられてしまった。当然、事務経験は無いため今に至るまで書類作業は彼の苦手とする分野だ。


「起きてください!」


 カティアは、数枚の資料を丸めるとガルドを起こすために彼の頭目掛けて力の限り振り切る―――ことができなかった。頭に接触する寸前、脱力していたはずのガルドの腕が条件反射のように紙を握りつぶした。


「何してんだぁ……?」


 ガルドは寝ぼけた脳を回転させながら現状を把握する。目が覚めると彼の秘書であるカティアが驚いた表情を見せていた。


 彼女は仕切り直すために軽く喉を鳴らす。


「ご報告いたします。スケルトン・ロードが討伐されたとの一報がありました」

「スケルトン・ロードの討伐だぁ?」


 ガルドはカティアの言葉により完全に目が覚めた。


 スケルトン・ロードはAランク上位の魔物であり、過去には国家を滅ぼしたことから『国堕とし』の異名が付けられている存在だ。そんな伝説に片足を突っ込んだ魔物の登場そして討伐したという2つの事件が立て続けに起きた。これを聞いて疑惑の声を上げないギルドマスターはいない。

 ガルドもその例に漏れない。彼が現役の頃、数える程度だがAランク級魔物と対峙したことがある。当時のパーティーメンバーと共に討伐はできたが、時折思い出しては冷や汗をかいている。だからこそカティアの報告に疑問を抱いてしまった。

 だが、ガルドは王国においてもっとも立場が上なギルドマスター。有り得ないと経験から言っているとはいえ例外は何でも存在する。決めつけて行動することの危険さを彼は知っている。


 丸太のように太い腕を組み椅子に体を預け天井を見上げた。ガルドは完全に覚醒した頭をフル回転させ可能性を挙げていく。


 Sランク冒険者が討伐した可能性―――低。彼らは冒険者としての地位よりも己の実力を伸ばすことを目的としたり祖国防衛のために己を鍛え上げる者がほとんどだ。

 つまり俗物的な者は少ないため、たとえ高ランク魔物を討伐しても冒険者ギルドに報告することなく武器の素材や祖国への献上品とすることが多い。カティアの報告が正しければ、スケルトン・ロードが討伐されたことが分かっている。彼らが討伐した魔物をそのまま放置するだろうか。その点を考慮するとガルドはどうしてもSランク冒険者が討伐したとは思えなかった。


 生まれたての個体だった可能性―――中。他の生物同様、魔物は番を作り新たな個体を生む。スライムのような種族は、分裂することで己のコピーを作り種を存続させる。では、アンデットはどうだろうか。あれらはどのように個体を増やすのだろうか。民衆の間では、未練や恨みによって動いていると考えられている。だが、これはただの俗説だ。これまでの冒険者ギルドの調査により、ゴミだらけの場所でウジ虫が湧くように魔力が濃密な場所にて魔物が湧く―――最初の魔物はそのように誕生したという説が濃厚だ。アンデットの場合、近くにある死体が魔力と結びつきアンデット系魔物へと至ったのではないだろうかと考えられている。

 通常種やアンデットに限らず生まれたての個体は弱い。だが、それは該当ランクにしてはということになる。スケルトン・ロードはAランク上位であり、生まれたての個体であれば下位程度になるだろう。それでもなお脅威でありAランク冒険者が1人で対処できる相手ではない。

 現在、Aランク冒険者パーティ―は王家の高ランク冒険者優遇政策を受けて王都に留まっている。つまり、対処可能な存在が居ない―――はずだ。

 王都を離れたAランク冒険者が一瞬、ガルドの脳裏に過った。しかし、彼がパーティ―を組んだという知らせは受けていない。もしかするとパーティ―登録申請をしていない可能性もあるが、そこまで行くと思考の沼に嵌ってしまう。ガルドは少しのシコリを残しながらも次の可能性を考える。

 

 スケルトン・ロードを他の魔物と見間違えた可能性―――大。冒険者ギルドには日々大量の魔物が卸されている。魔物の素材や魔石を冒険者から買い取る際、魔物のランク、素材の状態等を調査する。調査者は受付嬢とは異なり各冒険者ギルドが正式に雇っている魔物のスペシャリストだ。だが、専門家といえども人間であることには変わりない。ただ注意すべき点はスケルトン・ロードを他の魔物と見間違えることは有り得ない点だ。魔石の純度や大きさ、そしてスケルトン・ロードの素材が他の魔物と一閃を隔すからだ。

 つまりスケルトン・ロードではないが、それと見間違えるほどの魔物ということになる。ガルドには心当たりがあった。死之魔法詠唱者―――リッチだ。同じスケルトン系でありAランク級魔物である。スケルトン・ロードよりも討伐数自体は多いが、それでも通常の魔物に比べれば圧倒的に少ない。リッチに限らず高ランク魔物の出現は滅多にないため何か良からぬことが起きるのではないか。ガルドはそう思わずにはいられなかった。


 椅子の背もたれに体を預け、無精ひげを弄りながら瞬時に可能性を挙げていく。その姿はまさしく王都冒険者ギルドマスターだ。

 カティアは初めてその姿を見た時の衝撃を思い出しながら報告の続きを始める。


「エル・ラインと旧アヴェリス公国との間にある大森林にて突如出現したゲートについては覚えていますか?」

「たりめぇだろ。誰が王家と交渉したんだと思ってんだ?」

「勿論知っていますよ。流石、王都冒険者ギルドマスターです」

「よせよせ。あいつらは、冒険者を魔石と同じ消耗品か何かと勘違いしてる節があるからな。あのままだったら恐らく、金に目が眩んだ冒険者が大量に死んでいっただろうよ」


 カティアの言葉を受けガルドは記憶に新しい王家―――エルドリオン王国第三王子アルドリン・エルディア・ライン・アーディロンとの交渉を思い出す。


 アヴェリス公国征伐から帰還する途中、エル・ライン近郊の大森林が広がる大地にて突如出現したゲート。元冒険者から構成される親衛隊が調査し、スケルトン系が跋扈する異世界であることが分かった。アルドリンは冒険者ギルドに好待遇で更なる調査を依頼した。

 それに待ったを掛けたのがガルドだった。当初、アルドリンは王都ではなくエル・ラインの冒険者ギルドに依頼を出していた。ガルドはそこに違和感を抱いた。貴族や王家が冒険者ギルドに依頼を出す時は、支部ではなく本部に出すことが常識だからだ。


 ガルドの直感は正しかった。彼が確認した内容は一見すると未知の開拓。だが、ゲートについて知れば知るほどその危険性が見えてくる。

 察知するやいなやガルドは、エル・ライン冒険者ギルドから交渉を引き継ぎアルドリンと対峙した。そして依頼のランク設定とゲート活動を支援することを約束させることに成功した。もっともゲート内の拠点作成時にひと悶着あったが。


「それで何でゲートなんか―――そういうことか」


 ゲートの話とスケルトン・ロードがどういう繋がりなのか疑問が浮かんだが直ぐに解消された。ガルドの気付きが正しいと言わんばかりにカティアは口を開く。


「はい。エル・ラインゲート街冒険者ギルドマスターより≪伝言/メッセージ≫がございました。『スケルトン・ロードが討伐された。私が見た限りでは、恐らく本物だが念のため精密に確かめて欲しい』とのことです」

「……あの婆さんが言うんだ。多分、それ合ってるぜ」


 ガルドは、冒険者時代に何度もお世話になった老女の顔を思い出しながら言い放った。魔物や人を見る目において彼女の右に出る者は居ないと彼は確信しているからだ。


「事実だとするととんでもないことになりそうですね」

「あぁ。討伐した冒険者もそうだが、その素材を巡って一波乱ありそうだ。まさか王国の連中、隠してたんじゃないだろうな?」

「まさか。たとえ王国といえども冒険者ギルドに対して信頼を失うようなことをしますか?」


 2人はスケルトン・ロードが討伐されたことを前提に話を進める。高ランク魔物の素材は財宝の塊だ。商人は勿論、魔法ギルドやコレクターなども求めている。それは王家とて同じことだ。ガルドは冒険者に抜け駆けされないよう情報を制限したのではないかと疑った。

 だが、カティアは有り得ないと言いたげな表情を見せる。彼女の言う通り冒険者ギルドに偽情報や悪意ある情報を渡し私的に利用しようと国家が試みることはタブーとされている。


 冒険者ギルドは国家に干渉されない独立組織だ。

 仮に国家が冒険者ギルドを自国の利益のために利用した場合、本部を含め該当国家から完全撤退をルール付けている。


 過去に、冒険者ギルドを戦争に利用しようと試みた国家があった。その陰謀に気付いた本部のギルドマスターが撤退を宣言したことにより、その国では冒険者活動が縮小していった。冒険者の数が減ったことにより都市のライフラインである魔石が全く手に入らなくなった。更には、魔物を間引く存在が数を減らしたため魔物の発生率が上昇。国家は兵士を派遣し魔物殲滅に翻弄されている隙に、敵対国家に攻め入れられ占領された。

 この情報は人から人へと瞬く間に伝播していき諸外国の統治者へと渡ったことで、国家は冒険者ギルドに関与しないという暗黙の了解を作った。これにより冒険者ギルドの方針である国家不干渉の原則を確立させることに成功した。もっとも相手が大国の場合、冒険者ギルドも一目散に撤退というわけにはいかない。所詮は冒険者ギルドも利益組織だ。大国内で活動することの恩恵は計り知れない。


 カティアはエルディア冒険者ギルドの職員としてこの考えが染み付いている。だからこそ国家存亡に関わるスケルトン・ロードの存在を知っていて報告しないことは有り得ないと思った。

 勿論、これらについてはガルドも承知している。だが、その上で疑うことを止められない。


「分からないぜ?影の支配者と言われている第三王子様なら何かしでかしそうだがな。そう言えば、討伐者はどこのパーティ―だ?」


 スケルトン・ロードの討伐から話がズレたため軌道修正するように討伐したパーティ―について尋ねた。カティアは淀みなく答える。


「パーティー名は無し。Aランク冒険者『切り裂き』ジャックをリーダーとしたFランク1名、Dランク2名、Cランク1名の5人パーティ―です」

「『切り裂き』ジャックか……」


 ガルドは苦虫を嚙み潰したような苦い顔をしながら呟いた。


「何か覚えが?」

「あいつの前に立つ者は、魔物人間問わず切り刻まれることから付けられた二つ名だ。仲間殺しは冒険者ギルドの法に反することだ。だが、アイツは匠に法の穴をかいくぐり殺している―――俺はそう睨んでいる」

「危険人物というわけですね」


 ガルドは元冒険者だからこそ分かるジャックの裏の顔をカティアに伝えた。


 『切り裂き』という2つ名の意味は、ギルド職員と冒険者の間で乖離している。

 ギルド職員は他の冒険者よりも多くの魔物を狩り取っており、魔物に刻まれた幾つもの切り傷から呼んでいる。

 一方の冒険者は、ジャックの前に立つ者は魔物や人間に関わらず誰であろうとも切り裂く姿から連想している。実際に、ジャックと一緒に盗賊狩りに出向いた冒険者は彼が喜々として人殺しを行う姿を見たと言う者もいる。


「実力は確かだがな。それにしても『切り裂き』か。王国内でもっともSランク冒険者に近いと言われているアイツなら討伐してもおかしくない。恐らく総力戦だったのだろう。生き残りはジャックだけか……はぁ、冒険心は大事だがまずは命を大切にして欲しいものだ」


 ガルドは犠牲になった冒険者を考えながらため息をついた。


 Aランク上位同士の激戦だ。並のAランクであっても生き残るのは難しいだろう。ガルド自身、今スケルトン・ロードと出会って生き残れと言われても不服だが不可能だと言う他無い。


 だが、カティアの報告はまだ終わっていなかった。


「いえ、実はもう1人生き残りがいるそうです」

「何?ありえん。Aランク上位同士の戦いだぞ。狭いゲートで生き残れるわけがない」


 スケルトン・ロード討伐と同じく信じられない事態だ。

 ゲートは外のように広くない。通路と通路を繋ぐ空間があるが、逃げるという点においては制限される。そして追い打ちを与えるように通路の存在がある。1本道であるため敵を巻くことが難しい。仮に、敵を巻いたとしても混乱状態の中、冷静に簡易拠点まで辿り着けるかどうか怪しい。スキルや高価なスクロールを持っていない低ランク冒険者であれば尚更だ。


 そしてスケルトン・ロードの存在。この魔物の真骨頂は、スケルトンを無限に湧かせるスキルだ。未だ解明が進んでいないが、スキルによりその地で死んだ生命を蘇らせスケルトンの軍勢を作っているとされている。

 スケルトンの世界と呼ばれているゲートでそのスキルを使えば、その脅威はSランク冒険者を越えるのではないかとガルドは思った。


 だが、ジャックの他にも生き残った者がいる。その者の豪運もそうだが、何より迫りくる死の大群を前にして生き残る実力を持っていたはずだ。

 ジャックが討伐するまでの間、スケルトンの波に耐え抜いた者―――恐らくCランク冒険者だろう、ガルドはカティアの報告を受け取りそう考えた。


「Cランクか。幸運が重なれば辛うじて生き残りそうだが……。本人の実力が無いと生き抜くことはできないだろうな。特別ランク上昇を行うべきか」


 貴族の前であろうとも公平を貫く冒険者ギルドだが、物事を円滑に進めるためには何事にも例外は存在する。

 特別ランク上昇もその1つ。多くの場合、大国の王家やそれに連なる貴族の子息等が、若気の至りとして冒険者活動を行う際に適用されている。件のCランク冒険者であればランク試験に融通を利かせなくとも突破できるだろう。だが、ここで特別待遇を行うことで冒険者ギルドへの帰属意識を強化させることを狙った。


 だが、ガルドの言葉は再度カティアによって否定される。


「いえ、違います。Fランク冒険者です」

「……何を言ってるんだ?」

「もう一度、言います。Fランク冒険者です」

「……そいつの名は?」

「―――サクラギ。白髪の青年です」


 スケルトン・ロードとジャックの戦闘から生き残った青年―――サクラギ。

 ガルドの興味は『国堕とし』や『切り裂き』以上にサクラギ―――ハルへと向かった。


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