表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

第25話 <支配>


 腕に付着したアランの血を落とすように腕を振り抜く。三日月を描くようにアランの死体に血液が掛かった。


 死体となったアランから酷く困惑している様子が窺える。その真意について彼を蘇生させ聞くことはもはや不可能。底なし沼に嵌った物体のように、彼の死体が徐々に地面へと沈んでいく。終に残ったのは、これまでの冒険で培ってきた結晶―――魔石のみ。スケルトンよりも大きくナイトに匹敵する程の大きさだ。その魔石すらエターナル・ヴェインに吸収され、アランの痕跡はどこにも存在しなくなった。


 唯一、アランの最後を知る者であるジャックとハルは、既に彼のことなど眼中に無かった。

 彼らの興味は互いのことだ。ジャックは次なるターゲットであるハルを前にして、闘争心をむき出しにしいつでも飛び掛かれるように肉体を準備している。ハルは何時の間にかパーティ―が壊滅しており、リーダーであるジャックが己を襲うとしている現実に困惑している。


 両者の温度差は歴然。だが、これから起きることは両者とも理解していた。


 双方の瞳が交差する。最初に仕掛けたのは、やはり獣と化したジャック。ドンッという音が聞こえる程、強く床を蹴り上げハルとの距離をゼロにする。武技やスキルを使わず素の力でククリナイフを大上段から振り抜く。


「グラァアアアアアア!!!」

「強いな」


 ガギンという耳が痛くなる音。極上の硬度を誇る武器が衝突すると同時に飛び散る火花。一歩遅れて空間に走る衝撃波。

 ハルは片手で横一文字に刀を構えジャックの攻撃を受け止めた。大上段から振り抜かれた攻撃だがハルは涼しい顔のままだ。

 拮抗状態―――正確には、ハルが手を抜いている―――を打開すべく、ジャックはククリナイフを滑らせ鍔を弾く。ハルは、急に力の向きが変わったことで腕を大きく流された。だが、それはジャックも同じだ。武器が使えないジャックは空かさず腰の入った蹴りをお見舞いする。


「ガァアア」

「ダメージは無し、と」


 力が大幅に強化された蹴り。その威力はスケルトン・ロードを粉砕する程だ。生身の人間が受ければ最後、上半身と下半身が泣き別れすることになるだろう。その攻撃を真正面からそれも防御することなく受けたハル。だが、彼は痛がるどころか無傷に近い状態を冷静に分析する。


(前見た時は30Lv前後だと思ってた。だけどロード討伐に加えこの威力。40Lv後半ぐらいはあるぞ……それにしてもジャックの変わり様が凄い。姿が変わる特性はあるけどそれって一部の魔物だけで人間には無かったはず。EoCに人間種ってほとんどいないから詳しくは分からないけど。異世界独自のスキルなのか武技なのか。それとも魔法?わっかんねぇな。セレネ辞典も完璧じゃないだろうし。追加コンテンツみたいで面白いな)


 成長したスケルトン・ロードを単独撃破したこと、先程の攻防を考慮して、推定30Lvというジャックの前評価を訂正し40Lv後半はあると判断した。

 ハルは何故、ジャックが短時間の間でここまで強化されたのか知らない。スケルトン・ロードと激闘を繰り広げる中、何かしていたことは分かっているため何らかの強化を施したのだろう。


「グラァアアアアアア!!!」

「うぉ!……びっくりしたぁ」


 少し飛び上がり体を一回転させハルの顔に蹴りを入れた。突如、視界が暗くなったと同時に頭に衝撃が走るがダメージは無い。

 やられっぱなしも尺だ。ハルはそう思うと顔に接触した足を掴む。掴まれた足を解放するためにジャックは暴れるが、意に介さず掴んだまま床に叩きつける。


「―――ガハァッ」


 背に生じる痛みと共に、強制的に肺から一気に酸素が漏れた。あまりの痛みに意識が飛ぶ。だが、このままでは死ぬと本能で確信するとガバッと起き上がり手と足を使ってハルと距離を取る。ダメージを受けたと思わせない俊敏な動き。もっとも彼らにとってその距離は瞬きの間に詰めることができる。気休めにもならない。











 距離を取ったまま戦闘を再開せず時が過ぎること約数分。


 ジャックは獣になったとはいえ、考え無しの阿保になったわけではない。本能をむき出しにしているためハルの実力をその身で受け、逃げの択を取ろうとしていた。だが、強者と戦いたいという感情もある。2つの感情がぶつかった結果、ハルの動きを見て行動することにした。

 この場において逃げる選択肢は有ってないようなもの。仮にジャックが逃げようとすれば、ハルはその力を持って阻止する。逆に戦闘が再開されれば、これまで通りレベルの差によりハルの圧勝となる。つまり、この場を支配している者はハルだ。彼の行動次第で全てが決まる。


「うーん、どうしようか」


 そんなハルは今、悩んでいた。ジャックを殺すか、このまま見逃すか。どちらの選択肢も造作もないがそれぞれリスクがある。

 殺した場合、今後の冒険者活動に制限が掛かる可能性が高い。ハルとジャックはパーティ―を組んでいる。エル・ラインからゲート街の転移ポータルを潜るまでの間に多くの人間に見られた。ジャックをAランクだと気付いた者は全員ではない。それでも彼に気付いた者はいるだろう。Aランクが帰ってこずFランクが無事に帰還した。この情報は直ぐに冒険者の間で噂話として広がることが目に見えている。その噂話を聞いた冒険者から探られ付きまとわれては面倒だ。

 見逃した場合、こちらも同様に冒険者活動に支障をきたす恐れがある。正気に戻った時のジャックにスケルトン・ロード討伐からの記憶が残っているか分からない。仮に残っていた場合、ハルとジャックはお互いに秘密を知られていることになる。ハルは真の実力、ジャックは仲間殺しについてだ。冒険者ギルドにおいて仲間殺しがどの程度の罪に問われるか分からない。だが、罪であることには変わりないだろう。ハルが冒険者ギルドに通報することを恐れジャックが殺しに来る可能性がある。ハルの殺害は非現実的だが。


 どちらを選んでも厄介ごとに繋がる。楽観的に物事を考えるハルだが、冒険者としての活動に支障をきたすのは望まない。


「何か別の選択肢は―――あるね」


 ハルの脳裏に浮かんだのは、殺害でも見逃すことでもない第三の選択肢。ダンジョンマスターとして幾度も使ったスキル―――<支配>。

 魔物を使役する際に使うスキル。人間には使えないとハルは考えていた。だが、異世界に渡ったことで改変されたスキルもある。何より今目の前に居るジャックは人間でありながら獣のようだ。境界が曖昧になった今ならあるいは。


「試してみる価値はある。やってみようか」

「―――ッ!」


 そう呟くとハルはジャックとの間合いを詰める。ジャックは常に警戒していた。だが、いつの間にか視界からハルが消え、次の瞬間には目の前へと迫っていた。ハルが刀を横薙ぎに一閃。そこに武技やスキルといった技術は無い。ただの横振りだが、レベルによるステータスの暴力により一撃必殺へと昇華されている。ジャックは迫りくる死を前に指を咥えて見るしかなかった。


 死ぬ―――本能が警鈴を鳴らす。分かっている。だが、反応できない。唯一できたことは、待ち受ける痛みを受け入れることだけだった。


「グ、グラァアアアアアアアア」


 ハルの手がぶれるスピードで振られた刀。それはジャックの両腕をバターのように切り裂いた。

 焼けるような鋭い痛み。彼は耐えきれず獣のように咆哮を上げた。

 ハルは足元で蹲るジャックを見て人間らしい動揺を見せない。それ以上に、これからやることが本当に可能なのか。ハルの思考はそれ支配されていた。


 無い腕を天に掲げ頭を抑えるジャック。ハルは彼に掌を向けた。


「―――<支配>」


 掌に小さな魔法陣が出現する。魔法陣の先は虚空。そこから飛び出る無数の鎖。それがジャックの体を貫く。鎖の貫通にダメージが伴わないのか、将又両腕を切り取られた痛みで麻痺したのか。それとも別の理由があるのか。鎖が彼を貫くと嘘のように空間には静けさが漂った。


 先程とは違う雰囲気で俯くジャック。今の彼はまるで主の前で跪く従者だ。


(成功したのかな?)


 判断が付かないハルは、彼の顔を見るため命令する。


「ゴホン―――表を上げよ」


 玉座の間で大臣たちに言い放った言葉と同じ。だが、何故か分からないがハルは緊張することなく実行することができた。

 顔を上げたジャックの瞳にはハイライトが消えていた。意思の無い人形。ハルはそう思った。失敗―――その二文字が頭を過ぎるが、直ぐにその理由に気付く。


「あ、やっべ!このままじゃ死ぬ!<国家級回復魔法>」


 滝のように流れる血。床に流れる血は大きな水溜まりを形成していた。慌てたハルは<国家級回復魔法>を使った。これは、EoCにおいて瀕死状態から体力が半分まで回復する魔法だ。

 だが、その魔法は不発に終わる。魔法陣が形成されることなく魔力が霧散してしまった。


(な、何で―――ってそうか。スキルポイント振りができていなかった。クソッ……回復魔法が使えない。どうすれば……)


 ハルの体は代替体であるホムンクルス。異世界に渡った後で<魔物配合>から新たに誕生した魔物だ。しかし今に至るまでスキルが何も解放されていない。未だこちらの世界に来てからスキルポイントの振り分け方法が判明していないからだ。そのため魔法を国家級まで解放するスキル―――<賢者>がロック状態だ。唯一、所持している<ダンジョンマスター>は本体ではないため一部のスキルを除き制限されている。現状、ハル1人では打つ手なしの状況だ。


 このままでは出血死によりジャックが死亡する。ハル延いてはエターナル・ヴェインにとってみれば些細なことだ。冒険者活動も別の名前で登録すれば問題無い。更には、マジック系ではないとしてもAランク冒険者だ。その魔力量は他を凌ぐだろう。彼を取り込んだ時の臨時収入はこれまでのどの冒険者よりも質の高いものとなる。

 だがハルの気紛れか、それともここまで思考した上で全てが台無しになるのが嫌だったのか。ハルは彼を助けるために別のスキルを使用する。


「<召喚・セイクリッド・ドラゴン/聖竜>」


 上位悪魔―――ノワールを召喚した時とは対照的に真っ白い浄化されそうな色合いの巨大な魔法陣が広がる。眩い光が空間を照らす。光に目が眩んだ気がしたハルは一瞬目を瞑り再び瞳を開いた。


 ドラゴン―――純粋なステータスという点では強者の部類に当てはまる。強靭な攻撃力、何も通さない防御力。高い体力。上位種になるほどそれは顕著になる。ハルはEoCではタンク兼アタッカーとして重宝していた。

 ドラゴン、いや全ての魔物は環境に合わせて進化する。その中で神聖な地域で成長した個体―――セイクリッド・ドラゴン。


「セイクリッド・ドラゴン。<ヒー……いや。一応、俺も回復しておくか。<ヒール・ブレス>を使ってくれ」

「ゴルァ―――」


 マスターの命令を実行するべくセイクリッド・ドラゴンは動き出す。巨大な体に見合った翼を広げながら腹から高魔力が首を通り口元へと集約していく。高魔力に神聖属性が付与されたからか、口元が宝石の光のように輝き出す。


 勢いをつけるように首をしならせると床目掛けて咆哮。ブレスを浴びたジャックとハル。ドラゴンのブレスは殺傷能力が高い。

 だが、セイクリッド・ドラゴンのブレスは違う。神聖属性が付与されたブレスは全てを癒す。それは既に瀕死状態にあるジャックも同じだ。失った部位から嫌な音と共に新しい腕が生えた。ジャックだけではなくハルが気付かない内に消耗した体力を回復させた。


「いぇーい!一件落着!」


 エターナル・ヴェインの部外者が居ないため見栄を貼る必要が無くなったハル。計画通りと言わんばかりに元気よく宣言した。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ