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第21話 スクロール


 早朝。

 宿の一角で眠る―――というよりも目を瞑りエターナル・ヴェインの利益に繋がることを考えていたハルは、室内の誰よりも早くベッドから起き上がった。ジャックたちは、いびきをかきながらまだ眠っていた。だが、彼ら以外に部屋に居る人間は居ない。

 昨日の時点で宿から撤退したのか、それともゲートの先で死んでしまったのか。普通の人間であるならば、同業者が帰ってこないことを心配する。仮に、赤の他人であってもゲートに対して、英雄譚の舞台という幻想から誰しもが死んでしまう可能性があるという現実を突きつけられるだろう。己の実力を過信しなければの話だが。


 ハルの場合は違う。

 帰ってこない同業者を心配するどころか、むしろ面倒事に巻き込まれなかったことに喜びを感じていた。


 二段ベッドの上段から降りたハルは、まだ眠るジャックたちを起こさないよう慎重に部屋を移動する。ゲートに赴く冒険者の需要に応えるため急ピッチで作られた建物だ。ハルが歩く度に、静かな部屋にギシギシと床の軋む音が響く。


 1階へと向かったハルは、受付カウンターに座る人が変わっていることに気付く。


 冒険者の多くは、昼から夜にかけて活動している。ゲート街に至っては、手柄を多く立てるために長く籠る者も少なくない。そのためこの街では、一時も休む間もなく開店している所がほとんどだ。


「あ、おはようございます!お出かけですか?」

「少し店を見て回りたくて。スクロールが売ってる店あるかな?」

「それならゲート近くの天幕通りに行ってみるのはいかがでしょうか?確か、魔法系のアイテムも扱っている商人も居たと思いますよ!」

「分かった。ありがとう。それと同部屋にジャックっていう冒険者が居るんだけど彼に伝言を頼めるかな?約束の時間までには戻るって」

「分かりました!いってらっしゃいませ!」


 昨日とは打って変わって愛嬌のある受付嬢は、ハルの伝言を受け取ると元気よく送り出した。


 外に出たハルは、早朝特有の冷えた空気を体いっぱいに満たす。受付嬢が教えてくれた天幕通りまで歩く。ゲート街は突如、森に出現したゲートを中心に冒険者がアクセスしやすいように木々を伐採し作られた街だ。そのため夜中に降った雨の影響か、地面がぬかるんでおりハルの靴は泥だらけになった。

 靴は汚れるものだが、こうも汚れてしまってはメイドたちに申し訳ないと思うハル。決して汚れたまま帰ることが確定してしまい、アルファたちに白い目を向けられることが怖いわけではない。


 頭の中で言い訳を考えていると昨日、見かけた天幕通りに辿り着いた。まだ酒場には冒険者が残っていると思ったが、客の数は1、2人程度だった。そのまま酒場を通り過ぎ、冒険に必要なアイテムを売っている天幕へと向かう。こちらも昼とは違い開店してはいるものの人通りは少ない。ちらほら店番をしながら寝ている者も居た。


 しらみつぶしに天幕を見て回るとマジックアイテムが並べられている天幕を見つけた。そこには、この世界独自のポーションや魔法が込められている指輪などが展示されていた。

 これらは、高価であるため盗難の恐れがある。新たにできたばかりのゲート街では、冒険者によるトラブルが相次いでいるため尚更だ。しかし、天幕通りではそういった痕跡は見当たらない。ここら一体は、通常よりも多くの王国兵士が目を光らせている。強盗がおきようものなら一瞬で取り押さえられるだろう。


「スクロールはあるか?」

「あんたランクは?」

「ランク……?」

「冒険者ランクだ」

「Fランクだが……」


 ランクの提示を求められたハルは、マントに隠れていた冒険者プレートを商人に見せた。それを見た商人は顔を歪ませ、態度を豹変させた。


 ハルは、商人の雰囲気が変わったことに違和感を抱いたが、そのまま要件を済ませるため話を進めようと口を開く。


「それでスクロールなんだが―――」

「Fランクに売るスクロールなんてねぇな」

「……どういうことだ?」

「そのままの意味だ。見るからに冒険者向きじゃねぇ服装。それに加えてFランクときたもんだ。お前、冒険者舐めてるだろ?」

「いや、別にそんなつもりは―――」

「お前にそんなつもりが無かろうが関係ねぇ!ここに置いてある道具は、死と隣り合わせの冒険者たちに少しでも快適に過ごして貰うためにあるもんだ!お前のような冷やかしで冒険者に成った奴に売るアイテムなんざ、ここには無い!……帰んな」

「……分かった」


 ハルは商人から罵倒され激昂する―――ことなく冷静にその場を離れた。


(嫌な奴かと思ったけど言ってることは確かだよな……。こんな中二病見たいな服装にFランクって言われたら坊ちゃんの冷やかしだと思われるよなぁ。一応、レアリティ的には国家級なんだけど……そんなこと言っても伝わらんか。それよりもどうしよう。王国兵から回収したスクロールは良かった。EoCには無いアイテムだから量が確保できてない。できれば製造方法を知りたい。魔法ギルドはAランク冒険者じゃないと入れないし。野良の商人からなら買えると思ったんだけど。……。現状、潜入も難しいから打つ手なしだな)


 EoCには無い技術で価値のあると判断したスクロール。エターナル・ヴェインが回収したスクロールは≪伝言/メッセージ≫のみであったが、その有用性については言うまでも無い。遠方に居る相手を想像しながら使うことでテレパシーのように会話をすることができるマジックアイテムだ。エターナル・ヴェインで量産することができれば、これから先の情報収集の一助となるだろう。

 だが、現状スクロールの製造方法は、魔法ギルドが独占している。スクロールの売買も魔法ギルドに登録された商会を介してでないと難しい。そして厄介なことに彼らの多くは、高ランク冒険者を対象に販売している。基本的に高ランク冒険者は、生存率が高く金払いも良い。彼らに有用なスクロールを売ることでリピーターとして期待できる。このような循環が成り立っているためスクロールの入手方法はかなり難しくなっている。


 ハルは魔法ギルドに潜入することも考えたが、それはセレネによって否定された。魔法ギルドには、他の建物とは違い侵入者を探知する魔法が掛けられており、その精度はセレネをもってしても搔い潜ることは難しいと言う。

 ハルとしては、ノワールであれば問題無いと思った。だが、不確定な状況で王国と揉める可能性があることは避けたいというアルファたち大臣の考えを汲み取り、正規の方法での入手を目指すことになった。更には、そういったEoCにはないイレギュラーな魔法による情報漏えいを防ぐためにも、対抗策ができるまでノワールはエターナル・ヴェインに常駐すべきだと判断した。


 そんな折、先程の商人の言葉から正攻法での入手は困難だということを突きつけられた。打つ手が無くなったハルは、アルファたちへの報告が増えたなと思いつつ宿へと戻った。



★★★



「アランだ。よろしく頼む」

「ということで俺たちのパーティ―に加わってもらうことになった。昨日も言ったが、ゲートの案内を任せようと思う」

「おう、俺はトム。こっちはジムであいつは……サクラギはもう知ってるか。よろしくな!」


 宿屋に併設されている冒険者ギルドの待合スペースでアランと顔合わせを行っていた。挨拶を終えるとジャックがパーティ―の編成について共有する。


「俺とサクラギが火力担当でトムはスカウト、ジムはポーター。アランは主に雑魚を頼む」


 パーティ―編成の確認が済むと彼らは、冒険者ギルドから出発した。街は既に、日によって明るくなっており多くの人が今日の活動を始めた。彼らのようにゲートへと向かう者、冒険者の動きが活発になってきたと同時に開店する天幕。早朝とは打って変わって街は賑やかになっていく。


「ゲート入場希望者は列にお並びください!」


 昨日とは違う女の声に従いハルたちは、ゲートを潜る冒険者の列に並んだ。ゲートへと向かう冒険者は、誰もが年季の入った装備をしており、大小かかわらず何かしら古傷がある者が多数であった。中には、人数合わせのためにパーティ―に入れられたであろう者や、冒険者に相応しくない軽装の者も居る。


 時間が経つに連れゲートへの列は長くなっていくが、潜って行く者も当然居るため列は進んでいく。だが、そのスピードは列が為すよりも遅い。ゲートの入場制限であるCランクを誤魔化して入ろうとする者や、ゲート前に待機している兵士に賄賂を渡し潜ろうとする者の処理で遅延している。


 ハルたちがゲートの前へ辿り着いたのは、列に並んでから1時間程度経ってからであった。


「これがゲートか……禍々しいな」

「ランクの提示をお願いする」

「これでいいか?」

「あぁ、―――え、Aランク……ッ?!」

「それで入ってもいいのか?」

「え、えぇ。勿論です。ゲートの先には簡易拠点があります。我々も待機していますが、簡易拠点より外では救出作業を行っておりませんのでご注意ください」

「つまり、自分の身は自分で守れってことか。いつも通りだな。問題無い」

「分かりました。では、ご武運を」


 ハルたちはゲートに触れると街から姿を消した。



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