第19話 ゲート街
盗賊の襲撃を乗り越えたハルたちは、目的地にたどり着いた。高さ約3メートルの簡易的な柵が設置されており、内と外を切り離している。更には野党や魔物が内側に入ってこないように、王国兵士が辺りを警戒しているのが分かる。外見だけ見ると既に村を越えて、中規模の街へと発展していた。
大国といえども貧困の地域も残っており、冒険者の多くはそういった地域出身だ。彼らからすると長く貧しい村や街などよりも、短期間でここまで成長していることに歯痒い思いを抱いた。
馬車乗り場には、ハルたちだけではなく他の馬車も停車していた。冒険者たちは各々のペースで降りて行き、街の中へと姿を消していく。ハルたちも例に漏れず、彼らの流れに沿い街へと入る。
街の中に入るとそこには、様々な天幕が張られていた。
「出張鑑定やってるよー!」
ある天幕では、冒険者たちが持ち帰ったアイテムを鑑定しており、一喜一憂しているのが見える。
「食事はいかがですか?!」
ある天幕では、食欲を沸きたてるような匂いが香り、多くの冒険者たちがゲートに向かう前に又はゲートから帰って来て腹を空かせた者たちが幸せそうにテーブルを囲んでいる。
「ゲートに入る前に、アイテムの用意は済んだか?」
ある天幕では、ゲートに向かう冒険者たちに必需品であるポーションやランタンなどの身の回りのアイテムを販売していた。
「賑やかだな」
「元々、エル・ラインは冒険者都市として有名だ。これぐらいは当たり前じゃねえか?むしろ、まだゲートの噂が広まっていないぐらいだ」
「そうか」
「それよりもジム大丈夫か?宿で安静した方がいいんじゃないか?」
「大丈夫だ。この程度の傷であれば、時間が経てば治る」
ジムの腹には、包帯が巻かれており少し血が滲んでいるのが分かる。ハルは体の傷を癒すマジックアイテムを持っていたが、それを使う価値をジムに見出すことはできなかった。
ジムを安静させるため直ぐに宿屋へと向かうことを提案したトム。だが、それは当の本人によって拒否された。なんでも昔から傷が癒えるスピードが早く、この程度であれば直ぐに治るらしい。
(HP回復系の特性もしくはスキルを持っているのか?意外と能力持ちは多いのかもしれないな)
「あと1パーティ―です!」
ジムの体質について考えていると女の声が聞こえた。聞こえた方を向くと何人かの冒険者が列を成しており、最後尾に声の主であろう女がプラカードを持っていた。女の見た目は、冒険者ギルドに居た受付嬢と同じだ。ハルは、冒険者ギルドの職員なのかなと思った。
「1日の入場制限があるのか?」
「どうやらそうらしいな。残り1組なら―――」
「駄目だったな」
列に並ぼうとしたタイミングで別のパーティーに奪われてしまった。だが元々、情報を得てから行くつもりであったため別に問題無い。
「どうする?一旦、都市に戻るか?」
どこかぶっきらぼうに提案するハル。エル・ラインに戻った後、姿をくらませようと思ったからだ。現役のAランク冒険者の実力が分かった時点で既に目的達成しており、これ以上付き合う必要は無かった。
「いや、今からエル・ラインに戻っても夜だ。宿が取れるとは限らん。折角だからここで宿を取ろうと思う」
だが、それはジャックの言葉により否定される。
「いいんじゃないか?またここに来るよりこっちで待ってた方が。ゲートにも確実に行けるだろうし」
「俺もトムに賛成だ。宿は俺が取って来るよ」
「俺も付いて行くぜ」
ジャックの考えに賛同するとそのまま宿を取りに向かった。
ハルは軽く溜息をつきながらジャックを見る。
「俺たちはどうする?」
「そうだな……。ゲートの情報を収集するか。手始めに、そこら辺に居る兵士からだな」
そう言うとジャックは、街の中で目を光らせている兵士を見た。
外に居る兵士は、賊や魔物等が街に侵入しないように警戒している。一方の街中の兵士は、治安維持の為に配備されている。物理的な街の領地は小さいが、訪れる冒険者の数や彼らを相手にする商人は多い。そのため通常の街以上にトラブルが発生しやすい。
現に、ハルたちが宿屋についてどうするか考えていた時に、冒険者同士のトラブルが発生しており、その処理として兵士が向かっていた。
ジャックは、喧嘩処理を終え一息ついている兵士のもとへと向かいながら声を掛けた。
「止まれ。一体何の用だ?」
兵士はジャックを見ると警戒の目を向けた。ジャックの体格は、一般的な冒険者よりも大きくその分威圧感が強い。だが、兵士は怯える様子を見せない。
己の実力に自信があるのか、あるいは兵士への暴力は重罪故の驕りか。
ハルは、ジャックが交渉するのを横目に兵士に対してそう思った。
「ゲートの情報について少し聞きたくてだな」
「駄目だ。規則として教えることができない。ゲートで得た情報は、我々王国としても貴重な物だ。実際に我々も冒険者本人から買っているからな。もし、聞きたいなら冒険者に聞くんだな」
そう言うと兵士は、一方的に話を切り上げ足早に去って行った。
「追い返されたな」
「本来の予定通り、冒険者に聞くしかないか。交渉は俺がする。いくらか金を出せば教えてくれるだろう。頼んでもいいか?」
「……できるだけ安くしてくれよ。主人から貰った金にも限度があるからな」
「勿論だ」
(まぁ、一部はアルドリンの金だけどな。王国内で軍を移動させるための資金とアヴェリス領内で略奪した金だろうけど。エターナル・ヴェイン運営の魔力もそうだけど外活動のための金も必要だなぁ。現状、この大陸は王国一強だから王国金貨がもっとも価値のある硬貨だ。何とかしてコピーするか、金を溶かして鋳造するか……。EoC金貨を溶かして王国金貨にするのは有りか?アルファに提案してみよう)
金策について考えながらジャックに付いて行く。
どうやら酒場に向かっているらしい。エル・ラインで飲んだエール独特の匂いが漂っているのが分かる。丸いテーブルに切り株の椅子。どこから見ても急ピッチで用意したのが見て取れる。だが、冒険者たちは酒が飲めればそれでいいのか、座り心地の悪さなど気にすることも無く騒いでいた。
そんな中、1人で黙々と酒を飲む冒険者が居た。見た目はハルよりも少し幼いくらいだ。その冒険者は、何かを流し込むように次々にエールを頼んでは飲み干していた。
ジャックは、その冒険者に当たりを付けると空いている切り株を持ち隣りに座った。
「よぉ、兄弟。景気はどうだ?」
「あぁ?……見ての通りだ」
「……ということは全滅した、のか」
「そうだぜ!畜生ッ!」
冒険者が怒りのままにテーブルを叩いた衝撃でまだ残っていたエールが零れた。それを見たウェイトレスが拭き物を持ってきた。そのまま零れたエールをバケツに流した。
ウェイトレスが慣れた手つきで片付けている間、冒険者は少し酔いが覚めたのか、ばつの悪そうな顔をすると小さく「……すまん」と呟いた。
「良ければ、俺が話を聞こう。俺の名前はジャックだ。お前は?」
「……アランだ」
「アランか。良い名じゃないか」
「……ありがとう。村に居る母ちゃんが付けてくれたんだ」
「村出身か。ということは、パーティーメンバーは―――」
「あぁ、村で一緒に育った幼馴染たちだ」
その後、ジャックは冒険者―――アランから情報を聞き出していった。
アランはエル・ライン近くの小さな村出身だ。幼い頃から村を守る警備隊に混じり剣の腕を鍛えていたらしい。10歳を過ぎる頃には、既に大人顔負けの腕前となっており、その実力で冒険者として村を養いたいと思うようになったという。
同じ志を持った村の幼馴染たちと共にパーティ―を結成した後、直ぐにCランク冒険者として活躍していた。そんな時、ゲートの噂を聞きつけ、彼らも英雄譚を目指した結果、アランを残して全滅した。
「なるほど……。武器に補正が掛かるスキルを持っていたんだな」
「あぁ、恐らくな。エル・ラインの教会で確認した時、スキルがあるって聞いた。俺の経験則から剣に補正がかかってるんだと思う」
(貴重な情報だ。教会でスキルを確認できるのか。もしかするとスキルポイントの振り分けもできるのか?EoCではメニューを開けばステータスが確認できたからそういう系統のスキルとかないんだよなぁ。スキルを鑑定するスキルがあるのか、それとも教会だから神に頼むのか。……うん?そう言えば、この世界の神って何だ?マグナスなのか?)
暗い雰囲気のアランと寄り添うジャック。神妙な顔をしながら彼らの会話を聞くハル。頭の中は、別のことでいっぱいになっているが。
「……未練は無いか?」
「……未練、だと?」
「あぁ、その通りだ。夢半ばで終わってしまった。その夢を叶えてみるつもりは無いか?」
ジャックの言葉に、アランの何かが切れたのか氾濫のように感情が溢れていく。
「ふざ、ふざけるなよ?!未練、後悔だらけだぜ!俺が、調子に乗らずにゲートの奥に行かなければ……よかったのに。そのせいで、あいつらは死―――」
「お前の仲間はまだ死んでいない」
「は……?何言って―――」
「ここに居るじゃないか」
「―――っ」
感情的になり、今にも消えたいと思うアラン。
だが、ジャックはそんなアランの胸を叩き激励する。
「お前の仲間は、まだそこに居る。そいつらにお前の雄姿を見せてやらないか?俺たちと」
「お前、たちと……。だけど、俺はCランクだ……」
「はははっ。それなら丁度良かったな。俺のプレートを見ろ」
ジャックは首に掛けた冒険者プレートを見せる。Aランク冒険者に相応しい純金でできたプレートは、日光を反射させその色をより一層豪華に見せた。ジャックの冒険者プレートを見たアランは、驚きのあまり切り株から立ち上がった。
「金色……ッ!お前、Aランク冒険者なのか?!」
「あぁ、その通りだ。ついでに言うと、隣りに居るこいつはBランクはある」
ハルを指さしながらそう付け足した。
「勝手なことを言うな」
「Bランク級も……。これなら……」
「おい、信じちゃったじゃないか」
「はははっ。いいじゃないか」
ハルはジャックに対して不満気な顔をしながら文句を言ったが、既にアランは信じてしまい取り返しのつかない状態へとなっていた。
アランは、何度か唾を飲み込むと決心した顔をした。
「……俺も一緒に連れて行ってくれ」
「おう、いいぜ。その代わり、ゲートでの案内はよろしくな?」
「任せてくれ」
アランのパーティ―参加が決まった。




