第16話 考察
床に敷かれたレッドカーペットを踏み、目的地へと向かう執事服の男―――ノワール。彼は、目的の部屋へ辿り着くと左目に掛けたモノクルを光らせながら待機しているメイドに目を向けた。見る者が見れば、鋭い目線に慄くことだろう。
だが、メイドは一切、臆することなく自然体で居た。
「マスターはいらっしゃいますか?進行中の作戦についてご報告があるのですが」
「マスターは現在、ご不在で―――あっ」
「ん……?」
メイドがノワールの後方を見て言葉を途中で止めた。不思議に思ったノワールは後ろを振り向く。そこには、主人として崇めるハルたちが居た。
普段の王者として相応しい服装ではなくラフな格好をしたハル。その隣にエターナル・ヴェインのマスターの奥方として相応しい格好のセレネ。2人の後方に追随するように、美しい髪色に合わせたドレスを身に纏ったアルファがノワールが向かった部屋―――執務室へと歩いていた。
ハルが視界に入ったノワールは跪く。
「お、ノワールじゃん。何してんだ?」
「これはマスター、セレネ様」
「いや、そんなにかしこまらなくてもいいって」
跪き挨拶をするノワールに、少し引きながらハルは言った。一方のアルファは、たとえ創造した服であり、いくらでも替えが効くとしても躊躇することなく跪いたノワールに関心した。
ノワールは姿勢を崩すことなくそのままの状態で口を開く。
「現在、進行中の作戦についてご報告がございます」
「ありがとう。その件について少し、アルファと話そうかなって思ってたんだ。丁度いいからノワールも参加しろ」
「おぉ……。エターナル・ヴェインの行く末を決める会議に私めが参加できる喜び!このノワール、全身全霊で会議に臨まさせていただきます」
「いや、軽い雑談見たいな感じだから。肩の力抜きなよ」
「お心遣いありがとうございます」
「はぁー……まぁ、いいか」
「ふふっ」
ノワールの態度とハルの諦めを見て微笑むセレネ。
「マスター、後の話は執務室でやりましょう」
「そうだな」
アルファの言葉と共に、次の行動を察したメイドが執務室のドアを開けた。ハルはそのまま部屋の奥へと進み椅子へと座る。それと同時に、いつの間にか隣りに居たアルファロンが淹れたてのコーヒーを渡す。
去り際、ノワールに対して鋭い目を向け部屋の隅に移動し再び陰に徹した。
ダンジョンマスターの配下である自分に疑いの目を向けられたことに対して、ノワールは当たり前だと思った。悪魔種は契約履行はするが、それを果たすまでの過程において自分の利益になるように動く、とユグドラシルでは考えられているからだ。
―――いくらでも警戒するといいですよ。全て無駄になるでしょうが。
訝しげに笑ったノワールに対し、アルファロンはより一層警戒の色を強めた。それを見ていたアルファは、溜息を吐く。
「それじゃ、報告お願い」
「承知しました、マスター。それでは報告させていただきます。まず―――」
ノワールは、アルドリンの動向を詳細に報告した。
イータの護衛に付きっ切りだったノワールがアルドリンの動向を詳細に報告できたことには、上位種の魔物が持っている<眷属召喚>スキルが関係する。これは、魔力を消費することで下級魔物を召喚する効果がある。これを使い、複数体で観察していた。
ノワールの報告を聞いたハルは、満足そうに頷いた。
「よし、作戦の第一段階は完了したな。アルドリンはこれで脅威を感じたはずだ」
「仰る通りかと存じます。以上で報告は終了でございます」
「よくやった、ノワール」
「感謝の極み」
「ただなぁ……」
「何か不明な点がございましたでしょうか?」
煮え切れないハルの言葉に、ノワールは焦りを見せながら質問した。
「いや、ノワールの報告は問題無かった。アルドリンにも上手く逃げてもらえたし。ただ、少し被害を出し過ぎたかもしれない」
そう言うとハルは、頭に手をやった。
「ハル、それの何が問題なのですか?」
セレネが質問する。
セレネとしては、祖国を滅ぼしたアルドリンの戦力が削られることのどこに問題があるのか理解できなかった。
「スケルトン・ロード討伐のために、大連合でも組まれたらどうなるか分からないからな。アルドリンの精鋭部隊隊長の実力が確か、元Aランク冒険者だったよな?あの実力者が複数人集められたら第一階層は攻略されるかもしれない。まぁ、ガーディアンたちが居るから大丈夫だと思うけど」
「マスターよろしいでしょうか」
「いいよ」
セレネに今抱えている心配事を説明していると、それを聞いたアルファが手を上げた。
「恐らく、アルドリンはスケルトン・ロードの件は隠しつつ、転移ポータルについて冒険者ギルドに報告するでしょう」
「何故だ?」
己の考えとは、真逆の言葉に不思議に思うハル。
「王国は大国でございます。その中でもアルドリンの部隊は最強の軍隊を謳っているとか。そんな部隊が壊滅的状態だと他国に知れ渡れば、他国につけいる隙を与えてしまうでしょう」
「なるほどなぁ」
ハルは手を口元に当てながら呟いた。
それと同時にアルファの言葉に疑問を持ったセレネが口を開く。
「待ってください、アルファ。確かに納得できますが、少し見落としがあるかもしれません。スケルトン・ロードはAランク上位として有名です。野放しにしてしまうと吟遊詩人によく歌われる『国堕とし』が現実と化す、とアルドリンは危惧しているはずです」
「確かにな。アルドリンからすれば、スケルトン・ロードがいつ現れるか分からないのに、そんな悠長な考えをするか?冒険者ギルドに討伐依頼を出す、もしくは他国に協力を申し込むかもしれない……。よし!アルファ、両方の場合を想定して進めようか」
「承知しました」
アルファが丁寧にお辞儀をした。




