後日談「復活の邪悪」
「……世界の危機っぽいんだ」
「世界の危機……?」
アルトが流星魔法を打ち砕き、魔王を討伐してから二年後。
ルートが突然に皆を集め、重苦しい顔でそう告げた。
「もう魔王は倒したじゃねーか」
「魔族はバルトリフのおっさんが纏めてくれてるし……」
「今更、どんな世界の危機があるってんだ?」
ルートを囲って古いテーブルに座るのは、七人の勇者たち。
皆が神妙な面持ちで、ルートの言葉を待っている。
「精霊が教えてくれた。まもなくこの王都に、大いなる災いが訪れる……っぽい」
「訪れるっぽいのか」
かつてルートは、オレ達勇者パーティの導き手として活躍した。
精霊の言葉を理解し、未来を見通せる『精霊術師』ルート。
彼の予言は百発百中で、まず外れることはない。
「そんで僕たちが介入しなければ、世界が滅ぶ。……っぽい」
「まだそんな厄ネタが、この世界にあったの?」
だからオレ達は真剣に、ルートの予言に耳を傾けた。
これから何が起こるのか。オレ達はどうするべきなのか。
「時刻はきっかり一週間後、王都北部の砦付近だ。そこで『世界に滅びをもたらす大いなる悪』が蘇るっぽい」
「……むむ」
「魔王クラスの相手と戦闘になる想定で、準備をしてほしいっぽい」
ルートの口調に、余裕はない。
彼がここまで真剣な顔で言うからには、事態は深刻なのだろう。
「どんな敵なんだ? 人型か、獣か、はたまた魔族か」
「いや。残念ながら『敵が強すぎて』予知できなかった」
その説明に、パーティメンバーが生唾を飲む。
魔王討伐から数年も経って、ガチバトルが勃発するとは思わなかった。
「ただ、その精霊が言うには……」
「ああ」
ただ幸い、その敵が復活するまで一週間ある。
その間に、戦闘勘を取り戻さねばなるまい。
「頑張れば戦わずとも、何とかなるっぽい」
「戦闘回避できるのかよ」
「さっきから、予言がフワフワしてません?」
ただ肝心の、そのルートの予言は……。
とってもフワフワしていた。
「さっきから何でそんなにフワフワしてるんだよ」
「予知の対象が強すぎると、難しくなるんだよ」
「あー、なるほど」
どうしてフワフワするかと言えば、その敵があまりに強いからだそうだ。
レベル差がありすぎると、予知が不正確になる仕様らしい。
「じゃあ、マジで強敵ってこと?」
「そうっぽい」
「フワフワな予知のせいで危機感が薄まってますが、マジでヤバいんですね?」
口調こそ砕けているが、ルートの顔は真剣そのものだ。
というか『ルートがフワフワにしか表現できないこと』がむしろ、事態の深刻さを示している。
相当な敵が出てくる、と覚悟していた方が良さそうだ。
「確かに伝えたよ。各自、準備を怠らないで」
「分かった」
「久々に、このアジトで訓練するか」
数年ぶりの死闘。アルトがいれば負けはしないだろうが、犠牲が出ないとは限らない。
勇者パーティの瞳に、闘志が宿る。
「久しぶりの勇者パーティ、出動だ」
「「おお!!」」
オレたちは顔を見合わせ、まだ見ぬ敵へ闘志を滾らせた。
「うお、マジか」
「これは、強敵だね」
そして一週間後、王都北部の砦。
オレ達は、大地から湧き上がるドス黒い煙を見つめていた。
「……なんだこの禍々しい気配」
「魔力量もすさまじいぞ」
邪悪だ。明らかに邪悪な何かが、ここで復活しようとしている。
その瘴気の濃さに、アルトが思わず顔をしかめた。
「な、何が復活するんですかぁ?」
「わからんが、とんでもない何かだろうか」
ユリィが怯えた顔で、ドサクサでアルトに抱きついた。
ふざけている場合ではないのだ。オレは女狐の尻を蹴飛ばした。
「あ痛ァ!!」
「む、来るぞ! 全員、戦闘態勢!!」
─────そして、いよいよその時が訪れた。
巨悪が復活する、その瞬間が。
「……ッ! 大地が揺れ始めた!」
「これは、そんな、まさか─────」
激しい地鳴りと共に、大地に亀裂が入る。
砦の外壁が崩れ、禍々しい瘴気が地面から噴き出す。
「こいつぁ……なんて力だ」
「間違いない、魔王クラスだ……!!」
瘴気をもろに浴び、オレは一瞬、意識を失いかけた。
恨み、憎悪、嫉妬、嗜虐。
この世界で蔓延る負の感情を、煮詰め濃縮したような瘴気。
「出てきやがった!」
やがて瘴気が意志を持っているかのように。モクモクと煙となって纏まり。
瘴気の霧の中から、何かの影が蠢き始めた。
『復活ノ時ハ、来タ』
声を聴いた瞬間、ゾクリと鼓動が早くなった。
姿を見た瞬間、背筋が凍り付いた。
その圧倒的な存在感は、まぎれもない魔王クラス。
『フフ、フハハハ……』
巨大な龍。それも、邪龍だ。
かつての魔王と同等か、それ以上の圧倒的な魔力を備えた龍。
『太古ニ交ワシタ盟約が果タサレル刻ダ。ナア龍宿シノ小娘ェ』
その強大な龍は、からかうように。
あるいは舌なめずりするように、オレ達を見下ろして哂った。
『我ガ名ハ、邪龍デスドレー。太古ノ龍王ニシテ、人類ノ契約者』
「お、おお」
『数百年前ノ契約ニ応ジ、コノ世界ニ舞イ戻ッタ』
その視線の先にいるのは……顔を真っ青にして震える黒魔術師。
邪龍はレイの前に降り立って、にんまりと唇を歪めた。
『サア、ソノ手ノ証ヲシメスガ良イ。我トノ契約ガアレバ、魔王ナドヒト捻リデアロウ』
「……あ、こいつアレじゃね? こないだ別世界の人が言ってた【邪龍覚醒】の」
『タダシ、我ト契約スルコトハ、世界中ノ負ノ感情ヲ一身ニ背負ウコトト同義』
「ああぁー!! アレかぁ!」
『一生、精神ヲ蝕マレ続ケル。貴様ハ二度ト、平穏ナ日常ヲ生キルコトハデキナイ』
龍の台詞を聞いて、オレ達はこいつの正体を理解した。
この龍はレイと契約して【邪龍覚醒】し、魔王を倒す系のアレだったヤツだ。
つまりレイのパワーアップイベント。
『フハハハハ、我ヲ使イコナセルカナ? 龍宿シノ末裔、デスドレーノ契約者ヨ』
「……あ、契約いいっす。結構っす」
しかしレイは目を逸らし、邪龍との契約を断った。
『契約シナイノ?』
「えー、はい、何と言うか大丈夫です」
拍子抜けたような、邪龍の声。
レイは気まずそうに、邪龍から目を逸らし続ける。
『我、強イヨ。我ノ力ガ有ッタラ、魔王トカ余裕ヨ?』
「えー、っと。スゥー……、もう、魔王とか、討伐が終わってて」
『エッ』
「その、今更、そういう力は要らないって言うか……」
そうなのだ。もう、魔王との戦いは終わっているのだ。
なので今更、パワーアップイベントとかは必要ない。
「恐縮なんだけど、その、えー。キャンセルで」
『……我、コノタメニ数百年、封印サレテタンダケド』
「ご、ご愁傷様っす」
『ゴ愁傷サマハナクナイ? コッチノ気持チトカ考エテ話シテル?』
そのレイの態度に、邪龍デスドレーさんは激おこだった。
でもまぁ、デスドレーさんの言うこともわかるっちゃ分かる。
『人類ニ手ヲ貸ス為ニ、永イ眠リニツイタノニ。ヤッパ人類滅ボスカァ』
「あ、ヤバいぞ。デスドレーさんが暴れだしそうだ」
「このクラスの敵と戦ったら、ただじゃ済まねぇぞ」
まずい、邪龍デスドレーさんは化け物クラスの実力だろう。
こんな場所で暴れられたら、王都に被害が及ぶかもしれない。
「なぁレイ、ケチ臭いこと言うなよ。デスドレーさんも苦労してきたんだし」
「契約してあげたらいいじゃん。それで満足してくれるって」
「イヤだよ! さっきコイツ言ってただろ、契約したら精神蝕まれるって!」
オレ達は邪龍デスドレーの怒りを鎮めるために、すかさずレイを売ろうとした。
彼女の精神が蝕まれるだけで、平和が維持できるなら安いものだ。
「そんなキツい感じの精神汚染じゃないですよね、ね、デスドレーさん!」
『エ? マァ、ソコソコ蝕マレルケド……。廃人ニナルトハ限ラナイヨ?』
「その言い方は相当だろうがよ!」
聞いた感じ、キツめの精神汚染っぽいな。
確かにオレの立場なら、絶対にごめんである。
「他の世界線のレイは、ちゃんと契約してたぞ」
「私が契約しないと世界が滅ぶなら契約するさ! でも、今は違うじゃん。精神を蝕まれてまでパワーアップするモチベーションはない」
『エエ~』
ワガママなレイは、断固として契約する気が無いようだった。
デスドレーさんは明らかにションボリとしている。
『シャーナイナァ。コウナッタラ世界ヲ滅ボスシカ』
「まずい、戦闘に突入しそう」
「デスドレーさん、落ち着いてください! 人類と戦う理由なんてないでしょう!?」
『戦ウ理由ナラアル、オ前ラハ嘘ヲツイタ』
このままではデスドレーが暴れ出してしまう。
オレ達は、慌てて説得に入った。
『我ハズット迫害サレテキタ。魔族カラモ、命ヲ狙ワレタ。ダカラ生キルタメ、殺シ続ケタ』
「……デスドレーさん」
『ダケド二百年前、聖女ガコウ言ッタ。魔王討伐ニ力ヲ貸シタラ、人類ハ我ヲ褒メ称エテクレル。我ハ、人類ト仲良クナレル』
しかしデスドレーさんは悲しそうな顔で、そう言って涙を零した。
オレ達と……、人類と仲良くなれなかったことに失望しているようだ。
『我ガ封印ヲ受ケ入レタノハ、寂シカッタカラ。仲良ク話シテクレル存在ガ欲シカッタ』
「……」
『デモ、嘘ダッタンダナ。我ガ仲良ク出来ル人ナドナカッタ。人類モ、ヤッパリ我ノ敵……』
邪龍デスドレーさんは二百年前、人類からも魔族からも疎まれていたらしい。
だけど本心では、誰かと仲良くなりたかったので永い封印を受け入れた。
人類に力を貸して、そして仲良くなるために。
「……なぁレイ、キツいのは分かるけどさ」
「契約してやりなよ。このままじゃ可哀想じゃん、デスドレーさん」
「いやでも」
きっと他の世界戦なら、デスドレーさんは魔王戦の前にレイと契約したのだ。
そして人類に力を貸すことで、皆に認められていた。
「同情はするが、私には関係ない話だ! 知らん、帰れ!」
『我ヲ説得シ、封印シタ聖女ノ末裔コソ、ソコノ龍宿シノ女ダ』
「レイのご先祖がまいた種じゃん」
やっぱり二百年前の聖女って、レイのご先祖か。
なら、やっぱりレイの管轄なような。
「わ、私以外にも末裔とかいるだろ! そっち行け!」
『我ガ復活シタ時、末裔デ最モ魔力ガ高イ者ト契リヲ交ワス約束ダ』
「レイしか関係者いないじゃん」
この世界でレイより魔力多い奴ってアルトくらいだろ。
龍宿しの末裔で高魔力となれば、レイ確定だろ。
「だとしてもこの平和な世界で契約して何の得がある!?」
『得ナラ、アルケド』
「は、どんな得があるって言うんだ?」
『龍スキルヲ、使エルヨウニナルゾ』
そこまで条件がそろっても、レイはお断りモードだった。
このレイをどうやって説得しようか、頭をひねっていると……。
「龍スキルってどんなの?」
「異性魅了トカ、異性掌握トカ」
レイがその言葉を聞いた瞬間。
ビクン、と彼女の耳が跳ねた。
「話が変わった、続けろ。どんな感じのスキルだ?」
『異性魅了ハ狙ッタ男ヲ、ホボ確実ニ篭絡デキル。異性掌握ハ、操リ人形ニデキル』
「そ、そんなに強力なスキルなのか?」
『二百年前ニ我ト契約シタ聖女ハ、男ヲトッカエヒッカエ……』
聞けばレイのご先祖は龍スキルで、モテモテの老後を送ったらしい。
この辺の所業も含めて、『邪龍』扱いされたそうだが。
「……なるほど」
「おい、何でアルト見てんだレイ」
嫌な予感がしてきた。まさか、そんなことはしないとは思うが。
もうオレとアルトは付き合って、三年目に到達するんだ。
お互い親に挨拶してるし、籍入れの準備も終わっている。
だからもう、とっくに諦めている……よな?
「ようし分かった、契約を受け入れるぞデスドレー!!」
『オオオ! ソウカ、ソノ気ニナッタカ!』
「私は人間を超越するッ!!」
いや、オレは知っている。レイはそんな殊勝な性格ではない。
こいつは隙あらば、自分の欲望を満たそうとするゲロ以下の女。
「ふふふ、いよいよ私の逆襲が始まる日が来た。短い天下だったなフィオ?」
「テメー、オレのアルトにちょっかいかける気じゃねーだろうな!」
「あっはっはっは! 苦節三年、ついに駄ロリからアルトをNTR返せる日が来た!」
「一度でもアルトと寝てから言え!!」
案の定、レイはまだアルトを奪う気マンマンだった。
人の旦那を寝取りたいという理由で契約を受け入れやがった。
「デスドレーさん見ろ、この女のカスっぷりを! こんなのと契約しないほうが良いぜ!」
『エエ~? ソレデモ我、契約シタイ』
「やめとけって! 何なら代わりにオレが契約してもいいぞ!」
『イヤ、龍宿シノ末裔トシカ契約デキナイ』
「あっはっはっは! 無様だなフィオ!!」
何が寂しいだデスドレーめ、優しくしてやりゃ付け上がりやがって。
オレに寝取られ趣味はないんだよ。
「では本契約だ、契れデスドレー!!!」
『オオオオオ! コレニテ約定ハ果タサレタ!!』
「しまった!」
そうこうしているうちに、邪龍の濃厚な魔力がレイに宿った。
邪悪なオーラでレイのローブが、荒々しくはためいている。
「ぐぅおおお! なるほど、これが精神汚染……!」
「レ、レイ! 無事か!」
「上等ォ、全然耐えられるじゃないかァ!」
こうなっては、アルトを近づけないようにするしかない。
アルトは今後、ミクアルの里に幽閉すれば……。
「この程度の代償で、アルトを奪えると思えば安いもの」
「……いや。盛り上がってるところ、悪いんだが」
「お、おいアルト! 今のレイに近づくな!」
だというのに、アルトはここから逃げる素振りがない。
どこか呆れた顔で、邪龍と契約したレイを見つめている。
「これが【邪龍覚醒】か、凄まじい! 捗る、捗るゥ!!」
「ひ、ひぃぃぃ。レイさんが化け物みたいな魔力に……」
「もうこれ、魔王より強いんじゃ!?」
そんな無防備なアルトに対し、レイはニヤリと笑みを浮かべ。
無尽蔵ともいえる魔力を使って、声高に叫んだ。
「ふーっはっはっは! 食らえ異性魅了! アルトよ、私のモノとなれ!!」
「や、やめろレイ!!」
直後、陽炎が起きるほどの魔力の渦がアルトを取り巻く。
ここまで強大な魔力の渦を、オレは見たことがない。
邪龍と契約したレイの魔力は無尽蔵、という言葉に誇張はないらしい。
それほどの魅了魔法を直に浴びたアルトは……。
「これでいよいよ、私はアルトを手に入れた─────」
「そういうのはやめなさいって、前も言ったよなレイ」
「ふぐぇ!!?」
ムスっとした顔で、レイを叱るようにチョップした。
「あれ、アルト? 平気なの?」
「ああ、安心しろフィオ。まったく効いてないから」
「え、何で! おい邪龍デスドレー、どういうことだ!」
『……』
その表情は、仕草は、いつものアルトだった。
それもレイの暴走に対し、ちょっと怒ってるモードのアルトだ。
『エー、アー』
「おい、説明しろ! アルトのやつ、すごく怒ってるじゃないか!」
『イヤダッテ。彼ハチョット……』
当てが外れて、レイは慌てた顔でデスドレーに迫る。
一方でデスドレーの方は困ったような顔になり、こう答えた。
『魅了系ノスキルハ、格下ニシカ効カナイワケデ』
「……」
『我ヨリ強イ者ニハ……ソリャ効カンデショ……』
アルトに魅了が聞かなかった理由は、シンプル。
要はアルトの方が強いから効かなかったのだ。
「お、おかしいだろ! だって今の私は、あの魔王をも超える魔力量を得たはずで」
「そういやアルト、魔王が滅んだ後も修行を欠かしてないよな」
「今の俺なら、かつての魔王が百人襲ってきても勝てるだろう」
「あれからさらに強くなってたの!?」
それもそのはず、アルトは戦いが終わった後も修行を続けていた。
異世界の面々から「アルトは本来の魔王に勝てなくて、レイの【邪龍覚醒】で世界の危機を乗り切った」と聞いたからである。
そんな不甲斐ない話を聞いて、アルトが黙っているわけがなかったのだ。
「というか、レイよ。そもそもだけど」
「ま、まだ何かあるのか」
「龍スキルがアルトに効くなら、あの異世界の連中も恋バナしに来ないだろ」
「……あ」
それに【邪龍覚醒】したレイが来たということは、二年前のアルトでも魅了できなかったということ。
さらに強くなっているアルトに、何かできるはずはない。
「詐欺だ! こんなの詐欺だ!!」
『ヤ、マサカ対象ガソノ男トハ思ワズ……。テカ彼、何者ナノ? 強スギナイ?』
「どうも、アルトです」
『コレハドウモ』
「挨拶してる場合かぁー!!」
そう絶叫しているレイの顔面を、怖い顔のアルトが掴んだ。
そしてニッコリ笑い、
「レイには、いい加減に道徳秩序というものを学んでもらおうか」
「い、いや、悪かったアルト! それは、その、魔が差したというか!」
「懲罰牢を借りておく、そこでしっかり反省してもらおう」
アルトからきついお灸を据えられることになったのだった。
─────それからというもの。
「レイ、デスドレーに会いに来た」
「……また?」
平和な世界でデスドレーに、大した出番はないかと思いきや。
彼は毎週のように、激しい戦闘に身を投じていた。
『オオ、アルト。マタ来タカ』
「来たぞ。さあ闘ろう!」
『オウ。カカッテクルガイイ……!』
というのも邪龍デスドレーは巨古龍の一角で、規格外の実力を持つ怪物である。
修行を継続中のアルトにとって、デスドレーは理想の対戦相手だった。
『オオオ! 食ラエ、爆炎波ァ!!』
「効かん! たかが火球で俺を殺せると思うなデスドレー!!」
レイがデスドレーと契約してからというもの、アルトは毎週のようにレイの家に通った。
少年のような屈託のない笑顔で目を輝かせ、自慢の剣を手にもって。
「なぁレイ、なんであんなのと契約したんだよ」
「いやだって、そういう雰囲気だったじゃん」
アルトの組手に、オレは治療担当として付き合わされた。
組手に医療班は必要だから、それはまぁ仕方ない。
「……」
……ただ、デートの相手がおかしくない?
アルトお前、こないだ親に挨拶したところだろ?
なんでオレを放っておいて龍と遊んでんだよ。
「邪龍を妬ましいと思ったのは人生で初めてだ」
「奇遇だなフィオ、私もだ」
最近のアルトは、口を開けばデスドレーのことばかり。
オレの昏い感情が宿った視線に、アルトは気づかない。
デスドレーにとっても、友達が出来ていい結果なのかもしれないけどさぁ。
「……はぁ」
邪龍は現代に甦り、再び周囲に負の感情を蓄積させていた。
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