【リメイク版】TS転生してまさかのサブヒロインに。

逆襲っ！

「いくらなんでも、これはおかしい」

　勇者アルトは呟いた。

　アルトは「魔王軍に襲われているから、村を助けてくれ」と要請を受け、辺境の街に遠征してきたのだ。

　なのに、勇者一行が着くと同時に、ピタリと魔王軍は姿を見せなくなった。

　三か月ほど周辺を捜索をしたが、未だに尻尾すらつかめない。

「……」

　町の至る所では戦闘痕が見られたので、この地に魔王軍が巣くっていることは疑いようがない。

　敵に、ルートのような危機察知に優れた魔物がいるのだろうか？　勇者を警戒して、攻撃をしなくなったのか。

　それとも魔族はもう、ここから去っているのか？

「……悪い風が吹いている」

　アルトは勇者特有の勘で、もうすぐ何か良くないことが起きるのを察していた。

【フィオ視点】

　男の娘のジト目が、突き刺さる。

「ルート、だから小遣いの範囲だってば！　たまには羽目を外しても良いじゃねぇか！」

「そうとも。お前さんは嫌いかもしれんが、人間には娯楽が必要不可欠なんだぞ」

　夜、性懲りもなく宿を抜け出そうとしたオレとバーディ(バカコンビ)は、ルートに捕まって説教を受けていた。

「少なくとも、君達が使い込んだ資金を補填するまでは、色街に行くことは許さないから」

「「そこをなんとか！」」

「くどい！」

　2人して渾身の土下座を決め込むも、ルート(堅物)には効果なく。

　オレ達はルートに服の襟を掴まれ、ずるずると部屋まで引き摺られた。

　そして俺たちの楽しくヤらしい夜は、終わりを告げた。

「女の子と、イチャイチャしないと何もやる気が出ないんだぜ」

「以下同文」

「君達って奴は……」

　宿の個室まで連れ戻されたオレ達は、グデーっと死んだように机に突っ伏した。

　紹介所の優待券と紙幣を握りしめたまま、夜の街に未練たらたらに。

「普通の酒席なら付き合うからさ。そういった不健全な場所に頻繁に出入りされると、勇者の沽券にも関わるんだ。遠征中くらいは我慢したまえよ」

「ううう……。こうなりゃウチの四人娘の誰でもいいからお酌とかしてくれんかなぁ」

「で、その後アルト様のノロケ話をタップリ聞かされるのがオチだぜフィオ。どこかに可愛くて気立ての良くて俺を褒めて癒してくれる美女はおらんものか……」

「オレを甘やかしてくれる女の子はいないのか……」

「「……はぁ」」

「フィオ、君自分が女だって時折忘れていないかい？」

　ルートがふぅ、と悩ましげに溜息をついてそんな事を言った。

　─────その時、二人に電流走る。

　───閃きッ！！　圧倒的、閃きッ！！　それはまさに、悪魔の知恵ッ！！　

「そうだ……。いるじゃねぇか！　ここに美少女が！」

「なんてこった……。何でオレ達はこんな簡単なことに気が付かなかったんだ！」

「……フィオ、本当に君、自分の性別を忘れてたのかい？」

　ルートは呆れ顔でオレの方を見ている。隙ありだ。

　そのルートの両腕を、逃がさないように今度はオレ達がガッツリと握りしめた。

「……ん？」

「なぁルート、お前……」

　────よく見たら結構、可愛い顔してるよな？　

　オレたちの声がハモって、中性的な少年の顔から血の気が引いた。

「おかしいだろおお！！」

　目の前にはオレの私服を着て、清楚メイクをした美少女（？）が涙目で睨んでいた。何これ可愛い。

「ああ……。オレ、ルートのこの姿ストライクかもしれん」

「俺はもうちょい胸が欲しいな……。フィオ、お前の胸巻きでもうちょいサイズ大きいのは無いか？」

「ねーよ、平然とオレの下着触んな！　デリカシーねぇのかお前は！」

「僕をこんな姿にしてる時点で、フィオもデリカシーないよね！！」

　おお、ルートたんは怒った顔も可愛い。

　今夜のルートはフリフリスカート姿で、胸も詰め、髪も可愛くまとめてみた。

　それだけでもう、ルートちゃんは女の子になってしまっていた。やばい、凄いそそる。

「こう、アレだな。中性的で、きりりとした美人が涙目で顔真っ赤とかすごくそそるな」

「まったくだ。意見が合うなフィオ。こんな美女がお酌をしてくれたら、俺達は色街に出かけなくてもいいだろう。まさにwin-winだな」

「いや納得しないからな！？　そんな戯言で僕は絶対納得しないからな！」

　羞恥か、激怒かは分からないが、ルートの目尻には涙が浮かんできていた。うーん、眼福である。

「俺達は魔王討伐という重大な使命を背負っているんだ。そのためには、多少の犠牲もやむを得ない」

「女の子に癒されたいというありふれた願いだが、オレ達にはとても大切なことなんだ。分かってくれルート」

「君はまず鏡を見たまえよフィオ。自分の性別を確認して、化粧を施して、鏡やバーディと好きなだけイチャイチャしとけば万事解決ではないのかい！！」

「「あん？　馬鹿言うなよ」」

　やれやれ、ルートは分かってないな。

「「どうせイチャつくならマトモな女の子がいい」」

「僕はフィオよりマトモな女の子だとでも言いたいのか君達は！！」

　その通りだな。悔しいが、今の姿を見せつけられてしまっては、女の子として負けを認めねばなるまい。

「せっかくだし、ルートをこのまま四人娘の修羅場に放り込んでみないかバーディ？」

「Hoo！　そいつはとてもクールだぜフィオ」

「この人の皮を被った悪魔共め！　魔族よりたちが悪い！」

　オレ達が色街に行ってはならないなら、代わりの娯楽が必要だ。

　こんなに面白い酒の肴はないだろう。

「そーだ！　五分間だけ性格が変わるパーティーグッズの飴玉あったろ？　アレを飲ませて投げ込もうぜ。そんで何分後に、四人娘がこの美少女がルートと気付くか賭けないか？」

「お、いーな。だったら薬の効き目が切れる五分以内か以上かで賭けよう。そうだな、俺は五分以内で」

「いーぜ、ならオレは五分以上だな。よっしゃ、取り敢えずルートをツンデレにしてみるか」

「コイツら、本当に勇者なのか？　僕はこの先、コイツらを信じて闘っても良いんだろうか？」

　いかん、オレ達とルートとの信頼関係が揺らぎ始めている。でもまぁ、仕方ないね。

「オラオラ、口開けろ！　ツンデレルートちゃんにしてやるよ！」

「待て待て、ウチは我が強い奴が多いからな、弱気なルートちゃん(美少女)がみたいぞ俺は。こっちを飲み込めオラァ！」

「やめろー！　は、離せ！　君達のしていることは立派な犯罪だぞ！」

「うるっせぇ、カマトトぶるんじゃねぇ！　口開けて飲み込め、とっとと飲み込めよオラァ！」

「んん──！！」

　無理矢理ルートちゃんの口をこじ開け、ブツをねじ込む。どうやら、弱気な飴玉の方が入っていったらしい。

　くそぅ、オレはツンデレなルートちゃんが見たかったのに。バーディは風情を解さぬ男だな、全く。

「……お前ら、さっきから騒いで何をしてい……る……？」

　突如パタンとドアの開く音が部屋に響き、我らが勇者アルト様がひょっこり部屋に顔を出した。

　おや、珍しい。アルトがオレの部屋を訪ねてくるなんて。

　当然のように後ろには四人娘もついてきているし、色っぽい話ではなさそうだが。

「─────」

　何故かアルトは絶句し、黙り込んでいる。

　頭に疑問符を浮かべていると、やがてユリィが声を震わせ尋ねてきた。

「フィオさん、バーディさん。その娘、どなたです？　お二方は、彼女の手足を押さえて、馬乗りで何をなさっているのですか？」

　……おお、成る程。そう見えるのか。

「ヒクッ……ヒクッ……」

　おお、ルートちゃんは弱気になっちゃって、泣き出している。これは、成る程。

　────この状況でどう言い訳しても、弁明は無理だな。

「「誤解だ！　これは全部（バーディ/フィオ）って奴がやったんだ！！」」

　オレは咄嗟に、自分だけが無実であることを声高に叫んだ。オレは悪くねぇ！　バーディがやれって言ったんだ！

　ところが親友だと信じていたバーディは、オレに罪をなすりつけようと叫んでいるではないか。

　なんと友達甲斐のない男だろう。

「フィオてめぇ！！　なに自分だけ逃れようとしてるんだこの糞野郎！」

「見損なったぜバーディ！！　お前はもっと正直な男だと思っていたぜ！」

　───────ちゃきん。

　オレ達の口喧嘩の端に立つ男から、剣を抜く音が聞こえた。

　そう、勇者パーティ最強、いや人類最強とも名高いリアルチート、歴代最強の魔法剣士“アルト”が。

　オレ達に向けて剣を抜いていた。

「おおお落ち着けアルト！　無実だ、これは罠だ。バーディが仕組んだ巧妙な罠なんだ！　まずは話を聞いてはくれないか！？」

「アルト、俺達は仲間じゃねぇか！　信じる力って言うのは、奇跡を起こすんだぜ！　その為には、対話が必要だとは思わないか！？」

　ヤバイ、怒ったアルトに勝てる訳がない。どの距離でも闘えば最強。いわば、人間側の魔王みたいな奴だ。

　幸いにも、アルトはコクリと頷いた。頷いてくれた。

「……分かった。そこのお嬢さん、君はこの２人に何かされたかい？　どうして泣いているのかな？」

　ほっ。流石アルトだ、話が通じる。言い訳も聞かず問答無用で説教してくるルートとは大違いだぜ。これで誤解が解ければ、無事に笑い話に……。

「街で歩いていたらいきなり拉致されて、部屋で乱暴されそうになりました……くすん」

　……ルートちゃん？　何言ってるの？　

「ちょっとまて今ふざけるのは止めろルートォォォ！！　ホラ、見て！　アルトが構えたから！　剣を構えてこっちを睨みつけてるから！」

「悪かった！　女物の服を着せたのは悪かったから！　説明して！　ちゃんと事実の説明をォォォ！」

　こ、このカマホモ野郎！！　ここぞとばかりに普段の復讐をしてきてやがる！　なんて性格の悪い奴なんだ！　

「無理矢理服を脱がされて、変なモノを口の中に突っ込まれました……くすん」

「いやそれは事実だけども！！　ソレより先に説明することがあるでしょ！？」

「オイィ！！　ブツブツ何か唱えてる、アルトが魔法詠唱始めてる！　この宿ごと吹っ飛ばすつもりだぜあの馬鹿！　ルート、頼むから────」

　このままだと死人が出る。きっかり、２名ほど。

　頼むルート、そろそろ薬も解ける頃だろ！？　早く元に、いつものお前に戻ってくれ！　

「くすん、あんなにイヤだっていったのに無理矢理に……（ニヤリ）」

「おい今笑ったぞコイツ！　解けてるだろ、そろそろ弱気の薬も解けてるんだろルート！」

「やめろ、やめろ、その構えはヤバいから！　俺それ知ってる、この前の魔将軍を一刀で切り捨てた技の構えだろ！？　俺じゃソレ見切れねぇから！」

「黙れ。そして、散れ」

「「ぎゃぁぁぁああ！！」」

　数分後、一月前の様にオレ達はまた、肉塊となって道端に投げ捨てられたのだった。

　ルートめ、ゆるさん……。