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メカ少女は寂しくない【くり返す時が進むまで】

 夏の暑さが自分の水分を奪っていく。肌がジリジリ焼ける感覚が嫌で、思い切り水を浴びた。びしょ濡れのまま道を走る。息が切れるまで全力疾走。でも、すぐに走れなくなって足を止めた。服はとっくに乾いている。


 夏の暑さが自分の水分を奪っていく。肌がジリジリ焼ける感覚が嫌で、思い切り水を浴びた。びしょ濡れのまま道を走る。息が切れるまで全力疾走。でも、すぐに走れなくなって足を止めた。服はとっくに乾いている。



 もう何年も、毎日こうして走っているのに、走れる時間は長くならない。背も伸びないし、髪も伸びない。太りもしないし、痩せもしない。それなのに、腹は減るし、喉は乾く。でも、結局は変われない。ぼくだけじゃない。この場所も。季節も日付も変わらない。冬の寒さが恋しくなろうと、孤独に苦しもうと、時間は進んでくれないし、誰も来てくれない。だからもう諦めた。それならいっそのこと、変わらない事というものを受け入れてやる。

 そう思って、毎日、全く違うことをした。ある日は一日中叫んでみた。ある日は、一日がかりの工作を作った。ある日は、山の中で過ごしてみた。ある日は、ある日は、ある日は…繰り返した。

 「ははは」 

乾いた笑いが涙と共に溢れた。受け入れてやるなんて思っていたくせにもう耐えられない。作った工作も、自分がやったことの痕跡も、寝て起きたらもと通り。今回は一晩中起きていた。ぼくの過ごした痕跡が、ぼくの書いた文字が、ぼくがその時に存在していた証拠が。だんだんと薄れて消えていく。そのうち、自分までも消える気がして、怖くなった結果がこれだ。

 …このループに陥る前は、楽しい日々がずっと続けばいいのになんて思っていた。今は新しい日々を求めたい。なんでこうなってしまったんだろう。物語では、タイムマシンとか、不思議な魔法でループするけど、ぼくの住んでる田舎には、ハイテクな機械もないし、もちろん魔法なんか存在しない。

 それでもまた、前と違うことをする。この気味の悪いループに逆らいたいから。今回は、山の目の前にある小学校に行ってみよう。今、ぼくの見た目は中一。わざと懐かしさを感じるために、ずっと小学校には行かなかった。でも今は、重い門を押し開けて、中に入る。そして一年生の教室から順番に回る。自分の使っていたものをなぞりながら。でも結局、思い出に浸れる様な心境ではないままだった。

 最後の学年。四階の六年生の教室まで来た頃、静まり返っていた夏の空気を震わせて、蝉の鳴き声が聞こえてきた。それを聞いて、初めて懐かしいと思った。そもそも、虫の鳴き声を久しぶりに聴いた。…久しぶりに蝉の鳴き声を聞いた?今まで蝉の声を聞かなかったということは。少し時が進んだ?

 淡い期待を胸に、窓から身を乗り出して、近くの木々を観察する。

「ミ゛ーン ミ゛ンミ゛ンミ゛ン ミーン」

やっぱり聞こえる。自分の声以外の音に感動した。そして、今すぐこの音の主を見つけたいという思いに駆られた。目を皿の様にして探すと、見つかった。大きめの蝉。自分以外の生物がいる。窓からさらに身を乗り出し、蝉に手を伸ばす。


 不意に、地面に立っている感覚が消えた。なんとも言えない浮遊感に包まれた。世界が回って、地面にぶつかった。

「…誰?」

地面にふかふかの腐葉土があったおかげで助かったみたいだった。死なずに済んだ。そして、目の前には、見たことのない女の子。どうやらこちらを心配しているようだ。

「えっと…あっ、動かん方がええと思う」

「いや、ぼくはっ、大丈夫、だよ」

「あんた、なんでそんな声小さいん?」

「人と話すの久しぶりでさ」

「そうなんや。そういえば、私も話すの久しぶりやな」

 落ち着いてくると、だんだん希望のようなものが出てきた。自分以外に人がいるんだ。もっと話したい。

「ねえ、君の名前は?ぼくは、わたる」

「わたるって言うんやな。私はスカビオサやで。裏野ウラノスカビオサ」

「よろしくね」

「うん、それにしても、私の他に人あったんやなあ」

「僕たちの他にもいるのかな」

「私、暇すぎて一日で行ける範囲だけ旅しとったねん。でも、人に会ったんは、わたるが初めてや」

「それじゃあ、」

この近くにはもうぼくたちしかいないってことなのか、という言葉は飲み込んだ。本当にそうならと思ったら、考えただけでもゾッとする。そんなぼくの様子に反応したのだろうか。スカビオサが励ますような口調で喋ってきた。

「まっ、まあ大丈夫やって。ほら、私、わたるに会えたし。状況は昨日と確実に変わっとるんや」

「そっ、そうだよねっ。時は進んでるってことだよねっ」

「ふっ二人で未来に進む術を探すんや」

 そう言ったはいいものの、もう夕方だ。一旦家に戻って…ではない。明日になる時にはまた時がくり返す。戻っている時間はない。ぼくたちが出会った事実が消えるなら、スカビオサかぼくが消える可能性もあるのだ。

「ねえ、スカビオサ。時がくり返すまでにどうしたらいいのかな」

「私の地区に来るんやっ」

「え!?」

なぜかスカビオサの住む地区に来ることを提案された。

「なんで?」

「あかんかったら他の地区や!とにかく時間ないで!あそこの自転車、借りるでっ」

ぼくの問いには答えず、さっさと自転車で進み始めた。しかも全速力。

「まっ待って!」

慌ててぼくも自転車でついて行く。他の地区に行って何があるというのだろう。時間のくり返しと関係があるというのだろうか。

 そんなことを考えている間にも、空は暗くなっていく。地区を一つこえた。しかしスカビオサは止まらない。おそらく、自分の地区まで行く必要があると判断したのだろう。

「ねぇっ、どこまでかかるの?」

「もう二つ地区こえたらやからっ、大丈夫っやで!」

荒い息が混ざった声でそう言われた。自転車を漕ぐ速度も上がる。このまま止まったらもう動けないから走り続けよう。

 時間が結構たって、一つ地区をこえた。途中の公園で見えた時計は九時半。十二時こえたらまずいんだろうな。外は真っ暗になっていて、青白い月明かりと自転車のライトだけが、田舎道を照らしている。暑かったはずの風は冷たくなっていた。さらにスピードを上げる。ここの地区はさっきよりも小さいから時間は大丈夫かもしれないけど、ゆっくりこいでいたら間に合わない。その時、スカビオサが、ぼそりと呟いた。

「ギリで橋こえたら行けるかもしれん」

やはり時間がないんだろうな。疲れた足を動かして、ぼくたちは自転車を走らせた。

 十一時五十五分。橋が暗がりに見えた。やっときたと、自転車のスピードを少しゆるめた。長めの橋の上を渡り、向こうの地区に行く。もう少しで渡りきるというその時、自転車が浮いて、二人で大きく転げた。

「痛っ」

「ぎゃっ」

なんとか起き上がってみる。顔をあげると、目の前で、橋の上に放り出された自転車が、だんだんと薄れて消えていった。自転車で通った跡も、転がっている石ころも、薄れて消えていった。なんだかぼんやり光っていて、怖いけど綺麗だと思った。

 「間に合った…」

スカビオサの安心した声で我に帰る。そうだ。あの橋にいたらぼくたちは…。なぜここでは無事なんだ?


「スカビオサ…あっ大丈夫?」

「私は大丈夫やで。ほんまに間に合ってよかったわあ」

「…もし間に合わなかったら?」

「二人とも消えとった」

「えっ…やっぱり…」


ぼくはきっと間抜けた顔をしていたのだろう。スカビオサはぼくの表情を見るなり、くっくっくっくっ、と声を抑えて笑い、その後、大声で笑い始めた。


「あははははははっ」

「そんなに笑うなよ…マジで危なかったんだろ」

「そうやけど…あはははははっ」

「仕組みもわからないんだよ。僕は」

「はははっくっくっくっ…ふふふ…。仕組みなんて私もようわからんわ。でも、暇すぎて一日で行ける範囲のとこ走り回っとったら、わたるに会うたねん」

「僕は毎日水かぶってたよ」

「暑いからなあ!あはははははっ、びしょ濡れになるやん」

 おもしろそうで、話に乗ったら意外とうけた。スカビオサも暇な時にやってた行動を話してくれた。中には、かなり危険なものもあったけど、それすらも楽しかったそうだ。ぼくなら怖くてできない。お互いにやったことがないことばかりで、久しぶりに笑い転げた。スカビオサはいつも笑ってそうな子だった。

 地区も移動して安心したせいもあったけど、楽しくて仕方がなかった。同じ日がくり返すことは辛かったけど、スカビオサなら、ずっと一緒でも楽しそうだと思った。それからもしばらく喋り続けた。

 「私、今日はもう寝るわ」

「ぼくも眠たいな。あそこのでっかい家なら寝相悪くても大丈夫だね」

「私は寝相、悪ないで!」

「ぼくだって」

その夜は疲れた足をゆっくり休めて、お日様の匂いがする布団で眠った。


 数秒しか寝た感覚がないのに、外はもう明るかった。頭もいつになくスッキリしていた。とても疲れた時になる深い眠りだったんだろう。何時間も自転車をこぎ続けていたからだからだろうか。起き上がり、隣の部屋へ向かう。戸を開けると空っぽの敷き布団があった。スカビオサはもう起きていったのだろうか。顔を洗いにいったのかもしれない。

 洗面所を探して入ると、スカビオサがいた。昨日はおろしていた髪を一つにまとめている。

「おはよう」

「は、ほはよふ(あ、おはよう)」

新しく開けたのであろう歯ブラシをくわえたまま返事を返された。ぼくも歯磨きしようかな。

「ねぇ、その歯ブラシどっから出したの?」

「ん」

指さされた先には棚があった。開けてみると未開封の歯ブラシが大量にある。その中から一つ選んで取った。この家に住んでいる人に心の中で謝罪した。今はいないのだが。

 歯磨きを終えて二人で外に出た。今日は早めに別の地区に移動するつもりだ。昨日みたいなことにはなりたくないからだ。 それに

「さて、ループについてわたるが知っとる事教えてくれへん?」

「情報交換、しないとだよね」

そう。実は昨日喋ったことの中で、お互いが知っていることを教え合う約束をしたのだ。まずはぼくから。


「ぼくが知ってることは、

『ある日突然ループしだした』

『ループが始まった日、ぼく以外は消えてしまっていた』『自分が変化させたことは消えていった』

ってことくらいかな…」


「そうなんか…私が知っとることは、

『ある日突然ループしだした』

『私以外が見当たらなくなった』

『自分が変化させたことは、いくつかの地区を移動させると消えない』

っていうことくらいやな」

 

 ぼくとスカビオサでは知っていることに違いがあった。なぜ地区を移動すると消えないのだろう。ずっと気になったことを言った。

「ねぇ、なんで地区を移動すると消えないの?」

「だからわからへんって。まあ、これはあくまで予想やけど…場所ごと変えたら大丈夫ってことなんかな」

「ありそうだけど…それでもぼくたち消えるんじゃ…?」

「あー、自転車とか全部消えてしもたしなあ」

 思いつかなくてなんとなく遠くを見た。昨日通ってきた道が目に入る。橋がかかっていて、下には透き通った川が流れていた。

「スカビオサの地区の川はきれいなんだね」

「んなことないで。昔はきれいやったらしいけど、今は濁って汚れて、問題になっとる」

「え?」

もう一度川の方を見た。やはり透き通った水が流れている。遠くからでもわかるくらいなのに濁っている?走って川に近づいたみた。濁っている様子はない。いつのまにかスカビオサも来ていて、川を見ていた。

「きれいだよ?どこが濁ってるの?」

「何言うとん。どう見ても濁っとるやろ」

スカビオサのあきれたような物言いにむっとした。問題になるようなほど汚くはないだろう。ぼくの住んでたところなんかは、ゴミがあちこちに浮いていたんだから。水に触れようとした時、スカビオサに腕を掴まれた。

「なにしとるんや。そんなものに触ったら…」

ありえないと言わんばかりな表情で見られている。

 改めてよく見てみた。透明なはずなのに、浅い川の底が霧がかったように見えない。川の中から少し顔を出している岩の表面には、ベッタリと透明に見えるねばついた何かが、まとわりついていた。もちろん中に生き物なんてものはいない時々、川の中から泡が弾けていた。 これは水じゃない。

「…これ、何なの?」 

「これはループのせいちゃう。ループの前にこうなった。…生き物が住み着いてしまったんや。全部食べてしまった」

 話を聞いている内に、ここが別の世界のように感じてきた。天気が変わり、雨が打ちつけてくる。

「私の地区は、この時間に雨が降るんやで」

ぼくは、謎の生き物に支配された川をスカビオサと後にした。雨は降っているが、新しい自転車に乗った。黙々ともといた地区を目指す。

 やがて、雨雲は途切れて、夕焼けが現れてきた。ぼくの地区についた。

「ここは安全なとこなんやね」

「うん」

ぼくの地区は平凡だった。ただの田舎だった。違和感に怖くなって、この日はあまり話さず眠りについた。


 次の日がきた。洗面所でスカビオサは歯磨きをしていた。「おはよう」

「ほはよふ(おはよう)」

次の日になると、だんだん昨日のことは悪い夢だったような気がしてきた。だから普通に接することができた。スカビオサも、なんら変わらない。

「ああ、そうや、ずっと思ったったんやけど…」

歯磨きを終えて話しかけられた。内容は、夢だと思えてきていた昨日のこと。聞いている途中、違和感が納得のいくものに変わっていった。

「私とわたるの住んどる地区は、別の世界だったりするんちゃうかと思っとるねん。私の思う証拠としてはー」

地区の名前が記された古い案内図の前に連れて行かれる。ぼくの地区の名前は『×××』だ。次に、スカビオサの地区に自転車で行った。

 また長いこと走ってついた。ぼくのとこにあった案内図より、古い案内図だった。そこの前に連れて行かれた。地区の名前は…『×××』だった。同じだった。今更ながら周辺を観察する。建物などは、いろいろ変わってはいるけど、ぼくのいた地区と似通っていた。

「どういうことなんだ?これは…」

「つまり、私らが消えるんを回避できたんは別の世界同士を移動しとったから…やったりとか?」

スカビオサは真剣な顔つきでそう言った後、ニヤッとした。

「ま、あくまで予想やけど」

「ここまで言っといて⁉︎…て、そうだよね…」

結局、今から帰るわけにもいかず、スカビオサの地区…ぼくにとっては別世界のような所に泊まることにした。

 前にも泊まった広い家で眠りにつく前、ふと思った。消えたものはどうなったのだろうか、と。


 次の日、やはり二人でぼくの地区に移動した。今回は確認したいことができたので早く出た。そして自転車を走らせ、最初に、スカビオサの地区に行く時に使った自転車を探す。

 確か放り出されてた古いやつだったはずだ。もしかしたら、あの時こけたのも、ブレーキがあまりきかなかったからだったりして。まあ今はそんなことどうでもいい。

 少しあたりを探していると、案外あっさり見つかった。

「あの時…消えたはずなのに」

元の場所に、元通りに…。

「ぼくたちも元の世界に戻れるかな…ループがない、元の…」

「わたる!それ、ええやん!やってみよ!」

横からスカビオサがひょっこり顔を覗かせた。

「えっ、や、リスクもあるだろうし」

「永遠にこのままなんは嫌なんや。だから私は試したい。失敗してもその時やろ?」

「う、」

怖いんだったら自分が先に試すと言われ、言葉がつっかえた。もし、試されて、ダメだったら、消えてしまったら、ぼくは一人になるし、スカビオサは、死…いや、こんなこと、だめだ。でも、このままよりかは、だったらー

「ぼくも一緒に試すよ」

 こうして、今夜十二時、挑戦することになった。


 約十六時間後…家の時計は十一時五十九分を指している。あと一分ですべて終わる。後戻りはできない。もし、元いた世界に戻るなら、スカビオサともお別れだ。

「短い間だった…けど、離れても…元気でね」

「なんで戻れる前提やねん。……またね」

本当にまたね、だったら良かったのに。ぼくも「またね」で返そうとしたけど、十二時になってしまって、体は光って消えていった。世界も光って見えていた。




 ハッとして周りを見る。時計は…十二時を指している。ずいぶんボーっとしていた気がするけど、ぼくは夜中の十二時までなにもせずにいたのか?だが、体は疲れて重たい。まあいい。とにかく寝よう。明日は学校だ。

 翌朝、いつも通りに学校に行く準備をする。

「あ、わたる。お弁当忘れてるわよ」

「母さん。そうだった。それじゃあいってきます」 

ドアを開けて、ぼくはバス停に向かって歩いた。





 十五年後…。上京したぼくは、研究所の職員として働いていた。実はここは、ぼくの妻が動かしている研究所だ。妻は、スカビオサといって、娘のシイもいる。

 現在は、環境問題が起こる前に戻って対策するのはどうかという事で、タイムマシンを作っている。忙しいせいでシイにかまってやれないのが残念だが、もうすぐ完成なので問題ないはずだ。そんな考えで廊下を歩いていると、スカビオサと他の職員の話し声が聞こえてきた。

 「スカビオサさん!タイムマシンの開発には最初に乗って帰ってくる被験者が必要なのでしょう?」

「そうやで。恒久コウキュウさん、何か心配でも見つかったんかいな」

「はい。実は、過去に戻っても、過去の出来事に干渉できない可能性があるのです。それどころか被験者が戻れなくなる可能性も…」

「だから中止した方が良いと?」

「はい」

「…関係ないかもしれへんけど、このままやったら私の子が大人になる頃には、取り返しのつかへん事になっとるやろう…娘が、それによって危険に晒されんのは嫌やねん」

「お気持ちはわかりますが、他の方法を考えたほうが…」

「なあ、恒久コウキュウさん。同い年の子がおるんやろ?のぞみちゃんやっけ。あの子も危険に晒されるかもしれへんのやで」

「それは、」

 スカビオサ、何を、話しているんだ?だって、被験者は、タイムマシンに乗るのは…ぼくなのに。それに、何を言って、あの職員に同意させたんだ…何か嫌な予感がする。タイムマシンはほとんど完成している。


 一ヶ月後、ぼくはタイムマシンに乗っていた。あの日の話が嘘のように、職員たちは、スカビオサもシイも、笑顔で送り出す。少し心配そうなのが隠れているのも読み取れた。そうだ。きっと悪い夢だったんだ。

「…いってくる!また会おう!」

見送られて、過去へと旅立った。

 しばらくするとタイムマシンは停止した。降りてみると、あたりは真っ白で、スクリーンのようなものに、行くはずだった過去が映し出されている。それは遠くにどこまでも続いていて。

焦ってタイムマシンに戻り、現在を指定した。しかし、真っ白な景色は変わらず、代わりに旅立つ直前のぼくが、スクリーンに、映し出されていた。一枚先のスクリーンを見てみると、帰りを待つ職員たちがいた。もう一枚先を見ると、真っ青な顔の職員たちがいた。スカビオサは泣いていて、シイは混乱した表情をしている。

 タイムマシンの方を振り返ると、もう消えていた。もう一枚先のスクリーンを見ると、タイムマシンがあった。中には動かないぼくがいた。

 もう何十枚か先のスクリーンでは、スカビオサがぼくに機械を取り付けていた。もう一枚先のスクリーンではぼくは動き出していた。スカビオサの口が動いて、ぼくだったものに向かって話しかける。

『ヴェー』

スカビオサはあれがぼくじゃないとわかってやっているのだろうか。

 いずれにしても、なすすべはなく、真っ白い世界で行き場をなくしたぼくは、ただ、永遠に続くスクリーンを追い続けていた。





メカ少女は寂しくない【くり返す時が進むまで】

わたる(ヴェー)目線


  終わり











ここまで読んでくださり、ありがとうございました。



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