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The World Tree  作者: GUM
track3
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Break out of the Cage ーYamato VS Bladeー

20XX年4月5日 アメリカ CA サンフランシスコ市郡近郊


『何者だ?組織の連中じゃなさそうだが……』

 ASとエイブラムスが倉庫への潜入を試みていた頃、囮役で駐車場の側に待機していた大和を見て、ブレードが心中で呟いた。

『blade――刃か。ふざけた名前だが、その名前すら無かった俺にはお似合いかもな』

 男は自嘲して薄笑いを浮かべた。ごく幼い頃にオーガ化し両親に気味悪がられた彼は、潮幇ティオ・パンに売られ、そこで暗殺者として育てられた。彼の能力を見たメンバーが「blade」と呼び、それがそのまま彼の名前になった。

 殺人という非道な行為を強要されたが、居場所の無かった彼にとっては自分の存在意義を与えてくれた組織に寧ろ感謝をし、彼等のbladeになることを喜んで引き受けた。No.39に対する奴等の仕打ちを見るまでは――。

『だから、「あの男」の誘いに乗って彼女を連れて組織を離れることにした。マフィアの連中は組織の内情を知る俺たちを逃しはしないだろう。だからここで奴等を迎え撃つ予定だったのだが――組織に雇われたのか、変な奴が来た。傭兵だろうか?それにしては随分隙だらけだな。』

 ブレードは、キョロキョロと周囲を見回す大和を見て溜息を吐いた。No.39が倉庫へ続く道を歩いて来る男に透視で気付き、それを聞いた彼は予め正面玄関から出て近くの森の木陰に潜み様子を窺っていた。不審者は建物を気にしてはいるものの、警戒して近付いて来ない。ただ、背中に負った長物の存在と、ここからでは聞き取れないがたまに何事か呟いているのが怪し過ぎる。雇われた奴であろうと変質者であろうと、こちらに気付かれるのはまずい。

『その前に始末するか』

 今更亡き者にした人数が1人増えたところで大して変わりはしない。ブレードは木暗から駆け出し、一気に間合いを詰めた。右の尺骨を鮫の背鰭の様な形状に変形させて、大和の背後から振り下ろす。これが彼がbladeと名付けられた所以だ。彼の変化した骨は硬質化し、一般的なオーガの外殻と同じくらいの硬度になる。それが当たれば当然人間は簡単に切り裂かれてしまう。――が、その凶刃が大和に届くことはなかった。

 大和が先程から妙に周囲を気にしていたのは、それまで聞こえていた「音」がぴたりと止み、風すら凪いだからだった。日本でASと共に高野親子を追った時、山中で全く同じ状況を経験した彼は、オーガが近くに潜んでいることに気付いた。暗がりに身を隠したブレードを見つけることは出来なかったが、自らに差し迫った殺気で矢庭に反応し、八艘飛びで避けると抜刀して、腰を捻りながら薙いだ。目にも留まらぬ早さの反撃に、ブレードは咄嗟に己の刃で受ける。並の刃物なら逆に砕けてしまう。だが、オーガ狩りに特化した「鬼斬丸」を受けきることは出来ず、刃先が深く食い込み肉を抉った。

「ぐっ!」

 思わず呻き後ろに跳んで距離を取るブレード。目の端に流血する右腕を捉えながら、彼は初めて恐怖を感じていた。反撃を食らった事にも驚いたが、これまで彼の刃で防ぎきれぬ攻撃など無かった。それを軽々と肉ごと削いだ奴は何者なんだ。

 音も無く追って来る大和の追撃を躱しつつ、彼は必死に考えた。

『こいつの刀は受けきれない。それなら奴自身に攻撃を加えるしかない』

 ブレードは隙を突いてわざと肉薄し、右腕を振り上げた。大和の大太刀はリーチが長い分、懐に入り込まれると動きが取れない。身を引いて躱す大和の脚に足先を鉤爪状に変化させて蹴り入れる。脛に手応えがあった――しかし大和は鉤爪が刺さったままの右脚を迫り出して来た。少しバランスを崩したブレードの顔面を目掛けて柄当を食らわす。思わず庇った負傷した右腕に勢い良く柄頭を叩き込まれて怯んだ隙に素早く彼の側面に回り込んだ大和は、斜めに斬り下げた。ブレードは飛び退るが一歩間に合わず、パッと血飛沫が舞う。彼の眼前にあった筈の自身の右肘から先が消えていた。

 大和は躊躇い無く血煙の向こうから刀を突き出す。右脚に深手を負っているのだが、痛みなど存在しないかのように無表情のまま突っ込んでくる刀の化身のような男に、先程までの人の良さそうな青年の面影は無かった。

『化け物だ、こいつはオーガの俺よりもイカれた奴だ』

 太刀の切先が目前に迫ったその時――バンッ!爆発音と共に、眩い閃光が走った。同時に鳩尾に激痛が走り、体が後方に吹っ飛ばされる。

 フラッシュバンを放って両者の間に割り込んできた小柄な人影は、ブレードを殴り付けながら大和の手首を捻り上げた。

「ダメだよ、大和!仕事内容忘れちゃったの?」

 少年の様な高い声で嗜めつつ、その声に不釣り合いな怪力で仲間の腕を締め上げるAS。ミシミシと骨が軋む音が響く。それでもブレードに白刃を振り下ろそうとする大和に、ASはため息を吐いて言った。

「ねえ、また気絶させなきゃいけないの?自分でコントロール出来るようになりたいんでしょ?ほら、がんばれー!戻ってこーい!イサミくんを思い出せー!」

 地面に強かに叩きつけられ、息が吸えずもがくブレードを視界に捉えつつ、大和を牽制する。「イサミくん」に反応したのか、仲間の存在に気付いたのか、力が弱まり、目に光が戻ってきた大和を見据えて、ASは続けた。

「もう大丈夫?刀、しまえる?」

 自分に視線を合わせて首肯する大和を見て、ASは満足そうに頷いて手を離した。

「痛っ」

 切られた脚か、締められた手首が痛むのか、ぎこちない動きで大和は鞘を掴んで刀身を収めた。

 その間にASはブレードの側に屈んで、

「へえ!サイキックオーガも切り離した体や血液は消えるんだね!片腕だけで済んで良かったね!」

 と、物騒な呼びかけをしながら、止血帯で右腕を縛った。ついでに

「まあ逃げられないと思うけど」

 と呟き、左手と腰をワイヤーロープで括り、足も縛り上げた。

「よし、次はやまっちの番ね!」

 右脚を負傷した仲間を振り返ると、

「あ、おれは大丈夫!もう血止まったから」

 と言って、大和は自らの脚を指し示した。

「マジで!?やるじゃん!」

「あざっす!」

 ノリの軽い若者2人のやり取りをぼんやりした意識の中で聞きながら、

「化け物は2人居た……」

 とブレードは独りごちた。

「ところでお兄さん、ちょっと質問があるんだけど」

 小さい方の怪物がブレードの顔を覗き込んできた。

「ここに居るのって君と、可愛い彼女の2人だけ?君たちを手引きした人とか居そうな気がするんだけどなぁ?本当のところを教えてよ!教えてくれたら……」

 ASはブレードの頭を掴み、正面玄関の方へ向けた。

「もれなく君と、君の大切なお仲間を五体満足でマフィアから匿ってあげます!おっと、君はもう片手無かったね!」

 玄関の前に拘束されて転がされているNo.39を目にして青ざめるブレードのことなどお構いなしに、ASは琥珀色の瞳を愉快そうに細めた。

「女子に対して何という扱いを……」

「大丈夫だよ、気絶しているだけだから。っていうか、腕を斬り落とした奴には言われたくないね!」

 大和は恐怖に震え、ブレードは怒りに体を戦慄かせてASを睨んだ。

「……悪魔め!」

「もう!そんなに怒らないで!これは取引だよ。クールに行こうぜ!

 なあ、君を唆した奴が何を言ったか知らないけど、君達は罹患していない人間に殺されたとしても罪に問えない存在だ。マフィアから逃げ切れたらハッピーエンドが待っていると思う?そもそもうちの新米にあっさりやられちゃうような君の実力じゃ、それすらも怪しいよ。

 その点オレたちはオーガハンター、つまり専門家だ。君や彼女がこれ以上苦しまないように力を貸してあげられるよ。君たちは排除される対象だけど、同時に保護される存在でもあるんだ。今より悪い状況にはならないよ、協力してくれればね」

 朗々と語るASに、

「あ、マフィアに引き渡す訳じゃなかったんだ」

 と、大和は胸を撫で下ろした。ASはチッチッ!と指を振って言った。

「民間で許可無くオーガを保護や使役するのは禁止されているよ。もちろん譲渡もね。ちゃんとお勉強しなきゃダメだよ」

「面目無い」

 2人のやり取りを見て、ブレードは嘆息した。

「……そうか、お前たちはハンターだったのか。ふざけた奴らだが、そういうことなら納得したよ」

 彼が今まで相手にしていたのは、武術の心得があるとは言え、サイ能力やASたちのような特殊な体質では無い、自分より力の劣る人間だった。人間など自分1人で何とでも出来ると思い上がっていたが、上には上がいるということを身をもって知った。

「ふざけた野郎は大和だけ!一緒にしないで!」

「いや、人間離れしているのはお前の方だよ」

「あら、ありがとう!」

「褒めてねぇよ」

「お前ら、戯れあっている場合なのか?」

 ブレードの言葉に

「お、話す気になった?」

 と嬉しそうに笑うAS。

「そうだな、勘のいいお前に教えてやるよ。確かに俺たちには仲間がいる。ただ、お前たちの力じゃ奴には傷一つ付けられねぇよ。勿論俺でもな。何せ――」

 そう言ってブレードは口の端を吊り上げた。

「奴には物理攻撃が一切通じないんだからな」

 ASは「ん?」と小首を傾げる。

「それってやっぱりサイ能力者ってこと?」

「……そうだ」

 何でこいつこんなに落ち着いているんだ?と怪訝そうにASを見詰めるブレード。相方の隣で大和は『えんちゃんのピンチだ!』と慄いていた。

「じゃ、ちょうどいいや!」

 ASは指鉄砲でBang!とブレードを撃つ仕草をして、にんまりと笑った。

「新兵器が試せるチャンスだぜ!」

 呆気に取られている大和とブレードに構わずすっくと立ち上がると、

「よしっ!オレは見学に行ってくる!やまっち、オーガたちを見張っていて!ついでに情報部に捕獲の連絡よろ!」

 と言って、倉庫の裏口へ走り去って行った。

「なんだ、あいつは?」

 先程まで死闘を繰り広げていた2人は期せずして同じ言葉を口ずさんでいた。

ブレードくん、初期では大和のライバルにする筈があっさりやられてしまいました…。

大和が鬼斬丸使用の対オーガ戦で正気を取り戻すには、まだしばらく先輩の補助が必要なようです。

だいぶ荒っぽいパイセンですが…。

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