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The World Tree  作者: GUM
track2
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Dance of the Far East ーAbrams Ver.ー

20XX年7月21日 アメリカ CA ワールドツリー警備部社屋


「やれやれ、ASは疑り深い子だねぇ」

 ビデオ通話を切って、アレックスは困った顔をこちらに向けた。

「誰のせいだよ」

 やれやれと言いたいのは俺の方だ。

「あいつは俺ほどお人好しじゃない。あんたが目をつけている日本人も、気に入らなければ突っぱねるぞ」

「でも、自分と似た境遇の人を無下に突き放せるほど冷淡ではないと思うよ」

 俺の言葉に、アレックスは柔和な笑みを浮かべた。

「それになんだかんだ言いながらも仕事はきちんとこなすからね」

「さすがリーダー、よく分かっていらっしゃるようで」

 俺はASの口調を真似てみせた。

 帰社した俺を

「もうすぐASから任務の報告が来ると思うから一緒に(こっそり)聞こう」

 と自分の部屋に呼び出し、その10数分後に本当に連絡が来た時は驚いた。不意をついたつもりのASも悔しそうにしていた。

 ASは今回初めて1人で国外の任務に向かったのだが、ハンターの素質があるかもしれない奴の面倒を見ることに加えて、オーガ化した子供を保護するという珍しいケースに遭遇してさぞや大変だっただろう。文句を垂れながら甘い物を貪り食う姿が目に浮かぶ。

「ASが行って正解だったな」

 オーガを倒すことは俺にも出来るが、ハンターの家系に生まれた者の気持ちは当事者にしか分からないからな。

「そうだね。でもリヒト研究所の情報が手に入らなかったのは残念だったね」

「仕方ないさ。ただASの報告にあった「大和がオーガに対して攻撃的になった」というのは気になるな。――ハンターの血縁者ならNo.0と関係しているんじゃないか?」

「俺もそう思っていたんだけどね。大和くん自身は学校にも通っていたし、問題行動も無く、至って普通に生活していたみたいなんだ。

 実験に関するデータも事件のあった日に俺たちが手に入れた物以外残っていないし、調べようがないんだよなぁ。何か思い出してくれればいいけど、古傷に触れることになるからね」

 それこそASで正解だったってことだ。俺が大和に対面していたらトラウマを増やしかねない。

 No.0とは俺たち――正確には俺が敵を引きつけている間にアレックスが持ち出した――データに載っていた内容の一部で、オーガの抑止力になる存在を研究員たちはこう呼んでいたらしい。研究対象のオーガはそれぞれナンバリングされており、オーガでは無い為割り振られない番号としてゼロと呼称したようだ。

「とにかく今回のように突発的な出来事が起こり得る以上、今後は現場には複数人で行くべきだね。うちももっと対オーガ人員を増やさなきゃなぁ」

 うーん、と腕を組んで思案するアレックスに俺は言った。

「俺は1人でも問題無い。人手が足りない分は俺が行く」

「いや、君は少し休んでよ……」

「休みでもやる事は一緒だ」

 リヒト研究所の一件で俺の居た傭兵部隊が壊滅してから6年、自ら「皇帝」などと宣うふざけた野郎を追って方々を調べ回っているがなかなか尻尾を掴めない。目的が奴を屠る事というのもあるが、そもそも任務に就いている方が落ち着く性分なのだ。

「俺も働き過ぎと言われるけど君も大概だね。刑事にでもなった方がいいんじゃない?」

「それで奴が見つかるならそうするさ」

「もう少し若者らしい生き方をして欲しいなぁ。まあこの仕事に誘ったのは俺なんだけど」

「気にするな。俺はガキの頃からこういう生活だったんだ。また何か分かったら教えてくれ」

 そう言い置いて、俺は部屋を出て行った。

「困った子たちばっかりだねぇ」

 と言うアレックスの、老母の様な呟きが追い掛けてきた。俺が刑事ならアレックスは教師だろう。問題児ばかりで気苦労が多そうだ。

 刑事とは言ったものの、俺は正義感で「皇帝」を追っている訳ではない。父や仲間を奪った事に対する復讐でもなく、奴の俺を舐めきった態度に腹が立っているだけだ。

 6年前の冬、ソルトレイクシティにあるリヒト研究所がテロリストに占拠され、奴等を始末する為に俺たち「死線部隊」が送り込まれた。しかしそのテロリストというのは何処ぞの武装集団では無く、研究所で実験体にされていたオーガ化した「子供たち」だった。「子供たち」は研究員を皆殺しにし、俺たちにもサイ能力で大打撃を与え、実験データの大半を奪った。奴等を指揮していたのが「皇帝」で、俺に

「君は良い「目」を持っているね。僕の「子供」にしてあげられなくて残念だけど、楽しそうだから殺さないでおくね。是非期待に応えて欲しいな」

 などとほざいて去って行った。「皇帝」の側に居た赤髪の騎士の様な変な格好の男が炎を放ち、研究所を焼き払い、その際に残っていた研究データも殆ど焼失した。なので対外的には火事という事故で片付けられたが、実際には政財界にも研究所に関わっていた連中が多く、自分達の名前が出ることを恐れ隠蔽したのだ。傭兵部隊を派遣したのも、異能力を持った子供という戦い辛い相手に対して、国の組織を送るよりダメージが少ないからだろう。そこは俺たちも百も承知だし連中を恨みはしないが、結局部隊としては立て直せなくなったので、生き残った仲間が民間軍事会社を興し、俺もそこに加わった。皇帝閣下のお望み通り俺に止めを刺さなかったことを後悔させてやる、その一心で。

 つまり俺の動機はあくまで個人的な感情なので、勝手にやらせて貰っているだけだ。アレックスが気に病むことは無い。と言っても警備部部長として、そして死線部隊の元隊員という立場上気にしない訳にはいかないのだろうが。

 屋外に出て、宵闇の迫る空をふと見上げると、白い月が東の空に登っていた。そういえば今日は満月だ。

「オーガの親子がツキミしていた。ツキミって言うのは日本のイベントで満月を眺めてフィーバーするんだってさ。普通は9月なのに時期外れにやるなんてあの親子は天体観測が趣味なのかなって大和が言ってた。なんでフィーバーするのかって?昔の人はミラーボールみたいに見えていたんじゃないかだって。現代の日本人はツキミバーガーを食べるからだそうだよ。意味が分からない?オレも分かんねぇ」

 ASは報告の中でこう述べていた。……これは報告なのか?世界にはよく分からない風習があるものだ。

 しかしこの月をオーガが眺めていたのだとしたら、成体のオーガも人間らしい感情を残していたということだろう。オーガは消化器官が退化している為、食らった人間を排泄することが出来ない。そのため食料になった人体はオーガの腹の中で腐っていき、オーガ消失後にその状態で現れる。ASはオーガの最期を確認したが、犠牲者の遺体は現れなかったそうだ。つまり、今回の成体オーガはまだ人を食っていなかった。上位個体としてもあまりお目にかかれない。

 ここ最近上位個体のオーガに遭遇する機会が増えてきているが、元の人間に近い奴が多くなったのには何か意味があるのだろうか。研究所の事件以来姿を現さない「皇帝」が絡んでいるのか――それならば奴を引き摺り出せば終息するのか。

 俺はこの月の下で血生臭い闘争があったことなど嘘のように静かな海辺の街で、一人佇んでいた。

やっと主人公三人揃いました!

そして舞台は本拠地アメリカへ!

…何処でもやることは一緒なんですが。

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