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The World Tree  作者: GUM
track7
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Zero’s Memoirs

 ぼくはNo.0と呼ばれた。

 とりあえず「ゼロ」と名乗っている。


 父は日本の「鬼狩り」の一族だったけれど、彼自身にハンターの能力は無かった。でも、父はハンターにはなれなくても、別の方法で貢献したいと考えていた。そこで、バイオテクノロジーを学んで、オーガ化の治療薬を研究しているリヒト研究所に入職した。同じ志を持った母と結婚して、双子を授かった事を知ると、父は子供たちを自分がなれなかったハンターにしたいと考えた。母も賛成した。

 最初はどちらか片方を日本に居る祖父の元で後継者として育てる予定だった。ところが、生まれてきたぼくを見て、両親は考え方が変わった。ぼくの身体では社会に出て生きていくのは難しい、だったら研究所で実験体にしよう、と。母が出産したのは研究所の附属病院だったから、ぼくは出生届も出されずそのまま研究所送りになった。だから生まれてからぼくと弟が一緒に居たのはほんの数時間だけだ。

 そしてまともな身体で生まれた弟を後継者にして欲しいと祖父に頼んだけれど、「俺の代で廃業にする」と突っぱねられてしまった。仕方がないのでぼくを研究対象兼管理個体達の牽制役にする事にした。そして弟はぼくに何かあった場合のストックになった。ぼくが死んだり動けなくなったら役割を継がせるという目的もあるけれど、他にも例えば手足や臓器が損傷したら移植用として使うつもりだった。遺伝子がほぼ同じなら拒否反応も出ないだろうという理由だ。

 ハンターとしての才能があったぼくは、我流で剣術を覚えた。そして肉体の損傷に対する回復力が高かった。研究員の前では決して使わなかったテレポートと、弟とのエンパスは両親も最後まで気付かなかったみたいだけど。警備員には元軍人も居たから、射撃や体術も教わった。

 対して弟の方は虚弱体質で、しょっちゅう体調を崩して病院のお世話になっていた。ぼくが直接見ているのは14歳までだけど、その時まで弟はぼくと体格が同じで、本当に生き写しだった。普通の子供として育てられている弟を羨ましく思ったこともあったけれど、ぼくの知らない外の世界を生きている彼は、ぼくにとっては光だった。選べなかった人生を代わりに生きているのだから、何があっても守らなくてはいけないと思った。絶対にぼくと同じ目に遭わせちゃいけない。汚れ役は一人で十分だ。

 ちなみに弟の存在は父から聞かされていた。ぼくの性格上、知れば身代わりには出来ないと、己の役割に忠実になると思ったんだろう。逆に弟にはぼくのことは伝えなかったようだ。それももし兄が居る事を知れば、自分と代わって欲しいと騒ぎ出すと推測したのだろう。その読みは大当たりだ。我が子に親らしからぬ扱いをする一方で、ぼくらの心理を上手く利用していたのだから恐れ入る。

 母とは殆ど言葉を交わさなかった。完璧主義で潔癖症の母は不完全なぼくのことが気持ち悪かったみたいだ。同時に、体も弱いし、単純で賢いとも言えない弟のことも可愛いとは思えなかったようだ。虐待はしないし、最低限の世話はしていたから、誰も気付かなかったみたいだけど。弟も呑気だからあまり気にしていない様子だった。

 ただ、研究者としての興味はあって、例えばわざと傷を付けてどのくらいで治癒するのかとか、薬品を投与してどういう反応が起こるかなんて実験には付き合わされた。もちろん辛かったけど、ぼくには管理個体のお目付役という仕事があったから、ひどく痛めつけられることは無かった。まあぼくの場合、大抵すぐに回復するから被害が大きくならなかっただけかも知れないけど。

 ぼくより管理個体達の方が純粋な実験対象な分、大変な目に遭っていた。とは言え貴重な存在だから、簡単に殺しはしなかった。死んでしまうと肉体も消滅してしまうから、始末するのは実験失敗か、若しくは手に負えなくなった時だ。

 小さい子供は怯えるだけで、すぐ従順になるけれど、自我の確立した年齢で研究所に連れて来られた個体は、反抗的な態度を取ることがままあった。能力を使わせたり、制圧する為に使われたのがぼくだった。死にそうな思いをしたことも一度や二度じゃないけど、それでも回復力のお陰でなんとか生き残った。大変だったよ、何せ研究所としてはなるべく対象にはダメージを与えて欲しくないから、仕留めてしまうと叱責される。こちらの苦労なんて知ったこっちゃ無い。そのおかげでオーガの生捕りの技術が身に付いたけど。

 オーガは成体も含めて、常時50体は居た。管理個体は最大200番まで存在する。希少な幼体オーガをこれだけ集められるんだから、どこぞのお偉いさんも一枚噛んでいた筈だ。だから研究所の反乱は無かった事にされたんだろう。

 オーガ達はそれぞれ個室で管理されていたし、お互い接触させなかった。だからあの反乱の日まで、徒党を組んで暴れるなんてことは無かった。不定期に、大体月に3件くらい手の付けられない行動に出る奴が現れるんだけど、反乱の起こる日のひと月くらい前から、誰も反抗しなくなった。今思えば嵐の前の静けさってやつだ。多分この辺りから、盟主――君たちが「皇帝」と呼ぶ人物――が暗躍していたと思う。管理個体に一斉蜂起を呼びかけて、戦力を消耗しないようにしていたんだろう。ぼくは静かすぎる事を訝しんで、警備員に報告した。それで「死線部隊」がすぐ展開出来る様に手配された。さすがにぼく一人じゃ50体のオーガを抑えきれないからね。

 ところがサイキック達の執念は凄まじく、あっという間に大多数の職員を血祭りにあげると、戦闘能力の無い個体は隙を突いて逃げるか、サポートに回り、強い奴は傭兵を迎え撃った。ぼくも本来は傭兵部隊と共に暴動を鎮圧する筈だったんだけど、附属病院に向かった奴等に気付いた。弟が入院していたから、居ても立っても居られずそいつらを追いかけた。ぼくが一体を相手にしている間に、もう一体が病院の職員や患者を殺戮した。襲われた中に弟も居て、ぼくが二体目を倒した時、弟は半死半生の状態だった。もはや機能していない施設で弟を救うことは出来ないと判断して、初めてテレポートを使って救急病院へ運んだ。

 弟の処置が行われている間に、研究所の生存者が次々と運び込まれてきた。殆ど附属病院の関係者で、それも弟と同じくらい痛めつけられていたから、実際に命を繋げたのはほんの一握りだと思う。弟が助かった事を確認してから研究所に戻ったけれど、その時には火の海でどうにか出来る状態じゃ無かった。

 その後、両親を失った弟は父方の祖父母の元に引き取られることが決まった。ハンターの家柄と言うのが少し引っ掛かったけど、気の弱い弟が興味を示すとは思えなかったし、祖父も後継者を育てる気は無いみたいだったから任せることにした。存在を知られていないぼくはこっそり日本までついて行こうか迷ったんだけど、ぼくが近くに居ると却って影響を与えてしまいそうだから、アメリカに残って裏社会に潜ることにした。ただ、弟が平和に、自由に生きてくれることを願いながら。



20XX年5月12日 アメリカ OK 元死線部隊訓練地・管理小屋


「こうして7年間穏やかに過ごしてきた――と思っていたんだけど、ぼくは選択を誤っていたみたいだ。やっぱり日本に行くべきだった。そして「鬼斬丸」に弟を近付けないように手を尽くさなくてはいけなかった。若しくは、ぼくが祖父の代わりにオーガハントの依頼を引き受ければよかったんだ。弟を脅かす敵は、すぐ側に潜んでいたんだ」

「アングラでの生活が穏やかなのか?」

 ぼくの呟きに、ラルフが眉根を寄せた。そういえば彼も研究所の反乱以降、カイザーを追って裏社会に居たんだっけ。目的が違うから会う事は無かったけれど、同じ道筋を辿るとはハンターの宿命なのか。

「財宝を掘り当てたつもりが、地雷にぶち当たったようだね」

 隊長が含みのある言い方をして、隣のラルフに目をやった。

「敵はすぐ側に潜んでいた、ってことだな」

 それを受けて肩を竦めるラルフ。何が言いたいのかさっぱり分からない。

 ぼくは胸ポケットから一枚の紙を出して、テーブルに広げた。

「あと、これ、反乱が起きた時に研究所に居た個体番号と見た目、それから能力を書き出したよ。バツを付けたのがぼくが倒したオーガ。最終的にこの中の何体が生き残ったのか分からないけど」

「おおっ!助かるよ!よく覚えていたね!」

「毎日見ていたからね。ただ、ぼくみたいに能力を隠していた奴も居るかもしれないから、ここに書いたものが全てとは言えないけど」

 嬉しそうにぼくの書いた一覧表を眺める隊長に釘を刺した。

「実際No.付き以外にも、この間のブレードくんみたいに呼応するオーガも出て来るかもしれないしね。キリが無いよねぇ」

「それでもカイザーと接触した「子供たち」が奴の居所への手掛かりになるのは間違いない」

「その事なんだけど、ちょっと気になっていて」

 ラルフの言葉に思わず口を開いた。

「カイザーは「子供たち」を直接指揮していたの?若しくは彼が能力を使う所は見た?」

「いや、奴等はただ研究所への復讐という目的だけで動いていた。俺と戦ったのもカイザーにぴったりくっついていた赤髪の男で、「皇帝」が引き上げる時その側近と「子供たち」も一緒に立ち去った。カイザーが何かをしている様子は無かったな」

 思い出しながら語るラルフに、ぼくは頷いて続けた。

「これはぼくの推測なんだけど、カイザーの能力って「オーガ化した人間を操る」ものなんじゃないかな。それも一対一じゃなくて複数、言葉を発さずに自分の意思だけで動かすことが出来る。有効範囲とか一度に何体操れるのかとか、その辺りは不明だけどね。君に「子供に出来なくて残念」なんて言い残していったのも、君の力はハンター由来で操れなかったからだと思う」

「今度こそお前が話したんだよな?」

 ラルフがギロリと隊長を睨んだ。

「研究所の情報を貰うんだから、こちらも伝えないとフェアじゃないだろ?それにゼロくんは大和に関わることでしか動かないから、吹聴する心配は無いよ」

「そうだね。君たちは弟の仲間だから、不利益になる事はもうしないよ」

 ちょっかいを掛けただけのつもりだったんだけど、弟はえらく気にしていたから、これ以上やったら胃に穴を開けそうなのでやめておく。

「さっきから弟、弟ってお前の意思は――ああ、持たないように教え込まれてきたんだったな。何でもない、忘れてくれ」

 ラルフの言葉にぼくは首を傾げた。ぼくの意思?それは弟の力になることだ。ハンターとしての教育しか受けていないぼくはそれしか役に立てないから。

「君は察しが良いんだか悪いんだか分からないね。まあいいや。カイザーは能力を隠したいのか――サイキックは力がばれると対応されて優位性が無くなるからね――それとも攻撃に使える力を持っていないかのどちらかだね。「赤髪の騎士」を侍らしている所から見るに、後者の可能性が高い気がする。つまりカイザーを探すより、目立つ力のある騎士や「子供たち」にターゲットを変えた方が引っ掛かりやすいんじゃない?さすがに集団では潜んでいないだろうけど、側近を引っ張り出せれば足掛かりにはなるかも」

「騎士はまだ見つからないけど、「子供たち」なら出て来る可能性はあるね。No.28が仕掛けてきた一件もあるし」

「言っておいてなんだけど、幼体オーガの情報を手に入れるのは難しいよ。ぼくも裏社会でオーガハントをしてきたけど、入ってくる情報は殆ど成体オーガのものだったから」

「まあそう簡単に見つかったら世話がないよね。でも情報を得る伝手はあるってことだよね?引き続きお願いしてもいいかな?」

「それは構わないけど、そっちにも優秀な情報屋がいるじゃないか」

 ぼくの居所を見つけたという少年が情報部に居る。別に隠れていた訳ではないけれど、弟から連絡を貰った時は驚いた。

「情報部はネットワークでのやり取りは出来るけど、実際に動ける存在も必要だからね。特にアングラだと情報網が整備されていないから。勿論報酬は払うよ。今後は幼体オーガだけじゃなくて、成体も捕獲したらうちに連絡してね」

 隊長に笑顔で念を押された。オーガの売買は違法だから、正規ルートで引き取ってくれるならぼくとしてはその方が有難いけれども。

「裏社会の人間と取り引きして大丈夫なの?」

「オーガに関しては俺達は認定組織だから問題無いさ。我々から外注した、と言うことにしておくよ。――という訳で、これを渡しておくね」

 そう言って、隊長はぼくにスマートフォンを渡した。最新型だ。

「連絡はそれを使ってね。君の携帯、あまり調子が良くないって聞いたからさ」

 身分証明の無いぼくは通信機器の契約なんて出来ないので、闇市で購入した古い型の携帯を改造した物を使っている。通話だけはなんとかなる――それも電波が悪いとすぐに切れるけど――状態なので、これは助かる。

「ありがとう。これで弟と連絡が取れるよ」

 ぼくが目を細めると、隊長とラルフは少し驚いた様だ。弟にも指摘されたが、ぼくはそんなに表情が硬いのだろうか。

「おい、これがブラコンってやつじゃないか?」

 ラルフが隊長を突くと、

「うーん、大和もなかなか大変そうだね」

 と苦笑いされた。失礼な人達だ。まあ、弟に親切にしてくれているなら何でもいいけど。

「そういえば弟は別の場所に仕事に行っているんだよね?金色の目の小柄な仲間と一緒かな?」

「そう。2人、上手くやれているといいんだけどねぇ」

「おい!余計なことを言うな!」

 隊長の心配そうな呟きをラルフが遮った。

 弟の暴走を止められた彼なら、不安は無いと思っていたんだけど――

「何か気がかりな事があるの?」

 ぼくが尋ねると、二人はしまった!という顔をした。これは怪しい。

「それならぼくが今から向かうから弟達は何処に――」

「いや!問題無い!大丈夫だから!」

「何でもかんでも手出しをするのは親切では無い、迷惑だ!お前の兄弟の成長を妨害することになるぞ!」

 畳み掛けて止められた。

「これ以上事態をややこしくさせてたまるか」

 とラルフが小さく独りごちる。人を厄介者扱いとは酷い。ぼくはただ弟思いなだけだ。

「わかったよ。弟の邪魔になるなら我慢する。その代わり――万一弟に何かあったら承知しないから」

 ぼくが彼等をじっと見つめて楔を刺すと、「うわぁ……」と言って仰け反った。

「面倒臭いぞ、こいつ」

「何かを得る為には犠牲が付きものだ。覚悟を決めるんだ、ラルフ」

 何なんだ、人を悪魔みたいに悪し様に言って。

 きっと彼等は周りの人間から大事にされて育ってきたんだろう。そういう人達にはぼくの心根は決して理解出来ないし、して貰おうとも思わない。ぼくは只、弟の影で居られればそれで良いんだ。

「全くご都合主義だけどね」

 ぼくは遠い地に居る弟を思って、そっと呟いた。

東堂兄(姉?)主役回。

ゼロの名前の由来は「零戦」から。

主人公達も各国の兵器の名前を使っています。

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