ニンジン君がんばる
人が寝静まる頃、この世界はぬいぐるみたちの世界に切り替わります。
動物や人のかたちをしたぬいぐるみが家中を騒いで回り、毎日がお祭り状態です。
子犬の豆太は、何が楽しいのかカーペットの上をクルクルと転がっています。
まん丸猫のポッチャリは、ベッドの上でぽよんぽよん飛び跳ねていました。
クマのダンディと小結は、二人で仲良く相撲を取っています。
みんな、本当に楽しそう。
凄く、凄く、うらやましい。
残念ながら、僕はその輪に加わることができません。
何故ならば、僕にはみんなのように足がないから……
僕はニンジンのぬいぐるみです。
足もなければ手もないから、自由に動き回ることができません。
オマケにご主人様である奏ちゃんからも嫌われており、部屋の隅に追いやられてしまっています。
僕は奏ちゃんのことが大好きなのに、とってもとっても悲しい……
今日も僕は、一人でみんなのことを見ています。
すると、いつもとは違う行動をしているぬいぐるみたちがいました。
男の子の文太君とアミバ君、そして女の子のユリアちゃんです。
三人はヒソヒソと何かを話していました。少し聞き耳をたててみます。
「俺はもう、我慢ならねぇ!」
「俺もだ! 今日は服を脱がされただけじゃなく、足が千切れそうだった!」
「でもでも! それはきっとアミバ君のことが好きだから……」
「好きだからって、噛みつかれたり引き千切られたら堪ったもんじゃない! 俺はやるぞ!」
「俺もだ!」
会話の内容は、どうやら奏ちゃんへの復讐をしようという話のようです。
文太君もアミバ君も奏ちゃんのお気に入りなので、二人はたくさん遊んでもらっていました。
でも、二人にはそれが不服だったみたいです。
二人はわがままだなぁ。僕なんて、遊んでももらえないのに……
「よし文太! 行くぞ! 復讐だ!」
「おう!」
「ダメよ二人とも!」
ユリアちゃんは止めますが、二人は無視して奏でちゃんのもとへ向かいます。
これはいけません。なんとか止めないと!
僕は必死に体を揺すって棚から転げ落ちます。
そしてカーペットの上を転がり、豆太を踏み台にしてベッドへジャンプ!
今度はポッチャリのお腹を利用して、二人に向かってさらにジャンプ!
「やめろーーーーー!」
「「うわ! なんだお前は! ギャーーーーーッ!!!!」」
二人は僕の下敷きになり身動きが取れません。
僕の体は二人よりもかなり大きいので、これで大丈夫でしょう。
僕にはこのくらいしかできないけど、奏ちゃんのことを守れて、良かった――
◇
「あら奏! ニンジン食べられるようになったの!?」
「うん! 昨日夢でね! ニンジンさんが私のこと守ってくれたの! だから私、ニンジンさんだーい好きになったの!」
おしまい