短編小説③
【テーマ】花
私の先輩は、花が好きだった。
黒ぶちの眼鏡をかけて、放課後はいつも花壇で花の世話をしていた。
楽しそうに汗を拭う先輩は綺麗で、頬につく土を指摘すると照れくさそうに笑った。
先輩は花に名前をつける癖があった。喋りかけながら愛おしそうにそっと触れる。
そんな横顔をみるのが、私はどうしようもなく好きだった。
今は花壇いっぱいのツツジを育てていた。色とりどりのツツジが咲く花壇の前で、私は先輩に想いを告げた。
先輩は驚いて、困ったように笑う。
「ごめんね。僕には好きな人がいるんだ」
私はフラれたショックで、先輩の恋人はそこの花ですか、と嫌味たらしく言った。
先輩は一度花壇を見やり、頷いた。
「うん、そうだよ。僕の好きな人は......恋人はここだよ」
その後、私は先輩に会うのが気まずくて花壇には近寄らないようにしていたが、教室の窓から眺める花壇はいつも綺麗な花で溢れていた。
今日も先輩は花壇で最近あったことを話ながら、花の世話をしている。
愛しい人に向けるような熱っぽい視線が私に向くことはない。わかっていてもまだ割りきることはできなかった。
深くため息をつき、机に突っ伏す。
そういえば、前に育てていたアネモネにも今と同じ名前をつけていたことを思いだし、もう関係ないか、と私は帰り支度を始めた。




