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8.2人の冒険その3


 昼休憩もとり、更にもう一階層地下へと潜る。

 出てくるモンスターの数が増えると同時に鉱石の数も増える。

 ユイは相変わらずの手際の良さでモンスターをあっという間に討伐し、ラルドは鉱石をとることに集中することが出来た。

 やがてリュックに鉱石がいっぱいになった頃、ユイがラルドの方を振り向く。


「どうしますか?もう少し下に行きますか?」

「いや、今日はもうこれだけで十分だ」


 目標としていた分の鉱石はとれた。いや通常で考えれば高価な鉱石が無料でこれだけ集められたとしたらそれだけでもう十分だ。

 ラルドは満足げに笑みを浮かべる。


「そろそろ帰るぞ」

「えええ!?も、もお!?」

「もおってなんだよ。まだこんなとこにいたいのか?」

「い、いえ、でも、せっかくのデートだし」

「だからデートじゃねえよ!」


 ラルドのその言葉にユイは不満そうな顔をする。

 あくまでユイにしてみれば二人っきりのお出かけらしく、ダンジョンにいるというのに危機感が全くない。

 これも慣れているからだろうか。

 ラルドはため息をつきながら、ユイの方を見る。


「わかった。今度どっか行く時は付き合ってやる」

「え?」


 ラルドのその言葉にユイははっとしたような顔をし、慌ててラルドの元へ駆けよる。


「それって、どういうことですか!?」

「だから、今回は俺のやつに付き合ってもらったんだ。今度お前の出かけるところに俺が付き合ってやる。そう言っているんだ」

「それって、デートじゃ」

「デートじゃない!あくまで出かけるだけだ!」

「でも、2人っきりですよね!」

「まあ、そうなるな」


 それを聞いてユイは思わずガッツポーズをとり、両手を上げ喜ぶ。


「さすがはラルドさん!本当に大好きです!」

「喜びすぎだろう」


 本当はお金での謝礼をと思っていたが、こちらのほうがユイにはいいだろうと提案したのだが、まさかここまでユイが喜ぶとは。さすがのラルドも思っていなかった。

 あまりの喜び様にラルドは思わず苦笑いを浮かべる。


「わかったら、早く帰るぞ」

「はい!」


 帰ろうとしたその時、ふとユイがあっと声を上げる。


「ラルドさん、あの岩場見て下さい!鉱石ですよ!」

「おい、鉱石はもういいって」


 そう言いかけてラルドは思わず岩場にあったそれに目を奪われる。

 普通の鉱石と違い鮮やかな紫色の結晶。

 それは鉱石ではなかった。鉱石よりもずっと純度の高い魔素を取り込んだ石。

 魔石と呼ばれるものだ。


「なんでここに魔石が」


 魔石がここにあるということはそれだけこの場所の魔素が高いということだ。

 ということは。

 はっとしてラルドはユイを呼ぶ。


「ユイ!早く戻るぞ!」

「え?どうしたんですか?」

「これは魔石だ!ここに魔石があるってことは、ここは」


 最後まで言い切ることはできなかった。モンスターの雄叫びでラルドの言葉は掻き消えたからだ。

 見ればそこには今まで倒してきたモンスターとは比べようもないほど大きなモンスターがいた。

 遅かった。

 より濃い魔素があるということはそれだけそばに強いモンスターがいるということである。

 ラルドはそのことに気づき、逃げようとしたが間に合わなかった。


「ラルドさん!下がって下さい!」


 ユイはそう言うとラルドの前に出て、モンスターと対峙する。

 剣を抜くとすぐにユイは構える。

 先ほどまでとは違い、すぐに倒さず睨み合っているところを見るとそれだけあのモンスターが手ごわいということだろう。

 ユイはモンスターと睨み合う。

 やがてモンスターは再度雄叫びを上げると、ユイに向かって襲い掛かって来た。

 ユイはそれを軽々とよけ、モンスターの身体に一部を切り落とす。

 モンスターは悲鳴を上げながらもなおユイに向かって突進する。それをユイは間一髪で避け、今度はモンスターの腹を切り裂く。

 迷いのない動き。

 その動きからはユイが戦い慣れていることがわかった。


「すげえな」


 その様子を見て、思わずラルドは呟く。

 ユイの動きはまるで一流の剣士の動きのそれである。ついこないだまで、武器も何も持っていなかった少女とは思えない動きである。

 気づけば、モンスターは自らの敗北を悟ったのか逃げるような動作をする。

 しかしそれをユイは許さない。

 逃げるモンスターの背にとびかかり、その背に深々と剣を突き刺す。

 モンスターは苦し気なうめき声をあげ、地面に倒れ伏すとやがて動かなかくなった。モンスターが死んだことを確認するとユイは深々と刺さっていた剣を抜く。

 終わった。

 そう思いラルドが安堵した時、ユイは顔を上げ、鋭い声で叫ぶ。


「ラルドさん!危ない!」

「え?」


 ユイの叫び声とラルドが振り返ったのはほぼ同時だった。

 そこには先ほどユイが戦っていたのと同じモンスターがいた。

 モンスターは雄叫びを上げるとラルドに襲い掛かる。

 ユイと違い、ラルドはただの鍛冶屋である。成すすべなどあるはずがなかった。

 悲鳴を上げる間もなく、モンスターの攻撃がラルドに迫る。

 とその時、眩しい光があたりをつつんだ。

 何が起こったのかラルドは一瞬わからなかった。

 眩しい光がやんだと思ったら目の前にはユイが立っており、前にいたはずのモンスターの姿は跡形もなくなっていた。

 ユイの片手に握られている剣が光り輝く。

 どうやったかはわからないが、光り輝く聖剣を見て、先ほどの眩しい光が聖剣によるものだとわかった。


「ラルドさん!大丈夫ですか!?」


 ユイは振り向くとそう言い、ラルドの顔を心配そうに覗き込んでくる。それにラルドは呆然としつつも応える。


「あ、ああ。大丈夫だ」

「良かった」


 ラルドの返答にユイは安堵した顔をし、笑う。

 その顔を見ながら、ラルドはちらりと先ほどまでモンスターがいたはずの場所を見る。


「ラルドさん?」

「いや、お前、本当に強いんだな」

「何を今更」

「いや、そうだが」


 あんな大きなモンスターをたった一撃で倒すなんて。

 やはり彼女は聖剣に選ばれた勇者ということだろう。

 俺とはやっぱり立場が違う。

 そうラルドは内心で思った。







「あの、やっぱり怒っていますか?」


 あの後、その場に残っていた魔石を回収して、ダンジョンの入り口へとラルドとユイは戻って来た。

 入り口に着くなりユイはそう言い、ラルドの方を伺う。


「怒ってる?何でだ?」


 そう言いつつ、ラルドは辺りを見る。外はすっかり夕方になっていた。久しぶりに見た外の光景にラルドは内心安堵した。

 鉱石をとれたことは良かったが、やはりダンジョンなど好んで入る場所ではない。

 ラルドはほっと息を吐くとユイの方を見る。


「だって、あれだけ守るっていって結局危険なめにあわせてしまって」

「危険なめだ?何言っている。ちゃんと守ってくれただろう」


 確かに危ない場面はあったがユイは言葉通り、ラルドを守ってくれた。そのおかげでラルドは傷一つ負っていない。

 だというのにユイは何故か暗い顔をしている。

 そんなユイの様子にラルドはため息をつくとそっと手をのばし、ユイの頭をがしがしと撫でる。


「ちょ、ら、ラルドさん!?」

「ありがとうな」

「え?」

「助けてくれてありがとう」


 ラルドはそう言うと更にユイの頭を乱暴に撫でる。

 ユイは何も言わなかった。

 いつもならきゃあっとかなんとか騒がしく声を上げるというのに。

 しばらく撫でてからラルドは撫でるのをやめ、手をはなす。

 どうしたのかと思い、ユイの顔を覗き込むとその顔は真っ赤に染まっていた。


「おい、大丈夫か?」

「ラルドさん!」

「お、おう」

「大好きです!」

「そ、そうか」


 どうして今更。とラルドは思ったが、何かを言う前にユイは顔を上げ、ラルドをじっと見つめる。


「私、もっと、もっと強くなりますから!」


 そう言ってユイは笑う。

 その笑顔を見ながらラルドはああと思う。

 この先ユイは間違いなく今よりももっともっと強くなるだろう。

 彼女は勇者だ。当然である。

 そしてそれと同時にきっとユイとラルドの立場も変わるだろう。

 ユイが勇者として名前が売れると同時に彼女はどんどん立場が上がっていく。ただの鍛冶屋の店主のことなどそれと同時に忘れていくだろう。

 そう、ラルドもわかっていた。

 わかっていながらも、それでも今のこの関係がどこか心地よく感じられ、いつの間にかもう少しだけこのままの関係でいたいと望むようになっていた。

 もう少し、もう少しだけ。

 いずれ終わる関係だとわかっていながらも、そう思わずにはいられない。


「ラルドさんどうしました?」


 ラルドが黙ってユイを見ていたせいだろう。ユイは不思議そうにラルドの方を見る。

 それにラルドは笑って答える。


「なんでもねえよ」


 そう言うとラルドはユイの頭をもう一度撫で、歩き出した。


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