6.2人の冒険その1
「ラルドさーん!お待たせしました!」
からんと扉についたベルが鳴ったと同時にユイが大きな声でそう言いつつ、店の中へと入ってくる。
その顔は満面の笑みである。
よほど今日という日を楽しみにきたのだろう。いつも以上の気合が感じられた。
ユイのあまりの張り切りようにラルドは一瞬気おくれする。
「今日はやけに早いな」
気おくれしつつもなんとかラルドはそう言う。それにユイは親指を立てて、答える。
「そりゃあ、初デートですから、気合い入れてきました!」
「だから、ちげえって!鉱石を探しにダンジョンに二人で行くだけだからな!」
「はいはい、わかりましたって」
「たく、本当にわかってんのかよ」
ラルドはそう言うとため息をつく。
用意していた荷物を背負い、出発する準備を整えると店のカウンターのところにいるジークの方を向き直る。
「じゃあ、店を任せたからな」
ラルドのその言葉にジークは笑顔で頷く。
「はい。親方も気を付けて行ってきて下さい」
「ああ」
手を挙げてラルドはそれに答えるとユイの方に向き直る。
「まあ、今日はよろしくな」
「はい!任せて下さい!ラルドさんのことはきっちりかっちり守りますから!」
「お、おう」
ラルドはもう一度ジークに頼んだぞと言うとユイと並んで店を出る。
昼間に外に出るのは久しぶりである。
天気が良く、まさにお出かけ日和の空をラルドが黙って見上げているとユイがその顔を覗き込んでくる。
「ラルドさん!今日はどのダンジョンに行きますか?」
「一番近いダンジョンで頼む」
「一番近いダンジョンと言えば、街はずれのダンジョンですね。あそこでいいんです?私とならもっと強いとこのダンジョンにも行けますよ?」
「いや、あそこでいい。あんまり遠いと鉱石を運ぶのが大変だからな」
「そうですか」
「それより報酬は本当になくていいのか?」
「はい。ラルドさんとこうして出かけられるだけで十分ですから!」
ユイはそう言うと本当に嬉しそうに笑う。
そんなふうに嬉しそうな顔をされてはラルドも何も言えない。
少し気まずげにしつつ、そうかと呟く。
「まあ、任せて下さい。私にかかればモンスターなんてあっという間に倒せますから」
「ああ」
こうして二人は街はずれのダンジョンへと向かった。
ダンジョンとはモンスター巣窟である。
モンスターが昔、人が住んでいた場所や洞窟などに住み着くことでその場所はダンジョンとなる。モンスターが住む為、魔素が高くなり、そのおかげで様々な資源がダンジョンではとれる。
鉱石もそのひとつだ。魔素から作り出された鉱石は武器や防具の材料となる。魔素がより高く純度がよい鉱石は魔石と呼ばれ、特殊な武器や防具を作ることが出来る。
冒険者達はダンジョンに潜り、モンスターが増えすぎないように一定数のモンスターを倒し、更にそこにとれる資源を持ち帰り、売ることでほとんど生計を立てている。
とはいえ、冒険者でもなければダンジョンに一般市民がくることはほとんどない。
ラルドももちろん話では聞いているものの、実際にダンジョンを訪れたのは初めてのことだった。
「ここがダンジョンか」
初めて訪れたダンジョンを目にしてラルドは呟く。
街はずれのダンジョンは昔の遺跡にモンスターが住み着き、作られたダンジョンだ。
遺跡は地下深くへと続き、下の階に進めば進む程、魔素がこくなり、強いモンスターがでてくるようになっている。
「怖いですか?」
ラルドがダンジョンをじっと見ていることに気づき、ユイが問いかけてくる。
ユイは慣れた様子だ。さすがは普段からダンジョンに潜っているだけある。
「怖いなら、手でもつなぎましょうか?」
「ばか。そんなことしたら、余計危ないだろう」
「そんなことないですよ!私ならラルドさんと手をつなぎながら、いえ、ラルドさんを抱えながらでもモンスターを倒せますよ!」
「いくらなんでもそれはごめんだ」
ラルドはそう言いつつダンジョンをもう一度見る。
こうしてみると不気味である。モンスターの巣窟というだけある。
「ここからはお前が頼りだ。頼んだぞ」
ラルドはそう言うとユイの頭を軽くぽんぽんとたたく。
ラルドからしてみれば頼んだと、そういう意味合いで叩いただけだ。
それだけだったが、ユイはそれに目を輝かせる。
「ラルドさん!今の!」
「なんだ?」
「こういうスキンシップを私は待っていました!さあ、どうぞ!」
ユイはそう言うと何故か両手を広げる。抱き着けと言っているようだ。
突然のそれにラルドは若干ひき、後ずさる。
「ばかなことやってないで行くぞ」
「ああ、待って下さいよ!ラルドさーん!」
先に進もうとするラルドの前にユイは慌てて出る。
「この先からはモンスターが出るので、ラルドさんは私の後についてきてくださいね!」
「ああ」
「やっぱり手をつないで行きましょうか?」
「いいから、さっさと行け」
「もう冷たい!でもそういうところがまたいい!」
ユイは笑うと前を歩いていく。
ユイの後につきながら、ラルドは初めてダンジョンへと足を踏み入れた。