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5.出かける約束その2


「あの、親方」


 ユイに店を任せ、裏側で鍛冶屋の仕事をしているとジークが遠慮がちに話しかけてきた。


「なんだ?」

「ユイさんが言っていたこと本当ですか?」

「俺と結婚するとかは嘘だぞ」

「あ、いえ、そうじゃなくて告白して振られているって」

「そうだな」

「どうして断っているんですか?」

「は?」


 どうしてだと。そんなの言わなくたってわかるだろう。

 ラルドは思わず顔をしかめた。


「どうせ若い時の気の迷いだ。本気にするな」

「でも、ユイさんそんなことふざけて言う人には思えませんけど」


 ジークは何か言いたげな表情をしつつ、そう言う。

 それにラルドは手を止める。


「ユイさんはとても可愛いですし、いい人に見えますけど」

「そりゃあ、そうだが」


 だからっていい訳じゃない。


「年が離れすぎだろう」

「でも、今時、そういう夫婦もいますし」

「そりゃあ」


 そうかもしれないが。

 ラルドは思わず押し黙る。

 ラルドだって別にユイのことを嫌っている訳ではない。むしろ好ましくは思っている。

 とはいえそれが恋愛感情かと言われると微妙なのだが。

 何故断るのか、そんなの決まっている。


「住む世界が違うんだよ」

「え?」

「いいから仕事しろ」


 ラルドはこれ以上そのことに対して話す気はなかった。きっぱりそう言うと仕事をする手を動かす。それを見てジークもすみませんと言って謝り、自分の仕事に戻る。

 しばらくそうして作業をしているとユイのよくとおる声がした。


「ラルドさーん!お客さん来ましたよ!」

「おう、すぐ行く」


 ラルドは手を止めると立ち上がり、店へと向かった。


「いらっしゃいって、お前か」

 

 来訪者を見て、ラルドは僅かにげんなりした顔をする。それを見て、尋ねてきた男は苦笑いを浮かべる。


「そんな顔しないで下さいよ」

「ラルドさんの知り合いですか?」


 ユイがそう言うと男は頭を下げ、挨拶する。


「商人のルードと言います」

「鉱石を売りにきたんだ」

「えっと、鉱石って、武器屋や防具の材料になるんですよね」

「ああ」


 ユイの言う通り、鉱石は武器屋防具の材料となるものだ。魔物のいる地域にしかない為、ダンジョン内でのみとれる。

 つまり冒険者のなかには命がけでダンジョンに潜り、この鉱石を持ち帰って売るということを仕事にしている者たちもいる。

 そうして冒険者が売った鉱石を商人が買い取りこうして鍛冶屋に売りにくるのだ。


「今日もいいものをしいれてきましたよ」


 ルードはそう言うと持ってきた鉱石をカウンターに広げる。

 ラルドはその鉱石を一個一個手に取り眺める。確かに物じたいはいいものだ。

 問題はその値段である。

 鉱石についている値札を見て、ラルドは顔をしかめた。


「高いな」

「最近魔物が増えて鉱石も取りづらくなっていますからね」


 魔王が現れてから、魔物の動きは活発化されているという。鉱石の値段もそれに伴い上がっているのだが、それにしても高すぎる。

 これじゃあほぼ赤字に近い。ラルドは素早く頭の中で計算し、その答えにため息をつく。


「もう少しどうにかできないか?」

「当然の値段だと思いますが」


 まける気はなさそうだ。それからしばらく交渉を繰り返し。辛抱強く交渉するとルードもおれ、多少値段を下げた。と言ってもいい値段なのは変わりない。

 ラルドは必要な分だけ選ぶとそれを買い取る。それにルードは笑ってお礼を言う。


「今後はますます高くなるか?」

「そうですね。魔物もどんどん増えていますし、ますます鉱石はとりづらくなるでしょう」

「そうか」


 ルードはラルドからお金を受け取ると店を後にする。その背を見送りながら、ラルドは考える。

 鉱石の値上がりは本当に頭の痛いことだ。つい最近大きな出費をしたばかりなうえ、武器や防具の材料まで高くなるといよいよ商品の値上げを考えなければいけない。とはいえ、ラルドの店の客層では値段を上げすぎては客が買えなくなってしまう。

 どうするべきか。


「そんなに高いんですか?」


 悩むラルドをみかねてユイが話しかける。


「まあな」

「鉱石ってダンジョンにあるんですよね?自分で取りにいけないんですか?」

「自分で取りに行くとなると腕ききの冒険者を護衛に雇わないといけない。そうなると余計にかかるんだよ」


 もちろんラルドだって初級モンスター相手なら遅れはとらない。とはいえいくらダンジョンとなるとモンスターの数が違う。ラルド一人では一番浅い階層でも攻略は困難だろう。

 そう思っていると突然ユイが大きな声ではいっと言い、手を挙げた。


「なんだ?」

「私!私行きます!」

「は?」

「私が護衛しますよ!しかも無料で!」

「何言って」


 ユイが自分の胸を叩く。そしてにっこりと笑う。


「私を誰だと思っているんですか?仮にも勇者ですよ?ダンジョンってこの辺の近くのですよね?それぐらいだったら朝飯前ですよ!」

「そりゃあ、お前ならそうだろうが」


 とはいえ、いくら何でも無料でついてきてもらうのはユイの好意を利用しているようで何となく頷きがたい。

 迷うラルドにユイは前のめりになり、更に畳みかける。


「鉱石欲しいんでしょう?なら、私と行くべきですって、そしたらただで手に入りますよ?」

「そりゃあ、そうだが」

「大丈夫ですって、絶対にラルドさんを守りますから!」


 ラルドは途中で違和感を覚える。

 親身になってもらえるのは嬉しいがなんだかやたらに親身になりすぎている気がする。

 ラルドは訝しみながらユイを見る。


「なんで、そんなにお前が必死なんだよ」

「そりゃあ、ラルドさんとデートだなんて行かない訳がないじゃないですか!」

「デートじゃなくて、ダンジョンに鉱石とりにいくんだろう!」


 誰がデートだ!勝手にデートにするな!

 ラルドがそう怒鳴るとユイは不満げな顔をする。


「まあ、いいじゃないですか。とにかく行きましょうよ」

「デートじゃないぞ」

「でも二人っきりで出かけられるんですよね?」

「まあ、そうだが」


 ラルドは考える。

 デートなどとあらぬ誤解を招くわけにもいかないが、このまま鉱石が手に入らなければ武器や防具が作れず、仕事にならない。

 どちらをとるか散々悩んだ結果、ラルドはついに決心する。


「一緒にいくか?」

「え?本当ですか!」


 ラルドのその一言にユイは目を輝かせる。


「やった!ラルドさんとデート!」

「違うだろう!」


 慌てて否定したが遅かった。

 店の方にやって来たジークがそれを聞き、えっと声を上げる。


「親方、デートって!?」

「違う!そうじゃない!」

「やった!初デート!」

「だから違う!」


 その後、何時間かラルドは必死にデートでないことを説明したがその度にユイが邪魔をする為、結局誤解はとけないまま話は終わってしまった。


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