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10.突然の来訪者その2


 王子と自ら名乗った青年をラルドは呆然と見つめた。


「王子って、あのユーリス王子か?」


 ラルドが確認するようにそう尋ねるとユーリスは頷く。


「そう言っているだろう。なんだお前、自国の王子の顔すら知らないのか」


 知るわけがないだろう。

 ラルドは内心でそう呟く。

 もちろんラルドだって全く知らない訳ではないが、王族など平民のラルドからすればそれこそ住む世界が違う存在だ。実際に顔が見られたとしても遠目で見る程度が普通だ。それがまさか遠目どころか、目の前にいるなんていくら何でも思うはずがない。

 朧げにだが、その顔に見覚えがあったのは、遠目にその姿を見たことがあったからだろう。


「いや、そもそもなんで、ここに」


 そう、ここはただのラルドが店主をしている、小さな鍛冶屋である。そんな鍛冶屋に一国の王子が護衛もつけずにやってくるなんてそれこそあり得ない。

 ラルドのその問いかけにユーリスは胸を張って答える。


「この街に帰ってくる度にユイはどこかに出かけていた。俺がどんなに問い詰めてもはぐらかされるし、後をつければまかれるし、あげく力づくで阻止すれば全力で倒された。だから王国の兵を総動員してやっとユイがいつもどこに行っているのかつきとめたんだ!」


 自慢げにそう言うユーリスにラルドは僅かに顔を引きつらせる。

 いや、おかしいだろう!いくら仲間とはいえ、そこまでやるか!?

 ラルドは思わず内心そう突っ込む。

 しかもあげくの果てに王国の兵までつかってユイの行き場所を突き止めるなど一国の王子がすることとはとても思えなかった。


「あの、親方。この人本当にユーリス王子なんですか?」

「あー、どうだろうな」

「おい!お前達!俺がわざわざ名乗りあげたのにそれを疑うとかどういうつもりだ!」


 ユーリスは怒ったようにそう言い、腰に下げていた剣に手をかける。それに慌ててラルドは頷く。


「わかった、わかった。お前はユーリス王子様だ。疑って、悪かった!」

「わかればいいんだ、わかれば」


 ユーリスはそう言うと剣から手をはなす。それを見てラルドはほっとため息をつく。


「それで、ユイの行き場所を突き止めてどうする気だ?ユイなら今はいないぞ?」

「わかっている。その為にわざわざユイを宿屋に足止めさせているんだからな」

「ユイを足止めしている?」


 何故、そんなことを。

 ますますユーリスがここに来た訳がわからず、ラルドは混乱する。


「じゃあ、何しに来たんだ?」

「何しに来た?決まっている!確認しに来たんだ!ユイが誰に会いに来ているのか!」


 ユーリスはそう言うとラルドに近づき、思いっきり指をさす。


「お前だろう!ユイはお前に毎回会いに来ているんだろう!」

「それは、そうだが」

「何で、お前みたいな奴に毎回ユイが会いに行くんだ!?」


 ユーリスにそう尋ねられ、ラルドは言葉に詰まる。

 ユイが何故ラルドに会いにきているか。そう聞かれたら答えは決まっている。

 ラルドの事が好きだからだ。

 しかし、その事実をこの場で自分で言うのはいくらなんでも気が引けた。


「さあな、なんでだろうな。俺の武器を気にいったんじゃないか?」

「ふざけるな!ユイには聖剣があるんだぞ!?他の剣なんて必要ないし、防具だって、ここに置かれているものよりもずっと上等なものを持っている!」


 まあ、そうだろうな。

 ラルドは内心ため息をつく。

 相手は勇者。こんな小さな鍛冶屋で武器や防具を調達する必要などないだろう。


「あー、じゃあ、あれだ。昔馴染みで顔見せに来てくれてるんだよ」

「毎回?この街に帰ってくる度に?いくら何でもそれだけにしては来すぎだろう!」


 なかなか納得しないユーリスにラルドは困り果てる。どうすれば納得するというのか。

 困り果てるラルドを見かねてジークがそっと言う。


「あの、親方。もういっそのこと素直に言ってしまったら」

「言えるわけないだろう」

「でも」


 ラルドとジークがこそこそと話しているとそれを見ていたユーリスがはっとし、声を上げる。

 驚いてユーリスの方を見れば、ユーリスはラルドを凄まじい目つきで睨んでいた。


「さてはお前、ユイを騙しているんだな!?」

「はあ?」

「どんな手を使ったかしらないが、いたいけな少女を騙して、手をだして、良心は痛まないのか!?」


 完全なる誤解である。

 ラルドは思わず額に手をやり、俯く。

 なんだかだんだん話が偉い方向にいき始めたぞ。

 どこから誤解を解けばいいか、考えているとその間にもユーリスの誤解が更にこじれていく。


「そ、そうか!さては弱みを握っているんだな!おのれ!勇者を脅すなんていい度胸だな!」

「だから違う!」

「じゃあ、何でお前なんかにユイが会いにくるんだ!?」

「そんなの知るか!俺じゃなくてユイに直接聞け!」

「できないからお前に聞いているんだろう!」

「なんでだよ!」


 あまりにも突拍子もないことをユーリスが言う為、ユーリスが王子であることも忘れ、ラルドは思わず声を荒げる。


「だから誤解なんだって、俺はユイを騙していない!」

「じゃあ、何でユイが会いにくるんだ!」

「だからそれはユイの勝手だろう!何でそこまで気にして」


 そこまで言いかけてラルドははっとする。ちらりとユーリスの顔を見る。その顔には余裕はなく、何か焦っているように見えた。


「なんだ。急に人の顔を見て」

「いや、そもそもおかしいよな。ただの仲間の動向をそこまで気にするか?」

「そ、それは」


 ラルドの言葉にユーリスは何故かますます焦ったような顔をする。

 それを見て、ラルドはユーリスの不可解な行動の謎が解けた。


「お前、まさか。ユイに気があるのか?」


 ラルドのそれを聞いた途端、ユーリスは顔を真っ赤にさせる。


「ち、違う!お、俺はただ、仲間として、その、そう、勇者に何かあったら国の一大事だから!だから俺は!」


 いくらユーリスが口で否定しても、その真っ赤な顔を見てしまえば、それが嘘だと誰でもわかってしまう。

 まじかよ。

 ラルドは思わず、内心そう呟く。

 まさかこいつがユイに気があるなんて。

 ラルドの頭が痛くなる。

 別にラルドとしては誰が誰を好きでも構わない。構わないが、そこに自分が関係してくるとなれば話が違う。

 ユイの奴、こんな近くに年の近いいい相手がいるのに何で俺なんだよ!

 ラルドは思わずそう内心言わずにはいられない。

 ユイがラルドの元に通っていると聞いただけで後先考えず、この場にやってくるほどである。もしもユイがラルドに惚れているなど聞いたらどうなることか。

 ラルドは大きくため息をついた。


「とにかく事情が知りたいならユイに直接聞いてくれ」

「なんだそれ。やっぱり、お前ユイを騙して!」

「だから、違う!俺は何もしていない!」

「そ、そうです!親方は何もしていません!むしろ、ユイさんが親方に気があって一方的に告白しているだけです!」


 ジークのその言葉に一瞬部屋の中が静まり返る。

 おそらくジークとしてはラルドを援護しようとして行ったのだろう。しかし、それはむしろこの場では言ってはいけない一言だった。

 ラルドが慌てて否定しようとするも、もう遅かった。


「告白だと?」


 そう言ってユーリスは親の仇でも見るような目でラルドを睨んだ。


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