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㐧9の獄 お前たちの知らない世界じゃないか?

ヘヴィメタルは──まだガンには効かないがそのうち効くようになる。



全米を席巻したヘヴィメタルにあるが、しかしアメリカは広い。地域によってさまざまな適応、さまざまな進化をそれぞれ遂げることとなる。


たとえば東海岸にては、正統派ハードロックの流れを汲むヘヴィメタルが、以前述べた産業ロック勢と共存するかたちとなっていた。──これは云うなれば互いに兄弟のようなもの。もっと突っ込んで云うならば、ハードロックとヘヴィメタルとの間には明確な分水嶺──『境界線』と云うものが存在せぬがためにある。


たとえばスコーピオンズなどはその境界線上に位置し、ハードロックともヘヴィメタルともとれぬ極めて曖昧な存在にある。ヴァンヘイレンなどもこのあたりに位置する。この頃頭角を現してきたデフレパードなどヘヴィメタルの範疇に入れられることが多いがしかし彼ら自身はハードロックを自称していた。


ディープパープルを経由し、分離独立するかたちで産まれたホワイトスネイクなどもそうであると云える。正統派ハードロックの後継者でありながらも重く硬いヘヴィメタルへと進化を遂げており──何なら同じアルバムを重く硬くリメイクした版を出していたりもする。これにはより重く、より硬くと、ヘヴィメタルがさらなる進化の途上にあり、その速度が異常に速かったが故という理由があった。


そう──絶対なる牙城を築きながらも、まだまだ進化の余地が残されていたということ。おそらくは──無限大に……


対する西海岸にては、東海岸とはまた異なり、見た目的にはKISSの延長線上にあるようなバンドらが主流にあった。いわゆるL.A.メタルにある。


L.A.すなわちロサンゼルスにてのヘヴィメタルの血脈は、もとをたどればブラックサバスより追い出されたオジー=オズボーンがその拠点を置いた場所にて、彼は自分独自のロックをやるべくそこにいた新人らを発掘し育成してきたわけにあり、オジーの影響がすくなからず存在していた。


オジーのアルバムを聴いてみれば、サバス時代の重く陰鬱な暗黒世界よりも幾らかわかりやすく耳当たりのよい世界となっているがわかろうもの。また、ソロとなってからのオジーはPVなどでの見た目にもこだわった。──それらがL.A.メタルにての何とも云えぬ独自の派手なファッションに影響を与えていたと、云えぬでもない。


サバス時代、とくに後期はいけないおくすりと酒にて廃人同様となっていたオジーにあるが、その音楽をつくる腕と人を見る眼は確かであった。──事実、ランディ=ローズ、ザック=ワイルド、そしてロバート=トゥルージロと云う未来のメタルモンスターたちを発掘し育て上げたは紛うことなきオジーの功績にあった。


オジー在籍時のサバスは案外とブルーズの色が濃く、そうした点では正統派アメリカロックの流れを汲むと云える。──事実L.A.メタル勢がひとつシンデレラなど、正統派アメリカロックたるジャニス=ジョプリンの曲をカヴァーするなど影響が残っていた。ここでもやはり、ヘヴィメタルとハードロックとは共存していたと云える。


そのような一大隆盛地ロサンゼルスより、『モトリークルー』と云う化け物バンドが現れる。──人によって評価や好みは分かれようが、しかしヘヴィメタル黄金期を代表する大物バンドにあることは、揺るぎない事実にあろう。


このモトリークルー、実力、ライヴパフォーマンスともに黄金期のメタル勢と比べても遜色ないどころか頭ひとつ抜けた存在にあり、群雄割拠に等しいこの時代にて頂点にいたは事実。しかし同時に素行の悪さでも他を圧倒していた。


酒やいけないおくすりの起こしたトラブルは数知れぬ。飲酒運転で事故り同乗していたハノイロックスを解散に追いやるなど序の口。おくすりのやりすぎで意識を失い病院に運ばれるとか死んだと思われてごみ箱に捨てられるなどもうわやくそにあり、全員が酒もおくすりもやっていない完全シラフでつくったアルバムが5枚目にしてようやく、という次第にある。


こんな状態であるから常に誰かと揉めて喧嘩をしており、喧嘩相手がいない際は仲間内で喧嘩をしているといった、まさにロックなスタイルを地でいっていた。これで今現在までオリジナルメンバーがほぼ全員生きているのであるから、じつにたいしたものである。


こうしたモトリークルーの大躍進もあって、ヘヴィメタルの勢いはまるでとどまるところを知らぬ。こうした北米大陸のみにとどまらず、世界中に波及していった。欧州はすでにメタル傘下にあり、北欧などすでに総本山とでも呼ぶべき勢いにある。──その後太平洋を超えて本邦にもやってくるわけであるが、ここではその勢いが鈍り、浸透するまでかなりの時間を有するに至った。


本邦にヘヴィメタルが浸透するまでの間も、欧米にては進化が止まらなかった。その膨れ上がるかのごとき進化はやがて──巨大帝国がそうしたがごとく──細かく分離独立することとなる。


そもそもが北米大陸の東西海岸にて別なる進化を遂げるヘヴィメタルにあったが、その進化の途上にて他なる音楽を吸収──『喰らう』と云ったほうが正しいか──するかたちにて増強されていった感があるは否めぬ。


さてそのような状況の中ですっかり駆逐されたパンク勢にあるが、これらもまた独自進化を遂げていた。もっと激しく、もっと兇悪なる力を欲したパンク勢は先鋭化し、『ハードコアパンク』なる分派を産むに至っていた。


ハードコアパンクを語るはむずかしい。パンクのスタイルを貫き通しながらもそこにはヘヴィメタルの影響が強く、メタルと同じように分離独立からの進化を遂げる道へと進んでいたがためである。


ヘヴィメタルは、そのハードコアパンクまでもを喰らった。そうして産み出されたが──新たなるヘヴィメタル、『スラッシュメタル』にある。


THRASH(スラッシュ)すなわち『たたきのめす』と云う名を冠するこのメタル、『パンクとメタルとの間に産まれた私生児』と称されるがごとく、まこと双方のよいところを兼ね備えてきた恐るべき存在にあった。


パンクの良さは激しさにある。ハードロックのような流麗なギターソロはなくとも勢いで押してゆくというものである。──ここに、中世様式美世界からの流れを持つヘヴィメタル要素が加わればどうなるか?


答えは云うまでもない。パンクとメタルとを組み合わせたまったく新しい音楽がここに誕生するに至った次第にある。


とにかくこのスラッシュメタル、勢いがものすごい。かく云うわしの魂を摑みロックファンへと引きずり込んだはこのスラッシュメタルなのである。──それまで(ロク)にロックなど聴いてもいなかった、当時はスウェディッシュポップを聴いていたこのわしを深淵へと一気に引きずり込み2度とふたたび娑婆には戻さぬほどの力を有していたのである。


このスラッシュメタルの始祖が果たして誰であるかを語るは極めてむずかしい。いわゆるスラッシュ四天王、すなわち『メタリカ』、及びそれより派生して産まれた『メガデス』、それらと因縁浅からぬ『スレイヤー』、そしてそれらとは直接の関わりなく独自に産まれた『アンスラックス』ですら、ほぼ同時に誕生したが故にである。


だが確実に云えるは、「スラッシュメタルを表舞台へと押し上げたは、紛うことなくメタリカである」と云うことである。


メタリカの勢いはすさまじきもの。見た目こそ黒シャツにジーパンと云う地味なものにあったが、そんな地味さなど音でカバーして釣りがきた。──むしろそうした『無駄のない洗練された』スタイルが、派手に飾られたL.A.メタルを駆逐せんばかりの勢いにて世界を闇に包んでいったのである。事実、メタリカ直系の流れを汲む『ベイエリアスラッシュ』は、L.A.のすぐ眼と鼻の先サンフランシスコをその根拠地としていた!──個人的にはこのベイエリアスラッシュが好みである。テスタメント、フォビドゥン、そしてエクソダス。いづれもすばらしきバンド故に、ぜひアルバムを買って聴くことをおすすめする。


テスタメントの名盤を決めるはむずかしい。メタリカ直系の色を感じさせる1枚目『レガシー』もよいが、巷の評価も高い「儀式』もまたすばらしい。良くも悪くもさらなる進化の途上にあるを感じさせてくれる『ロウ』も捨て難く、ひとつの全盛期『プラクティスホワットユープリーチ』もまたよいものだ。──つまりぜんぶ買えい!


テスタメントはメタリカ直系にあるがエクソダスもまたメタリカ直系の流れを汲む。テスタメントとエクソダスはメタリカとメガデスの関係に似る。2代目ヴォーカルの人スティーブ=ゼトロサウザーはもともとテスタメントのメンバーにあった。また、メタリカのギターの人カーク=ハメットはエクソダスの創始者にあった。──だがこれらと比較するとエクソダスはやや癖が、そしてアクがつよい。とくにヴォーカルが特殊にて、「歌と云うものの何たるかを理解していなかった」と評されるポール=バーロフ御大、そして「バーロフよりはマシ」と評されたゼトロサウザーと云う時点で察せられるであろう。──これは1枚目『ボンデッドバイブラッド』と、そのリメイク盤『レットゼアビーブラッド』とを聴き比べてみるとよくわかる。人間どうしがくっついてるジャケがバーロフの唄っているほうで、天使どうしがくっついてるジャケがゼトロサウザーが唄っているほうである。


しかしながらそれ故の独自路線を突っ走っており、『今現在に至るまでまったく商業的に成功していない』ながらも後のメタル世界に与えた影響は大きく、また神バンドと崇め奉るビッグバンドも多い。──なんぼ売ったじゃのなんぼ儲けたじゃのが必ずしも絶対なる評価でないと云うことを、エクソダスは我々に教えてくれる。


加え──できればスレイヤーの名盤『Reign(レイン) in(イン) Blood(ブラッド)』を買って聴いてほしい。『血の王朝』と云うすさまじい邦題の示す通り、スラッシュメタルと云う世界に確たる絶対王政を敷くに至った伝説のアルバムである。「スラッシュメタルのすべてをここに置いてきた」「このアルバムを聴いて退屈だと感じたならばそれ以上スラッシュメタルを聴く必要はない」「この名盤を知らない? なんと哀れな」と、評されるほどにある。


圧倒的な速さ! なるほどメタリカの名盤『ライドザライトニング』もこれに劣らぬアルバムには違いないが、『血の王朝』(レインインブラッド)はその上をゆく。その速さたるや製作者スレイヤーそのものが「速さではこれを超えることはできぬ」と、別なる方向を求めるを選んだほどにある。演奏のみならず歌唱面に於いてもその速さは圧倒的にてしかも韻を踏んでおり、当時のラッパーどもが衝苦(ショック)を受けしばらく立ち上がる力を失ったほどにある! 死者ノ王国ニ栄光アレ!


しかしながらそれでもなおメタリカの功績は大きなもの。『血の王朝』は名盤にはあるがしかし当時のスラッシュメタルの例に漏れず「どうしようもない歌詞」そのものにあった。


そもそもが、スラッシュメタルに限らずメタルそのものの歌詞は──すくなくとも当時の批評家たちからすれば──どうしようもないものにある。当時のメタル歌詞と申せば、「いやらしい女教師とぬぷぬぷしたい、いや、する」などという不道徳なもの、「円環の理に導かれ竜の王と戦う飾燈騎士」といったファンタジー色漂うもの、「おくすり最高! 現実は糞」「劣等民は人類にとって不要、すべては優等人種のために!」といういろいろとやばいもの──などにあった。


そのような状況の中メタリカが出したが、『メタルジャスティス』にある。これはアルバムを通して社会的な内容について唄った歌詞が──無論メタリカらしく壊滅的で絶望的なる視点からの切り口にはあったが形成─綴られており、それ故に批評家らやメディアに「たいへん知的である」との高評価を受けるに至った。当時はU2など「社会的な問題を取り上げる」バンドが評価されていた時期にもあったが故のことである。


メガデスなどはそれ以前よりいちはやくこうした点を唄っていたが、この流れに乗るかたちにて評価を上げていった。──メタリカ直系の流れを汲むテスタメントも「セブンデイズオブメイ」にて天安門事件を取り上げていたりもした。


天安門事件──そう、時代はもはや'80年代も末期にあった。冷戦期にはあったがとりあえず平和にて夢のあった'80年代は終わりを告げようとしていた。


そして、終わりを告げる。'90年代の幕開けである。


ここよりはじまるベルリンの壁及びソ連崩壊、湾岸戦争勃発などが──夢から現実へと眼を向けさせてゆくに至る。


ヘヴィメタルの牙城は──はたしてどうなってゆくか。

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