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㐧8の獄 お前たちにとって都合の悪い状況じゃないか?

敵襲! 敵襲! 訓練に非ず!


敵襲! 敵襲! これは演習ではない!



北米ロックに対する前回の侵略は英国勢によるものであったが、次なる侵略は英国勢のみにとどまらなかった。


まずは英国連邦がひとつオーストラリアよりなぐりこんできたが、AC/DCにあった。──この、ヴォーカルをメンバー内の喧嘩で失い、代わりに「ちんこ、ファック、下痢、くそったれ」くらいしか語彙のなかったツアーバス運転手を後釜に据えた異色のバンドは、北米になぐりこんでくるや『地獄のハイウェイ』をプラチナディスク入りさせると云う暴挙に出た。


これがどのくらいスゴいことかと申せば、本邦では10万枚売らねばゴールドディスク入りは果たせぬが、アメリカは50万枚売らねばならぬ。プラチナディスクはそのさらに上の階級にて、なんと100万枚売らねばならぬのである! 10倍だぞ10倍! 続く、『バックインブラック』など、世界で最も売れたマイケルジャクソンの『スリラー』に抜かれるまで世界一の売り上げを誇ったのであるから、これはもうアメリカの受けた衝撃たるや、真珠湾攻撃を受けた以来のものであったことは想像に難くない。


しかもこれは、ほんの挨拶(アイサツ)がわりの一撃にすぎぬ。次々と㐧2、㐧3の刺客どもが北米へと土足で上がり込んできたのである。


㐧2の刺客は英国連邦の外、まさかの西ドイツからやってきた!『蠍団』こと、スコーピオンズである。欧州を制圧し、英国にも乗り込んできた彼らは北米上陸前に本邦に来日しており、『君が代』及び『荒城の月』を見事哀愁漂う流麗なハードロックサウンドにてカヴァーし観客を沸かせることに成功していた。その彼らが、大西洋ではなく太平洋を渡り、北米大陸西海岸を制圧するに至ったのである。


㐧3の刺客はすこし遅れて参上し、'80年代の半ばほどに北欧より現れた。欧州の名を冠するにふさわしき『EUROPE』(ヨーロッパ)にある。これは大きく、ロックの歴史を変えるに至った。


メロディアス・ハードロックと申し、もともとのルーツをたどれば先に述べたスコーピオンズへと行き着く。哀愁漂う流麗なメロディを奏でたはリードギターの人『ギターの神様』がひと柱にて仙人の異名をもつウルリッヒ=ロートにあるが、その実弟たるジーノ=ロートがこのジャンルの始祖にあたる。スコーピオンズとはまた異なるやりかた、叙情的でやはり哀愁の漂う流麗なメロディをより前面に押し出したスタイルにあるが、これをさらに突き詰めたが、EUROPEに代表される北欧勢にあった。北欧勢はこれより独自の進化を遂げ、深くロックに関わってくる一大勢力と化す。


EUROPE自体は知らなくとも、名曲『ファイナルカウントダウン』を知らぬとは云わせぬ。スペースローンウルフ武藤敬司の入場曲である。


そしてついに──英国勢本隊がやってきた。これこそが此度の主力艦隊である。ロックの歴史を塗り替えるに至った一大勢力! その名は──


『New Wave Of British Heavy Metal』


左様。ヘヴィメタルの誕生にあった。


N.W.O.B.H.M.勢をひと口に云うと、旧オールドウェイブ勢すなわちハードロック勢の残党が主と云える。──彼らは死滅してはいなかったのである。ハードロックの血脈を細々としかし確実に、保ち続けたのである。


その血脈を継ぐ者らが現れた。代表格は『アイアンメイデン』と云える。正統派ハードロックの流れを受け継ぎつつもしかしより重く(HEAVY)より硬い(METAL)音楽へとその姿は変貌していた。


これら新たなバンドを従え、旧ハードロック勢つまりヘヴィメタルの始祖たるジューダスプリーストやブラックサバスもまた、ヘヴィメタルへのさらなるパワーアップを遂げていたのである!


これらの陰には以前述べたレインボーの影響が大きい。リッチーブラックモアとディオの築いた中世様式美ハードロック世界にあるが、これがヘヴィメタルの根底にあると云えた。美しくも妖しく、しかし堅牢なる揺るがぬ世界がここにあった。──そしてまた以前述べたことにはあるが、レインボーはリッチーブラックモアのリッチーブラックモアによるリッチーブラックモアのためのバンドであったが故に方向性の違いからディオは追い出されるに至ったが、しかしディオは当時クビになったオジーの後釜として、ブラックサバスと合流したのである。


その時、不思議なことが起こった。


暗く陰鬱なる世界と華々しき様式美世界の融合が、ハードロックをさらなる高みへと進化させたのである!


さながら近代化改装を経て旧式艦より新型艦へとうまれかわったクイーンエリザベス級戦艦にあるが、まこと、その再来かとも思わせる英国の底力にあった。


この怒涛の波状攻撃を、かつてのニューウェイブ勢は止めることはできなかった。中核たるパンクの頭を軒並み失っており、そもそもがパンクそのものがそのままのスタイルでの進化に限界を迎えていたのである。──云うなれば年老いてしまったようなもの──


“ふたたび、何者かが闇より現れよう……──だが、その時は……お前は年老いて生きてはいまい! わはははは…………”


ニューウェイブ勢はかつて自分たちがオールドウェイブとして駆逐したハズの過去の亡霊に、まさかの猛反撃を受けて壊滅的な打撃を受けた。──その血脈こそ絶たれはしなかったものの、しかしここからの再浮上──すくなくともヘヴィメタル勢に取って代わること──は2021年今現在に於いて未だ叶ってはおらぬ!


ここに、ヘヴィメタルの牙城が築かれたのである。



ロックの歴史を語る多くの書籍、或いは文書に於いて、何故かヘヴィメタルはことごとく無視される傾向にある。


それはかつてのニューウェイブ勢、とくにパンク勢の掲げた思想と必ずしも一致せぬことが理由のひとつなのやもしれぬ。


だが──わしはこれらを無視せぬ。ばかりか、このヘヴィメタルを主軸に歴史を語ってゆくことをここに宣言す。


何故ならば──


先ほども述べた通り、正統派ロックの血統を継ぐは、まさしくこのヘヴィメタルにあるがためである。

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