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㐧5の獄 お前たちの夢って儚くないか?

'50年代がそうであったように──'60年代末期はロック黄金時代であったと云える。そしてやはり、そこには頂点に立つ者らがいた。


ウッドストックフェス参戦者のひとりジャニス=ジョプリン。女性ながら力ある歌声にて、後に男性バンドたるシンデレラにカヴァーされたものと原曲を聴きくらべても一歩もひけを取らぬ。やはりオリジナルは偉大なのである。


マン島フェス参加勢のひとつ、ドアーズもまたわすれてはならぬ。リーダーたるジム=モリスンは先に述べたジャニスと並び、頭文字(イニシャル)Jをとって『3J』と並び称される存在にあった。


『3J』なのにふたりとは何事か? 四天王なのに5人いるとか、五大老なのに6人いるとか云った案件であるのか?──そのような心配は御無用。残る最後のJこそ、ウッドストックフェスでトリを務めたジミ=ヘンドリクスであった。


しかしながら'50年代をくり返すがごとく──これら3Jは仲良く揃って表舞台からその姿を消す。


否、物理的にこの世を去ったのである。もっともバディ=ホリーらのごとくまとめて航空事故に遭ったわけではなく、各々それぞれ別々に死亡したのであった。


とくにジミヘンなど、ワイト島フェスに参加してより1年も経たず死に、活動期間は4年ほどのごくみじかい期間に限られた。じつに惜しいことではあるが──彼の残した功績、及びその後のロックに与えた影響はじつに多大なものにあった。


サイケデリックロックが音でトリップ世界を表現するとは以前述べたが、まこと多種多様なギターの音色を用いてジミヘンは表現した。──レッドツェッペリンら大音量にて演奏する連中により、エレキギターの音が歪むことは知られていたが、この現象をわざと起こすを、またさまざまな増幅機械を用いて、或いは製作者ですら意図しておらぬ使いかたにてトレモロアームを駆使して──ジミヘンはエレキギターの可能性を広げたのである。


「ギターに歌を唄わせた」と評せられるが、まさしくその通りにあった。彼はエレキの音色にてじつにさまざまな感情、さまざまな世界を表現したのである。


もっとも、──これは余談ではあるが、よく語られるような「爆撃音や逃げ惑う人々の悲鳴を表現した」と云うは、誤りである。あれは当時の録音技術の未熟さ故に生じたノイズの類にて、云うなれば「カーンはアルバトロス殺法にてアンドレの足の骨を折った」じゃの、「ユーコンエリックの耳を削ぎ落としてからコワルスキーは一切肉を喰えなくなった」じゃのと云った後付け伝説にすぎぬ。その証として、雑音を処理した音声クリアー版にそうした爆撃音がごときノイズは一切存在しておらぬ。──もしこれを、「何かしらの権力者に都合が悪いから消したのだ」とか云うのであれば、それは間違いなく、「ナチスドイツは月の裏側に秘密基地を建造しておりそこからアダムスキー型円盤で地球を偵察しており、今現在建造中の新兵器、空飛ぶ機械鮫を投入する準備をしておるのだ。坂本龍馬はフリーメイソンやイルミナティの手先ぜよ!」などと云った陰謀論の世界に片足を突っ込みかけているので、ほどほどにしておくがよかろうと思われる。


──話がそれた。ジミヘンのギターへと戻る。この、歪みを伴う美しくも妖しい音色は、ロックをさらなる高みへと進化させるに至ったのである。


だがその道は、大きくふたつに分かれた。


ひとつは、サイケデリックロックの流れをそのまま汲んだかたちとなった。『プログレッシブ・ロック』の誕生である。


サイケデリックロックで表現、或いは追求されたはいけないおくすりによるトリップ世界にあるが、これは一種の精神世界であると云える。これをトリップのみならずさまざまな方向、角度より、さらにその先へと追求、ないし表現するが、プログレッシブロックにある。──事実、ピンクフロイドやキングクリムゾンなど、サイケデリックロックの世界からこちらの道へと進んだ者らが多い。


もうひとつは、『ハードロック』である。


ハードロックをひと口で語るはむずかしい。㐧一、始祖を誰とするかそのものに多数の議論が存在す。──ある者はエリック=クラプトンであると、ある者は前回述べたマウンテンであると云う。『通』なものならば、ユーライアヒープやグランドファンクレイルロードなどの名を挙げるであろう。後にヘヴィメタルの父、或いは始祖のひとつと呼ばれるブラックサバスを挙げる者もいることであろう。


もっとも名を挙げられるは、レッドツェッペリンと云える。──大音量にての演奏で、エレキの音色が歪むを発見したは彼らであるとの説が非常に根強いものである。


だがここでは、ディープパープルを挙げてしるす。


「何故ディープパープルなんだ! あんなポップな大衆寄りのバンドを挙げるなどとは!」と、お怒りの方もおられるとは思うが、しかしこれを例に挙げて語るが後の説明がしやすいと云う進行上の理由にて、ここは怒りをこらえ眼をつぶっていただきたい。


まあ、ジミー=ペイジのギターよりもリッチー=ブラックモアのギターのほうが好みであるとの個人的な独断と偏見に満ち満ちた理由もあるが。


さて今名前の出たこのディープパープルのギターの人リッチー=ブラックモアであるが、彼はジミヘンと並び称されることがよくある。──ギター破壊の件という共通点もあるが──彼もまたギターの音色の追求にその人生を捧げた男にあった。


リッチーの功績で目立ったものと云えば、なんとしてもクラシックの技術、また理念をロックに持ち込んだことであろう。それ故にか、耳やアンプのブッ飛びそうな爆音を立てながらもそこにはどこか耳馴染みのよい、そして美しくも怪しく妖しい音色があった。


もっともその追求姿勢が他のメンバーと合わなかったか、或いは皆が皆猛烈かつ強烈な個性の持ち主であったが故の衝突か、リッチーはディープパープルを去ってしまうに至った。


そして彼は己の──つまりリッチー=ブラックモアのリッチー=ブラックモアによるリッチー=ブラックモアのためのバンドを結成するに至った。


『レインボー』である。


これこそまさしく、ハードロック完成形のひとつのかたちと云えよう。伝説のヴォーカル、ロニー=ジェームス=ディオをバンドごと引き抜いてきただけのことはある。


ディオが紡いだ中世ファンタジー的世界を表現するはクラシック仕込みのリッチーの技術。これこそがハードロック的世界のひとつであると、ここに断言しよう。『様式美』の世界が、ここに誕生したのである。


だがディープパープル、及びリッチー=ブラックモアのみがハードロックに非ず。他にも同時多発的に、或いは並行し、新たなるロックつまりハードロックの世界が構築されてゆくに至る。


たとえばQUEENはハードロックにオペラの要素を取り入れ、リッチーとは別の方向から美しくも激しい世界を構築した。


KISSは正統なロックの流れを汲みながらもわかりやすくそして激しいロックの道を築いた。


ブラックサバスは暗く重く陰鬱なる世界を、ジューダスプリーストは硬質で金属質な世界を築く。これは後のヘヴィメタルへの道である。


そこに、エアロスミスら若きバンドが新たなる風を吹かせ──ハードロック黄金期がここに誕生するのであった。



まこと、すばらしき時代。



だが同時に、それはロックから手軽さを奪うことともなった。



以前述べたように、ロックの良さのひとつは『手軽に誰でもできる』というものであった。3つコードを覚えればそれで構成することができる、非常にインスタントでかつ激しくおもしろい音楽、これがロックであった。


だがここに至りどうであろう。QUEEN然り、KISS然り、ましてやリッチー=ブラックモアなど、すでに誰まわりできぬ超絶技巧テクニックを駆使した『高尚な』音楽を演るに至っていた。──そこらのクソッタレどもの手の届かぬ位置にまで、ロックが「浮上してしまった」のである。


プログレッシブロックなどさらにひどい。メロトロン──すなわち今現在で云うところのシンセサイザーのごとき高価な精密機械を用い、またスライドギターなど常人にはすでに理解できぬ水準の、霧の高みの不思議な音楽を演るに至っていた。


なるほどそれらは高尚な音楽である。世の大人どもはこれらに眉をしかめつつも賛辞を送り、女王陛下もこれらを褒め称えるまでに至る。プログレッシブロックなど、支持者層は世のクソッタレどもではなく、大学生であったと云うのであるからたまらぬ。──当時の英国は不況の中にあり、大学に通える者など裕福な階層の者にあったがためである。



この流れの中、「ロック本来の姿を取り戻す」と、原点回帰をめざす連中が現れたは、なるほど衝撃的にはあるが自然な流れであったと云えぬでもない。


ロックは本来の姿へと戻りはじめた。──だが、これは『退化』に非ず。新たなる『進化』であった。


そしてその新しきロックは既存の──つまり『高尚な』ものと化したロックへと牙を剥く。


そう──『反抗の音楽』たるロックが、他ならぬロック自身へと反抗をはじめたのである。

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