㐧3の獄 お前らの心ってせまくないか?
諸君、我らはひとりの英雄を──いや、ふたり、3人……5人くらい失った! これは敗北を意味するのか?
否! はじまりなのだ!
世の『良識ある』という設定の者らからの批判も非難も何のその。クソッタレ野郎どもの間からロックはまたたく間に全米へと広がるに至った。──その勢いたるやとどまるところを知らず、海を超え対岸へと渡ろうとしていたのである。
'50年代はまさしくアメリカン・ロックンロールの黄金時代と云えた。その頂点に立つ者らの顔ぶれもまた、黄金期を飾るにふさわしいものと云えた。
『監獄ロック』エルヴィス=プレスリー兄貴だけでロックを盛り上げたのではない。彼に匹敵する者らが他にもいたのである。
ロックと云えばギターによるエレキ・サウンドを思い浮かべる人も多かろうが、その始祖たる者のひとりがチャック=ベリーである。代表作がひとつ『ジョニー・B・グッド』は名曲であろうことは揺るがぬであろう。──あ?「誰やねんそいつ?」じゃと?『バックトゥザフューチャー』でマーティが弾いてた曲だよ! それをつくった人だよ!──なお、『テスタメント』のヴォーカルであるチャック=ビリーとは何らの関係もない。
ピアノを弾きながら演るロックと云えばQUEENを思い浮かべるやもしれぬが、彼ら以前にそれをやったが『火の玉ロック』ジェリー=リー=ルイスである。「音楽室のピアノでブギー」とは、こやつを指してのことである。
さてロック・バンドと云えば3〜4人の少人数編成が主であると云うが皆の共通認識にあろうが、未だこの時代はさながらジャズ・バンドや交響楽団のごとくの大人数編成が幅を利かせていたのである。これを──理由としては些かなさけなく『銭がなかった』が故の苦肉の策ではあったが──今現在まで続く少人数編成を主としたが、バディ=ホリーにある。スーツにメガネと云う、ライヴ会場よりもウォール街を歩いてそうな見た目にあるが、かの『ビートルズ』にも多大な影響を与えた伝説の男なのである。黒縁眼鏡は伊達じゃないッッ!
ほかにもジョン=コクラン、リトル=リチャーズ、リッチー=ヴァレンス、JP “ビッグボッパー” リチャードソンなど──今現在の眼からみるとじつに錚々たる顔ぶれ──が、ロック黄金時代を盛り上げ、その頂点に君臨していたのであった。
しかしながら今現在、彼らの名を知る者は減った。──とくに、本邦に於いては。
それは、なぜか?
なるほど当時のわが国はほんのすこしばかり前に主権を回復したばかりにあり、ロックは未だ太平洋を渡りきっておらずそれ故に馴染みがなかったも理由のひとつにあろう。──当時の映画『ゴジラ』や『七人の侍』などでもわかる通り、金管楽器に於ける吹奏楽が覇権を握っていた時代なのであるから。
だがそれよりも大きな理由があった。
彼らはロックの舞台より、消え去ってしまったのである。
まずリトル=リチャードが表舞台より去った。突然のことではあったが、しかし飛行機に搭乗中、エンジンが火を噴くをその眼で見てしまったのであるから、それも仕方のないことと云えよう。「㐧4エンジンに愛着はないな?」──ともかくも機内にて神に祈りを捧げた結果飛行機は無事到着するも、自ら立てた神への誓いを守るべく、リチャードは神学への道を歩むためロックより離れてしまったのである。
次に去ったはプレスリー兄貴である。──以前、当時のアメリカはバリバリの戦時中であると述べたが、それ故に徴兵制の下にあった。──プレスリー兄貴も例外ではなく、国民の義務を果たすべく兵役につくこととなる。──北欧ロックファンにはおなじみの、兵役休業である。
お次はジェリー=リー=ルイスである。彼の嫁は若く、御齢14にあった。──今現在の価値観でものを語ってほしくないがためここに断りを入れておくが、当時アメリカで結婚可能年齢は14歳であった──が、嫁がじつは年齢をごまかしていたことが発覚したのである。
1齢サバを読んでおり、嫁は当年とって13歳。菊千代!菊千代!──これが問題となり、未成年淫行の咎により哀れなルイスは音楽界より追放の憂き目に遭うのであった。
かくして黄金期スターの半数が消えてしまったわけであるが、しかしアメリカは広い。まだまだロック・スターたちは残っており、各地各州でファンたちが彼らを待っていたのである。
しかしアメリカは広い。各州をまわるライヴ・ツアーも大変である。──先に述べたように銭のないバディ=ホリーなど、同じくツアーをまわる他のバンドの車に同乗させてもらいまわっていたほどであった。
これが悲劇を産んだ。
車での移動に疲れきったバンドメンバーたちは飛行機を調達し、銭のないメンバーと運転要員と数名を残し快適な空の旅へと向かったのであったが──
飛行機は、墜落したのである。
この事故でバディ=ホリー、ビッグボッパー、リッチー=ヴァレンスが操縦士ごとまとめて死亡するに至ったのである。
なお陸の旅も安全ではなく、ジョン=コクランもまたツアー移動中の交通事故で死亡していたのである。
かくのごとくしてスターを軒並み失ったロックは、'50年代後半に於いて黄金時代より一転、暗黒時代を過ごすことと相成った。スター不在の時もまたロックは生き続けてはいたのであるが、しかしながら飽きっぽいが若衆というもの。ロックの支持基盤が若年層であったがここで仇となり、彼らはフォークソングなど他の音楽へと眼を向け、流出していったのである。
しかしまあすべてがすべてではなく、中には忠誠心の高い者らも当然おり、彼らはロックと運命を共にする覚悟でついていった。──そんな彼らの、そしてロックの支えとなったが、ニール=セダカやポール=アンカたちである。
なるほど彼らはスターと呼ぶには慥かに輝きがよわかったかもしれぬが、しかし同時に、スターたちが持っていた『毒気』もうすかった。──故に、ロックを「けしからん」と云っていた大人連中にも受け入れられたのである。
かくしてロックは致命傷を負い、いち度は死んだに等しい、いや死んだ、ほぼ死んでいる状態にまで追い込まれながらもその血脈を残すことに成功したのであった。
彼らは待っていた、復活の時を。
この陰鬱とした暗黒時代を、ひそかに生き延びていたのであった。
やがて、復活の時は来る。救世主が現れたのである。
だがそれはこの北米からではなく、海の向こうからやってきた。
『侵略』の旗の下に。