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㐧2の獄 お前たちの云うロックって範囲狭すぎじゃないか?

諸君、私はロックが好きだ。

諸君、私はロックが好きだ。

諸君、私はロックが大好きだ。


ハードロックが好きだ。

メロディアスハードロックが好きだ。

ヘヴィメタルが好きだ。

デスメタルが好きだ。

ブラックメタルが好きだ。

パワーメタルが好きだ。

フォークメタルが好きだ。

ペイガンメタルが好きだ。

ネオクラシカルメタルが好きだ。

ベイエリアスラッシュメタルが好きだ。


英国で、日本で、

独逸で、台湾で、

西欧で、北欧で、

北米で、南米で、

東海岸で、西海岸で、


この地上で行われるありとあらゆるHR/HMが大好きだ。


雫! 大好きだ!(レバー1回転+パンチ)


リッチーの投げたギターがアンプを直撃し轟音とともにステージを爆破するのが好きだ。

炎を上げたネックを一斉に振る弦楽器隊が横並ぶホット・ロッキンのPVなど心がおどる。


社会の禁忌をいとも簡単にブチ破ってしまうのが好きだ。

桜乱舞流がみんな心の中では思ってるけど口には出せないことをさらりと歌ってのけた時は胸のすくような思いだった。


カヴァー曲がオリジナルのよさを保ちつつも自分達なりの色で塗り上げられてゆくのを聴くのが好きだ。

すでに古くさいポップだと揶揄されていたABBAの名曲が硬質なメタル・アレンヂをなされ新時代の暴力のごとく変貌したのを聴いた際には感動すら覚える。


新しいロックに滅茶苦茶にされるのが好きだ。

築き上げた様式美がよくわからぬ新時代の者らに駆逐され害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ。


諸君、私はロックを──地獄のようなロックを望んでいる。

諸君、私につき従うクソッタレな地獄へ堕ちた野郎ども──

君らはなにを望む?


さらなるロックを望むか?

情け容赦のないロックを望むか?

鉄風雷火の限りを尽くし音楽の祝福よ三千世界に届きませな、糞のようなロックを望むか?


戦争(ロックユー)戦争(ライクア)戦争(ハリケーン)!」」


よろしい、ならば戦争(ロック)だ。


我々は満身の力をこめて今まさに振り上げられんとする人差し指と小指を立てた握り拳だ

だがこの暗い闇の底で四半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!


大戦争を! 一心不乱の大戦争を!!



──冒頭から「お前はなにを云っているんだ」と思われるかもしれないが、まあ、これが'80年代にこの世に生を受け今現在までずっとロックを聴き続けてきたであろう者らの本心を多かれすくなかれ代弁したものと云って過言ではないであろう。


前回述べた通り、ロックは死ぬ度にふたたび地獄の底からよみがえりさらなる進化を遂げてきたわけであるが──ここにきてまたひとつの謎を投げかける。


果たして、誰がロックを殺したか?


クラムボンは蟹に虐殺されたと相場が決まっておるが、果たしてロックは誰によって殺されたのか?


他ならぬ、ロック自身にである。


自殺ではない。ロック自身の産み出した新たなるロックとの戦いの果ての名誉の戦死であると云ってよい──まあ、それでも死なずふたたび黄泉より戻ってくるのではあるが。


此度はそのような、戦いの歴史について述べてゆきたいと思うものなり。



そもそも、ロックとはなにか?──それは麵のごとき乱暴にして広大な括りであるが故に一概にこうとは云えぬとは、前回述べた通りである。殺される度によみがえるとともにさらなる進化、さらなる枝分かれを行った果てが今現在なのであるから、それも当然と云えよう。


故に「ロックとはなにか」を語るにはまずその源流を知っておかねばならない。それを探すため我々はアマゾンの奥地へと──向かうよりも単純に、歴史をたどってゆくほうがはやいであろう。


まず㐧一に、ロックはブルーズより進化したものである。──アメリカの黒人音楽の一派であったブルーズを、白人連中が俺も漏れもとやりはじめたのがその源流にあったことは、誰もが知っていると思われる。


なに? 知らない?──わしだってくわしくは知らん。何しろ時は'50年代のアメリカなのである。当然ながら産まれてないし、アメリカに行ったこともない。下手すればわしの親も産まれていないか、産まれていたとして産まれたてのベイビーである。聞いたところでどうにもならんことは明白であろう。


ともかくも、ブルーズをやりはじめた白人連中にあったが、やがて同じく黒人音楽たるジャズの匂いの強いブルーズと袂を分かち、白人音楽たるカントリーの匂いを取り入れてゆくことになる。──これがロックのはじまりである。


こうして産まれたロックにあるが、当時は反抗だの反体制だのと云った、しかめっつらしくもむずかしい要素などほぼ絶無にあった。──どちらかと云うと、誰にでもしかも手軽にできるわかりやすく楽しくすぐできるという音楽、今風に云うと非常にインスタントな音楽であるという要素が強かった。


なにしろ、簡単なのである。──よく年寄り連中が横浜銀蠅を揶揄して「あいつらはコード3つしか使えなかった」と云うが、それも当然のことであり、この頃のロックがまさに、「3つのコードで充分に成り立つ音楽」であったが故のことである。


手軽なのはよいことである。わざわざ音楽学校に通い高度な専門教育を受けずとも基本さえわかれば音楽が演れるのである。──この「誰にでも手軽にできる」が故に、またたく間に世のクソッタレどもらにロックは広まったという次第にあった。


まったくもって喜ばしいことにはあるが、そうはゆかぬが世の常であり、当時の大人連中はこのクソッタレどもを嫌うようになったのである。


人種差別が大手を振って罷り通っていた'50年代と云うこともあり、黒人音楽に偏見があったも事実にあるが、クソッタレどもがやかましくいかがわしい音楽をやっておるのはけしからんと、そちらのほうがデカかった。──これは本邦でもビートルズ初来日の際、「神聖なる国技館をいかがわしい音楽を演る場にするとはけしからん」との論が起きたことからも、万国共通なのであろう。


ともかくもこの新しい音楽は世の年寄り連中に嫌われた。ロックなど聴くな、ましてや演るなどもっての他と、大人連中は子供らに云った──のであるが、しかしそう云われればおとなしく云うことを聞いてやるのも癪に障るが、若さと云うものであり人間と云うものである。


ここに、ロックに反抗の音楽と云う印象が最初につけられたのである。──今現在からしてみればじつにしょうもない理由であるとも思えるが、何しも最初はそんなものである。


しかしながら──未だ反体制だとか反権力だとか、そうした政治的なこむずかしいものとは程遠いもので、いわゆるツッパリハイスクールロッケンロール……勉強もしやせんと歌って踊って遊んでばっかりの劣等生諸君が莫迦騒ぎしていると、そうした水準にとどまっていたにすぎぬ。


どちらかと云うと、『いかがわしい音楽』と云うが真を突いていた。当時のロック・スターたるエルヴィス=プレスリー兄貴が腰を振って踊りながら歌っていたが、まことその象徴にあろう。


今現在でこそ、ミニスカートのお姉さんが尻を振りながら歌うはありふれすぎて何らの違和感を持たぬが、この時代ではそうではない。当時は──ビキニのグラマー姉ちゃんが浜辺にたむろしてそうなイメージのフロリダでさえ、エルヴィス兄貴が腰を振ると逮捕されるような、そんな時代であった。──そもそもこの時代、公的な浜辺でビキニを着ることは法律で禁止されていた。


まるで戦時中のようであるが、それもそのハズ。本邦を含む旧枢軸国は戦争より解放され復興からの発展をなしていた時代にあるが、アメリカは朝鮮半島で絶賛戦争中にあり、未だ戦時体制の解かれておらぬ、しかし太平洋戦線で死にそうな目に遭っているわけでもないから大っぴらに国民統制もできぬ、そうした背景があったが故のことであった。


それ故に戦時中の匂いを色濃く残した大人連中と、戦争を知らない子供たちとの間に対立が生まれ──と、まあ、しかしこれは世界中のどこでも似たようなものであったが。


まあともかくも、結果的に当時の大人連中はこのいかがわしい音楽を弾圧するかたちとなった。ロックなぞけしからん、あれはクソッタレどもの聴く音楽だ。と。当然ながら、──自分達の若い頃を想像してみれば察しはつくと思うが──若衆らはこうしたカチカチのクソ石頭な大人連中に反撥した。けしからんで大いに結構、年寄り連中は黙って棺桶の予約でもしていろ、と。


かくして、ロックは不良少年の音楽との印象がここにつけられた次第である。反抗の青春期ここに極まれり。若さとは力である。熱量が違う。持続力が違う。いかに大人連中がロックを嫌い弾圧しようと──その火は消えるどころか大きく燃え上がり、燃え盛る火焔となって北米全土に広がり──やがて海を超えて世界中に広がることとなる。



だが、それにはすこしばかり時間がかかる。その歩みも止まりをみせる。



それは、何故か?



その後しばらくして、本場アメリカにてロックが死ぬからである。

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