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ENCORE:4 お前たちがメタルと呼んでいるもののことだけどにゃ……そのままのかたちでいられにゃいというだけでいつでもどこにでもいるにゃん

デスメタルの進化と並行するかたちにてブラックメタルもまた進化を遂げていた──のであるが、それについて語る前にすこしばかりおさらいと申すか前提について語ると云うか余計なお世話と云うか遼太郎御大のごとき余談に移ると申すか……とりあえず欧米社会について、軽く述べておく必要がここで出てきたので多少の寄り道を許されたし。


ブラックメタルの進化に関わる、重要な事項であるがため。


以前、'60年代に於けるロックについて述べた際、北米に於ける切支丹(キリシタン)ルールについて少々触れたが、これは大西洋を渡った欧州にても同じことが云える。ドイツにせよイタリアにせよノルウェーにせよ、今現在は切支丹ルールにて事がすべて行われていると云ってよい。


どう云うことかと申せば、基督(キリスト)教は絶対にして唯一な鉄の掟にて、これより逸脱するはゆるされぬ。すなわち逸脱者は異端者か邪教徒か社会不適合者か不可触賤民かのいづれかであると、そう云うことである。社会──どころか国の運営そのものが、基督教に則って行われていると云う次第にある。


これはわが国にては想像しづらいことである。基督教会で結婚式を挙げた後に仔を産めば神道の神社にて七五三の祝いをし、縁日に向かい、かと思えば死すらば仏門の寺にて葬式を行うといった、また神社の氏子であるとともに寺院の檀家であるというような──みっつもよっつも『知らぬうちに』宗教を掛け持ちしている状態にあるがため、何かしらの教えによる鉄の掟と云うものがイマイチよくわからぬ。


いやそれ以前に教えの違いというものがそもそもよくわからぬ。切支丹からすると回教(イスラム)印度(ヒンズー)教はまるで異なる相容れぬ異教にあるが、我々からすると──たとえば真言宗豊山派と真言宗智山派といったようなくらいの──宗派の違いにしかみえぬ。いやそもそもがまるで異なる神道と仏門の教えとて、宗派の違いとしかみておらぬ節がある。


これは神道という宗教が非常に懐の深いものであるがためであり、阿弥陀如来であろうが阿修羅であろうが閻魔大王であろうが名前を呼んではいけない例のあの唯一絶対神であろうが邪神クトゥルーであろうが手塚神であろうが円谷神であろうが神様カールゴッチであろうが皆すべて等しく八百万神の1柱として受け容れるがためである。──基督教や回教に於いて悪魔とされる異教の神ですらも、神の1柱とするほどの。


この、『異教の神を悪魔とする』、『名前を呼んではいけない例の唯一絶対神』というが、基督教の特徴にある。これは非常に心がせまい。尻のANAがちいさい。──すくなくとも我々の眼から見れば。先に述べた通り、実質的にわが国の教えたる神道は心がひろい。社会に害毒を及ぼさなければ基本的に誰が何の教えを信仰していようがそやつの勝手である。害毒、つまり他人様に無理矢理改修させようと勧誘をくり返したり猛毒ガスを撒いたりしなければ、と云うことである。


だが基督教はそうはいかぬ。切支丹でなければ堂々と差別を受ける。国によっては議員になれなかったり要職に就けなかったりそもそも職に就くのがむずかしくなったりもする。日曜日に教会へお祈りにいかなかっただけで学校の先生に怒られたりもする。──はっきり云って、糞である。


このようなものであるから、乱暴なことを云うと──心のせまさ、及び社会がその鉄の掟で動いていること故の糞さが、ロック、とくにブラックメタルに於ける悪魔崇拝を産むことの理由となった。


社会そのものが切支丹の教えを前提に動いているがため、その教えに反抗するだけであら不思議、自動的に社会に対する反抗となるのである。(※注1)


故に悪魔崇拝はロックにてよく用いられた。以前述べたヴェノムが代表的であるが、初期ブラックサバスなども悪魔主義色がつよかった。この源流はビートルズの『ヘルタースケルター』まで遡ることができる。


だが──「ヴェノムは北欧のバンドとは何らの関係もない! ヤツらはマジになりすぎている!」と、ブラックメタルの始祖に云わしめるまでに北欧勢がガチになったのか? それには北欧に於ける歴史的な事情があった──



北欧と云えば、ファンタジー・ファンの中には北欧神話を思い浮かべる者も多くいるであろう。鳴り物入りでやってきた割にたいした戦績を挙げなかったへっぽこ外人エースレスラー並みに見掛け倒し感のつよいオーディンを主神とする、例のアレである。他にもワルキューレ……つまり戦乙女ヴァルキリーなども、これがもとである。


この教えの信徒はノルマン人、つまりはバイキング一味である。古くより北欧に住んでいた戦闘民族である。──彼らはつよかったがため切支丹の支配下に完全に置かれるまでに非常に時間がかかり、それ故にかつてのオーディン信仰が、うすらぼんやりなれども現代までかたちを保ち残っていたという次第にあった。



こうした事情があったがため、もともと基督教への反抗心が他の欧州と比較してつよい地域にあった。そこに、社会への反抗として基督教への反抗と云うロックに於いてありふれたムーヴが、基督教絶対殺すムーヴへと加速度的に移行したものと思われる。


事実、以前述べたインナーサークルに於けるブラックメタル思想の最終目標は、『北欧から基督教を完全に追い出し駆逐し根絶やしにして、北欧本来の信仰を取り戻す』と云うものであった。──悪魔主義はその㐧1歩、つまり『切支丹によって無理矢理悪魔にされた本来の神』を崇め奉るというわけである。



だがしかしそのうち、ブラックメタル勢はあることに気づいてしまう。


「そもそも『悪魔』と云う概念そのものが、基督教のくそったれな教えじゃねえ?」


「俺たち、あの有刺鉄線ヒゲの掌の中で踊ってただけじゃねえ?」


何たることか! 悪魔を崇めることにより基督の教えに真っ向より逆らっていたハズが、そもそも基督の教えの範囲内でしかなかったとは! さながら釈迦如来の掌の内より出ることのできなかった孫悟空ではないか!


この事実は、ブラックメタル勢を打ちのめした。悪魔主義は一部のいよいよのガチ勢を残し、ブラックメタル界隈よりその力を急速に失ってしまうことと、なったのである。


ここでブラックメタルは他なる方向より基督社会への反抗を試みることとなるが、まずそのはじめとなされたのが──



ナチス・ドイツ!


先の大戦にて当時最先端の科学を取り入れるとともに、『占星術』『魔術』『錬金術』『超能力』『オカルト』いわば、この世の英知をあまねく動員し時の英国首相チャーチル卿を黒魔術師アレイスター=クロウリーに泣きつかせた奇妙なる集団への信仰にも近い傾倒が、ブラックメタルに於いてなされたのである!


先の大戦で北欧とくにノルウェーを占領下に置いた圧倒的なつよさへの憧れ、とかく基督教と反発しがちなオカルト主義、占領下で基督教を弾圧しまくったこと、及び正教の総本山にて歴史的にも北欧と仲の悪いロシアと戦ったこと、そもそも故ユーロニモス王子がはやすぎたナチス主義への傾倒をみせていたこと──


いやそもそもが欧米に於いてナチス主義を掲げる或いは肯定すること讃美することそのものが禁忌である! ただそこで起きた事実のみを唄っただけのスレイヤーがナチ信奉者だとして起訴されるくらいには。


そのような理由にて、ナチス的考えがブラックメタルに導入されることとなった。これらのバンドで有名なるは、ドイツ当局に過激派集団として睨まれている『アブサード』であろう。公共の場で右手を挙げるだけで逮捕されるような国で堂々とナチ讃美を行うは、まことロックであると云えぬでもない。


しかしながら、ナチス主義を掲げる風潮はブラックメタル界隈からすぐに消えてしまう。とくに北欧にては。国によってはいよいよ洒落にならんということが理由のひとつであったは事実であろうが、しかしもっと大きな、廃れるにふさわしい理由があった。


「そもそもナチって、ゲルマン人じゃね? 俺たちノルマン人やんけ」


「俺たち、あの七三分けちょび髭の掌で踊ってただけじゃねえ?」


左様──北欧の民は根本よりナチスと相容れぬ存在にあった。彼らはアーリア至上主義を掲げたゲルマン人に非ず、偉大なる戦闘民族、誇り高き海の民バイキングの末裔たるノルマン人なのである!


ここに、ブラックメタルの新たなる進化が起きた。


『バイキングメタル』の誕生である。


そもそもがブラックメタルの始祖がひとりバソリーは、はやくから悪魔主義に見切りをつけて民族主義の方向へと向かっていたわけであるが、そちらをさらに突き詰めた先がこのバイキングメタルである。


歌詞はともかく音楽面での特徴と申せば、速度を落としたブラックメタルという印象がつよく、また、独特の濁った甲高い叫びと並行し或いは取って代わるかたちにて、透き通った高音のヴォーカルも用いられることが多い。『ボルクネイガー』などが、その例である。


このように産まれたバイキングメタルは北欧のみならずバルト海を越えて欧州へと広がってゆくのであったが、しかしそこらに住む民は必ずしもバイキングの末裔たるノルマン人に非ず。とくにドイツなどゲルマン人である。──そのようなバイキングの系譜につながらぬ者らは、『ペイガンメタル』と名乗るようになった。さしずめ、『民族主義メタル』とでも訳すべきか。それぞれが基督教に染まる前の、民族本来の教えに則りその精神を追求することにより基督教への反抗をしようという流れにある。


さてしかし、このペイガンと云う言葉はやや侮蔑的な意味をもつ。切支丹からみて『邪宗門』だとか、『異教徒』だとか云う意味がある。つまり基督教が一段高いところより上から目線にて物申すところがあるという次第。豊臣政権下や徳川幕府健在なりし頃は切支丹こそ邪宗門徒であったくせに、なかなか生意気なものである。


このような言葉の持つ意味から、ペイガンメタルを名乗らぬ連中もいる。エストニアの『メッツァトル』などがそのよい例である。彼らは『フォークメタル』を自称する。


フォークと云っても、フォークソングやフォークロックのフォークとはやや意味合いが異なる。もとをたどればこれらもまた同じではあるのだが、フォークメタルに於けるフォークとはこのもとをたどった──『フォルクローレ』、すなわち『民俗音楽』のことである。


つまり民謡を含む民俗音楽とヘヴィメタルとを組み合わせたまったく新しい音楽!──こうした性格を有するがため、ペイガンメタル及びバイキングメタルもまた、この一派であると云える。フォークメタルとはじつに範囲の広い派閥であると云えよう。


このように範囲が広いがため、フォークメタルにはこれというスタイルの定義がないに等しい水準にてむずかしい。──なるほど民謡特有の叙情的な面や、それぞれの民族特有の楽器を用いるというところはあるが、かと申してたとえば鼓童がフォークメタルかと申せば、そうではなかろうと思われ、和楽器バンドはどうであるかと問われれば、そうと云えばそう、そうでないと云えばなし、との、さながら曹操のごとき答えを述べざるを得ぬ。なかなかに定義がむずかしいのである。


しかしながらいくらかの傾向や特徴というものはみられる。先に述べた民俗楽器を用いるというものがそれであり、他に楽器面で云うとティンホイッスル、或いはローホイッスルという笛を用いることも多い。


ヴァイオリンを用いることも多くみられる。『スカイクラッド』や『コルピクラーニ』などのバンドではこれがよい味を出している。『チュリサス』(※注2)ではクラシック界のヴァイオリン奏者の息子と云う本格派がいるほどである。


こうしたヴァイオリンを用いるスタイルは『ケルティックメタル』或いは『アイリッシュフォークメタル』と呼ばれるケルト勢が顕著である。本邦では『ベルファスト』がこうした音楽をやっている。


すこし前に某音楽ゲーム界隈にて「ロックにヴァイオリン? おかしいだろ」みたいな論調がみられたが、実のところおかしいのはお前たちでありものを知らないのもお前たちである、という案件であった。すでにロックに於けるヴァイオリンと云うものは定着して幾久しいのである。


さてこのようにブラックメタルより派生した進化が産まれたわけであるが、ブラックメタルそのものがなくなったわけではない。以前述べたように『プリミティヴブラックメタル』という原理主義的な方向にて本来のブラックメタルのかたちを追求せんとする者ら、または『ディセクション』のように悪魔主義をどこまでも貫いた者ら、或いはディムボガーやクレイドルオブフィルスといったバンドらの手によって広く一般にわかりやすいかたちにてブラックメタルが浸透していった。


本邦にも『サイ』など、ブラックメタルバンドは存在する。今や全世界にブラックメタルは広がっているのである。


そう、中東にも。(※注3)


中東はサウジアラビアに於いて、『アル=ナムロード』と云うブラックメタルバンドが今現在人気を博している。伝統的なイスラム・ファッションに身を包みながらもその音楽は正統派なブラックメタルのスタイルを保っており、それでいてアラビア特有の音楽も取り入れられている。──個人的な感想を述べると、よいバンドである。


しかしながらやはりブラックメタルの精神は健在で、PVの内容は頽廃的であり、妖しく怪しく──また、ブラックメタルの精神に則り、公然と回教に喧嘩を売っているのである!


中東に於いてイスラムの教えに喧嘩を売るのは生命の危険を伴うは、皆もよく知っていることと思われる。翻訳に関わるだけでも危ない。これは音楽に限らずたとえば小説などでもそうである。本邦にてもただイスラムの教えに喧嘩を売った小説を翻訳しただけのなにも悪いことをしていない人が故ホメイニ師の差し向けた暗殺団により殺害される事件が起きている。──そんなことをするからバチが当たってホメイニ師は葬式の際に棺桶が倒れて全世界にフルチン姿を晒すことになったのだ。


まあホメイニ師のフルチンの話などどうでもよい。問題は問答無用で殺しにくるということである。──そのような中でアル=ナムロードは真っ向から喧嘩を売っている。


これこそがロックである。相手が強大であればあるほど喧嘩の売り甲斐、反抗のし甲斐があると云うもの! しかも己の生命の危険すら省みず! まことロックの魂ここに極まれりというもの!



どこぞの、喧嘩を売っても殺しにくるどころか反撃もしないやさしいの極みである政府の首相を莫迦にして(しかも己のスタイルではなく先人のしかも出来の悪いモノマネ・スタイルにて)悦に入っている自称ロックバンドとは──否、そのようなものを果たして……ロックと呼べるのであろうか?

※1:その割に、ギャングやマフィアといったやくざ者は信仰心がつよい


※2:バイキングメタルとフォークメタルとを組み合わせたまったく新しい音楽バトルメタルをやっている


※3:デスメタルはすでに定着しており、イランには『アゾーマ』、U.A.E.つまりアラブ首長国連邦には『ネヴァーセル』といった中東の雄がいる

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