伊達メガネと探偵さんの被る深い帽子
誤字報告、ブックマーク、評価、そして感想ありがとうございます。今日も皆様のおかげで失踪せずに済みました。
今回は彩乃視点からのスタートです。
昼休みも逃してしまったし、放課後こそ勇気をもって話しかけよう。
そんな風に考えていたが放課後になった途端に東君の周りをクラスの女子三人が囲んでしまった。私は完全に出遅れた形になってしまった。
あの人達朝も前の方で東君を囲んでいたような気がする。私なんて今日はまだ一度も東君と話せていないのに...
あの三人がいなくなったら今度こそ話しかけようと考えていると、女子三人の間に春川君が割って入り、少しするとあろうことか東君の手を引っ張り教室から出て行ってしまったのだ。
私はあまりにも突然の出来事に啞然としてしまった。へ?結局私はこのまま東君と話せないの?
しかしここで諦めてしまったら、なんだかこれから東君に話しかけることはできないんじゃないかと思い、私も荷物をもって急いで2人の後を追いかけた。
追いかけて2人を発見したのは良いものの、東君に話しかけるだけならまだしも、春川君と一緒にいる時に話しかけるほどの勇気は私にはなかったので、春川君と東君が別れるまでそのまま2人をこっそりと追いかけることになった。
それにしても2人は仲が良さそうだ。遠くからでも東君が安心していることから春川君を他の人よりも特別に信用しているのが分かる。
先日私と一緒に外出した際もあんな風に安心してくれていたのだろうか、今度外出する機会があればもっとちゃんと東君のことを見る事にしよう。
そして2人は先日私が東君に連れていってもらったおしゃれな喫茶店に入っていった。
さて2人がいつ喫茶店から出てくるかわからないし、こんな路地裏でずっと待っているのも不自然だ。かと言ってこのまま東君と話すことを諦めて帰るなんて嫌だ。
いっそここまで来たんだし、私もこっそりとお店に入るのはどうだろう?
幸いなことに今日は先日よりも店の中にお客様が多いようなので時間をおいて入れば多分二人にはバレないだろうし、ここは思い切って入ることにしよう。
後で思い返すと本当にどうかしていたとしか思えないが、その時の私はなぜか全く余裕がなくて、東君と自分の理想とする状況下で話す事しか、というかとりあえず東君と話したくて後を追いかけることしか頭になかった。
私は意を決して、店に入るとマスターさんが声をかけてくれそうになったが、失礼になるのは承知で口に人差し指を当て、「シー」というジェスチャーをして声をかけないでもらった。
私のそんな様子を見てマスターさんはなにか察してくれた?のか、静かに東君と春川君の座っている位置を教えてくれて、私に手招きして呼び寄せると伊達メガネとよく探偵さんがかぶっているような深い帽子をニコニコというかニヤニヤとしながら手渡してくれた。
私はマスターさんにお辞儀をして、2人の席から死角になる席に着いた。
この位置だと本当に偶然2人の会話が聞こえてしまうけれど、2人の死角になる席は今ここしか空いていないし、二人の会話が聞こえてしまうのはしかたのないことですよね。
決して盗み聞きしたいわけではないんですからね!
私はいったい誰を相手に釈明しているのでしょう…そんな事を考えながら彼らの話に耳を傾けた。
東君はまず私と偽の恋人関係である事を春川君に語った。私にはなるべく秘密でって言っていたのに東君は困った人です。でも後を追いかけるときにも感じたように東君は春川君のことをかなり信用しているようですし、話しても大丈夫であると思ったのでしょうね。
でもとても苦々しく語る様子だったので、やっぱり少しは私に悪いな。なんて思ってくださっているのかもしれない。
その後、東君は自分がお兄さんに挑むという旨の話をしていた。やっぱり東君は今日の朝の出来事を気にしていたのかもしれない...
周りからあんな風にしか評価されなかったらお兄さんを越えてやるっ!て気持ちにも共感できる。
しかし私はその後の話を聞いて、東さんは以前にも一度お兄さんに挑戦していたようだが、今日まで挑み続けることを諦めていたことを知った。
そして驚いたことに東君がもう一度お兄さんに挑戦しようと思ったきっかけは私がお父様に立ち向かう姿を見たり、私の考える挑戦する意味を聞いたりしたことで、もう一度自分も挑戦しようと決心したそうだ。
自分の行いがここまで人の人生に影響を与えていることに驚いたし、なんだか少し畏れ多かったけれど、それ以上に東君に自分が影響を与えられていることを嬉しく思った。
それにしても東君が語ることはすべて事実ではあるのだが、私の事を持ち上げ過ぎというか、褒め過ぎなんじゃないかと思う。
なんだか顔が熱くて仕方がない…
嬉しくて胸がポカポカしているし、その熱が既に照れで真っ赤になっている顔に伝わってきている。正直オーバーヒートですよこれはぁ…
その後私は静かに席を立ち、マスターさんにかりたものを返して、家に帰った。
マスターさんには帰り際顔を真っ赤にしているのがバレて、またニヤニヤされてしまった。
マスターさんにバレたのは恥ずかしかったが、あのままあの場にいたら照れと嬉しさで茹蛸になっていたので離脱は妥当な判断だったと思う。
私は仮の恋人関係の件については次の全国学力テストが終わり、彼が落ち着いてから伝える事にしようと決めた。彼の意志を知ってしまった今、彼の挑戦の邪魔をしたくないと思ったからだ。
お父様に意見を言うことが私だけの挑戦であったように、東君がお兄さんに勝つというのも東君だけの挑戦だ。
だからもしかすると私は知らないふりをして東君の挑戦を静かに見守るべきなのかもしれない。
それでも...彼の挑戦だとわかってはいるけれど、私はどうしても、ほんの少しでもいいから東君の力になりたい。
この気持ちはただの私の身勝手な東君への恩返しをしたいという気持ちからくるものだと思う。こんな身勝手な理由で動くのはどうなんだろうかとも思うけれど、今の私はこの気持ちを押さえつける方法を知らない。
あの日私の挑戦を陰ながらフォローしてくれた彼のように私もなにかできないだろか......
そんな思いを胸に抱え、家路につくのであった。
余談ではあるが家に帰りしばらくして落ち着いた私は、自分が今日してきた私らしくもない奇行の数々に頭を抱え、罪悪感に苛まれる事となったのであった。
褒められて初々しく顔赤らめちゃう黒髪美少女が好きな方は下の☆ボタンをポチってください。もっと黒髪美少女が頬を赤く染める所を見たい方はブックマークお願いします。感想、ご指摘お待ちしております。
沢山の方に見ていただければ見ていただくほど、自分の表現力や構成力のなさを痛感致します。連載中に少しずつにでも成長して、自分も読者様もこれは良いという作品を書き上げて参りたいので、これからもよろしくお願いします。