改めて心に誓った
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西大路家訪問した次の週の土曜日。
今日も春の陽気が気持ちよく全身を包む。陽光が眩しく思わず手でさえぎってしまった。
はたから見るとパパラッチのフラッシュを避けるスターだなこりゃ。
ほんと朝からシャレてんな俺ってやつは、噓です朝からあほ丸出しですね俺。
この春の暖かな陽気とともに蝶も気持ちよさそうに飛んでいる。俺もきらめく風にでも乗って待ち合わせ場所に向かうことにする。これ以上シャレてる時間なんてないしな…
俺は待ち合わせ時間30分前に待ち合わせ場所である時計台の前に立っていた。
待ち合わせ相手は西大路だ。
先週、西大路邸で全て終わった後に取り交わした飯を奢るという約束を律儀に果たしてくれるそうだ。
というか俺は西大路の私服を着物しか見たこともないわけだがまさか今日も着物を着てこないよな。
流石に着物姿の西大路は目を引きすぎるので、平常心を保って、一緒に歩く自信はないな。
待ち合わせ時間15分前に差し掛かったタイミングで西大路は現れた。今日の西大路の装いはまぁ当然ながら懸念していた着物でなく、白いワンピースと言う非常にシンプルなものだった。
しかしシンプルであるから決しておしゃれでないわけではない。
西大路のスラッとした見た目にワンピースは非常にマッチし、白という色も彼女の艶やかで長い黒髪の美しさを際立たせている。
総合的に見ておしゃれといって差し支えないだろう。
というかあれだ今日も美人っぷりを遺憾なく発揮している。
「すいませんお待たせしてしまいましたか?」
「いや俺もさっき来たところだ」
そんな風に俺が言うと、西大路はなんだか本当の恋人みたいですねと微笑んだ。
ほんとこの子は自分の容姿がどれ程なのかを理解してからそういうことを言ってほしいものだ。
一々ドキッとして心臓に悪い。今後西大路と会うときは事前にAEDを用意しよう。
「そういえば今日は着物じゃないんだな」
「着物は家の中だけでしか身につけません!私だって普通の服くらい着るんですからね」
西大路そういうと腕を組んでプイっとそっぽを向いてしまった。どうやら怒らせてしまったようだな。怒っている所悪いがここはひとつさっきの仕返しさせてもらおう。
「すまない、少しからかっただけだ。今日のそのワンピースもこの間の着物と一緒でよく似合っているよ」
俺がそう言うと西大路はそっぽを向いているので顔は見えないが、耳を真っ赤にしていた。よしよしある程度は効いたようだな。
「全く東君はちっとも反省していないじゃないですか」
「良かれと思って言ったんだが気を悪くさせたなら悪かったよ」
「別にその悪い気はしませんが、誰にでもそういうことを言うのは控えた方がいいですよ。勘違いしちゃう子もいるでしょうから」
「誰にでもとういうわけではないが、まぁ気を付けるよ」
なんで結局俺が謝る事になっているんだか...会話にひと段落ついたということで俺は西大路に連れられる形で時計台を後にし、駅構内へと進んだ。
それにしても彼女の耳がまだ真っ赤なのはなぜだろうか
俺達は電車で有名な食事処のある隣町まで移動した。
電車内でが密室ということもあってか周囲の視線が西大路に集まっていることが隣にいる俺にすらわかる。
まぁ同じ空間にこんな美少女がいるなら男女問わずつい見てしまうよな。
でもそういう気持ちは分かるが視線を送るのもほどほどにしてくれたまえよ。
隣りの美少女が恥ずかしさのあまり顔を紅潮させてうつむいたまま、なにも喋ってくれなくなってしまったではないか。
こちらまで気まずい感じになってくるから切実にやめて差し上げてほしい。
そんなこんなで隣町の食事処までなんとか辿り着いた。
食事処は和風の建築であり、この間訪れた西大路の家のような威圧感はなかったが使用されている木材の感じなどから歴史を感じることはできた。
こういう古き良きって感じは正直嫌いじゃない。
店の中に入り、案内された席に着いて注文を終えた。
ちなみにメニューは和食が中心で俺は鯖の味噌煮定食を頼み、西大路は鮭の塩焼き定食を注文した。
さて注文まで終わると俺は困ってしまった。なぜなら俺はここ一年マジで女子と雑談をした経験がないからだ。
ここから先何を話せばよいのだろうか、西大路もご多分に漏れずイマドキ女子のはずなので、そんなのを相手に話せるような話題を俺は持ち合わせてはいない。
だがこの二人しかいない状況で食事が運ばれてくるまで無言というのも耐え切れない。どうする八方ふさがりだぞこれ、ここは秘儀《トイレへ逃げる》を使うしかないのか…
「改めまして先日はありがとうございました」
「あっあぁいや別に大丈夫だ。こちらこそ今日はご馳走になるわけだしありがとう」
俺が困っていたのを察してくれたのか、西大路のほうから話しかけてくれた。
なんて気が利く子なんだろうかこの子は…服装が白を基調としていることもあり、天使に見えてきた。大天使アヤエル様だ。
「先日も思いましたが、東君は本当に二面性のある方ですね。あぁ勘違いしないでください良い意味で、ですからね」
「二面性なんてなくないか、俺は見たまんまいつもこんな感じだよ」
「では無意識なのですかね、先日父と話をしている時の東君はいつもからは考えられないほど目に力がこもっていて、その目を父からはそらさないほど堂々としてましたよ」
西大路は真剣な眼差しでそういった。
「それは昔の教育が身体に染み付いているんだろうな。目上の人間と話す時の礼儀やら心構えやら嫌になるくらい学ばされたからな」
「それはご実家で?」
「あぁ物心ついたころから学校の勉強とは別にそういう事を色々と叩き込まれたよ。どこにいっても恥をかかないようにってな感じで」
「何はともあれ東さんがお父様相手に一歩も引かない姿を見て、私は勇気をもらいましたし、東君のあの姿勢を見て私もずっと怖くて仕方なかったお父様に意見することができました。きっと私一人ではあの挑戦はできませんでした」
彼女は依然として今回の件は俺のおかげと言う。
確かに俺も彼女がこの不可能と思えるような挑戦する一つの足掛かりにはなれたとは思うが、それは偶々の前回あったもので、話は聞いていないが、これまでもこの問題で西大路は大なり小なり敗北を繰り返してきていたはずだ。
それでもこの間の来るかもわからない、来ない確率の方が高い勝利の瞬間を信じて、最終的に彼女は一人で《ずっと怖くて仕方なかった父》に挑み、勝利を収めたのだ。
だから今回の功績は彼女一人の強さだと誇っていいはずなのだ。少なくとも俺は目指す場所は違えど不可能だと思われるような挑戦に敗れ続け挑戦することすら諦めてしまっているのだからな。
途中までは俺と重なって見えていた彼女だがけっかとして彼女は俺の決して届かなかった境地まで到達した。
だからこそ気になることがあるのだ。
「西大路、一つ聞いていいか」
「はい、大丈夫です」
「なんであんな自分の中で不可能だと思われる挑戦を続けることができるんだ?」
聞いてしまった。
こんなことを聞くことに意味なんてないと分かっていながらも、気になってしまったのだ。自分と同じような状況下におかれていた彼女が諦めずにいられたわけを、勝利をその手でもぎ取れたわけを
「そんなの決まっているじゃないですか。挑戦はその先に勝利があるからこその挑戦だからですよ」
西大路はあっけらかんとそういった。
「だってそうじゃないですか、目指す場所に到達できないままその挑戦をやめてしまうことは、それまでの自分を否定し、殺しているのと変わりません」
西大路のその言葉は俺の心を容赦なくえぐった。
「例え負け続きだったとしても自分のそれまでの挑戦に意味を、価値を与えられるのは自分だけなんです。でもやっぱり勝たなければ、欲しいものを手に入れなければそれまでの負けは負けのままで意味も価値もつけられない。見殺しにすることしかできないんです」
俺は息をのんだ。
「だから始めから私には諦めるなんて選択肢はなかったんです。どんなに勝ち目がなくて不可能だと思えるような挑戦でも挑戦することをやめて、それが過去の私を殺して、今の私を絶望させて、未来の私に後悔させる理由にはなりません」
西大路は力強くそう言い切ってみせた。
俺の中にはない。俺の人生だけでは決して出てこない考えが西大路から語られた。
自分の過去を生かすも殺すも俺次第か、過去に意味があるなんて本当に考えたこともなかった。
でも言われてみれば確かにそうだ。今現在、そして未来の俺自身を形成しているのは紛れもなく過去の俺だ。
今の俺が負け犬であるということは過去の俺も負け犬である。それが許容できるのか?答えは否だ。あの辛かった日々が、一番欲しかったものすら失って、悔しくて、絶望したあの日々全てが無駄で意味がないなんて、誰が許しても俺自身が許せない。
だから俺はもう一度立ち上がらなければならない。
どんなに負けが込んで絶望しようが性懲りもなく何度でも挑み続けなければならない。兄貴に勝つために、全ての瞬間の俺のために
「不思議だな。西大路の言葉にはなぜか重みを感じるよ」
俺のその言葉を聞いて、西大路はなにかを察した様で薄く微笑んだ。
「まぁ私も過去に同じような経験をしたので、実感がこもっているのかも知れませんね」
そのやり取りを終えると、俺達は吹き出してしまった。
きっと今日が、いや西大路が仮だったが告白してきてくれたあの日が俺の転機だったのかもしれない。
俺は改めて心に誓った。俺を「じゃない方系男子」たらしめるあの兄から必ず勝利をおさめようと
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ちなみに感想とかも実は待ってます。