とどめの一撃
誤字報告、ブックマーク、評価、そして感想ありがとうございます。今日も失踪せずに済みました。
まずは西大路に春川に俺達の関係を話してしまったことを謝罪しなければならないな。
そう思い、俺はメッセージアプリで西大路に『突然の連絡すまない。今時間大丈夫だろうか?』と送った。
しかし五分ほどしても既読がつかなかったので、忙しいのだろうなと考えた。
春になり、冬よりも日が長くなったことで失念していたが時刻は19時過ぎ、一般的に考えると夕飯を食べていてもおかしくない時刻だ。
なので、俺は家のことがひと段落付きそうな夜の時間帯にまた出直そうと考えた。
その後家に帰り、いつものように晩御飯を食べ、風呂に入り自室のベッドに寝転がった。それだけで眠の差世界に転がり落ちそうになってしまった。
今日は久しぶりにあんな数の人間に囲まれて、嫌な評価を四方八方から言われたから自分が思っている以上に精神的に疲弊しているのかもしれないな。
ここは身体のなすがままに寝てしまおうかなどと考えてしまうところだが、最後の力を振り絞って改めて西大路に連絡することにした。
メッセージアプリを開くと30分前に先ほど送ったメッセージへの返信が来ていた。ちょうど風呂に入っていたので気がつかなかったな。
『返信遅くなってしまい申し訳ございません。こんな家のことをしていて気が付きませんでした。今なら時間大丈夫ですがどうしましたか?』
『いや、西大路に謝らないといけないことがあるからは時間を取ってもらいたかったんだ』
『それでしたら私も東君に謝らなければならないことがあります』
西大路も俺に?一体なんだろうか特段なにか迷惑をかけられた覚えはないんだがな。
『じゃあ今から電話をかけてもいいか?』
そのメッセージが既読となってから20分返信がなかった。さっきまで良いテンポでメッセージのやり取り出来ていたのに急にどうしたのだろうか。
そしてそれから少しすると『いいですよ、受けて立ちましょう』と返信があった。
一体なぜ受けて立たれるのかは定かではないが俺は西大路に電話をかけた。
『もしもし、東だ。悪いなこんな時間に』
『いえ、その……こちらこそ返信が遅くなってしまい申し訳ございません』
なんだか歯切れが悪いが大丈夫だろうか
『夜も遅いし単刀直入にいう、俺達の関係をうちのクラスの春川に話してしまった。俺の軽率な行動が招いたことだ。本当にすまない』
俺は電話越しではあるが頭を下げて謝罪した。致し方なかった面はあるとはいえ、西大路には悪い事をしたと本気で思っているからだ。
『えっとなんというかその...実は私そのこと知っているんです…』
西大路は申し訳なさそうな声でそう言った。
いや待て、知っている?なぜだ?もしかして春川のやつどこかしらから、西大路の連絡先を入手して連絡したのか?しかしあいつがそんなことをする理由がない。わからん。
『えっと私からも謝罪させていただいてよろしいでしょうか?』
『あっあぁかまわないよ。謝られるような心当たりがないんだがな』
『実は、その…今日放課後東君たちの後をつけて、喫茶店での会話を盗み聞きしていました。すいません!』
これは驚いたな。まさか今日西大路につけられていたなんて思いもよらなかった。
「いやまぁ、驚いたけど、なんで俺と春川の後を付けたんだ?」
『えっあのえっとそのですね…あれです今日の朝東君クラスの皆に囲まれて酷いこと言われてたから大丈夫かなって気になって声をかけようと思ってたんです』
西大路は声を上ずらせながらもそう語った。正直怪しいが問い詰めても仕方のないことなのでここは素直に受け取っておこう。
それよりも酷いことか...少し気になるのでこれに関しては鎌をかけてみるか
『ひどいことなんて言われていたか?皆俺の容姿についてほめていたじゃないか』
『いえいえあれは酷いですよ!囲んでいたどの人も東君のことなんて見てなくて、皆口をそろえて東君のお兄さんのことしか褒めていなかったじゃないですか。それに…お兄さんことは関係なく、その…東君はかっこよくなっていたのに、あれはないですよ皆』
少々心をざわつかせる爆弾発言も混じっていたが、一先ず西大路の酷いことの意図は伝わった。
西大路は俺のことをちゃんと見てくれている。
正直最後の爆弾発言よりもここに俺のことをちゃんと見てくれる人がいたことが俺は本当に嬉しかった。
つい最近出会って、正直俺に感じてくれている価値なんて自分の挑戦に役に立つ俺の家柄ぐらいだと思ってた。
だから俺は他のやつなら気に食わないけど、無理難題に挑戦していた彼女になら、それで挑戦する彼女の助けになれるなら彼女にそう思われていても、利用されているだけでも良いと思っていた。
だけど、彼女はちゃんと俺のことを見てくれていたんだ。堪らなく嬉しいよこれは
『なんか…うん…あれだ色々ありがとう』
『ありがとうだなんて、私は当然のことを言っただけですし、そもそも私理由は何であれ東君を尾行にしてしまうような人間なんですし、ありがとうだなんてやっぱりもったいないです』
もはやさっきのことが知れただけで、尾行されていたことなんてどうでもいいんだが、西大路は凄く反省しているようだ。
しかし尾行に盗み聞きとは、西大路は将来は探偵やスパイが向いているのかもしれないな。探偵帽子を被り、茶色のトレンチコートを羽織り、虫眼鏡をもって覗き込んでいる西大路。
うん、ありだな。可愛い。
そんなバカなことを考えていたせいでしばらく黙っていたせいか西大路は『やっぱり尾行に盗み聞きなんて気分の良いものではありませんし、怒ってらっしゃるのも当然ですよね…』と力なく呟いていた。
『すまない少し考え事をしていた。全然怒ってないからそんなに落ち込まないでくれ』
『本当ですか!良かったです…追いかけているときはそれに夢中で気が付いてなかったのですが家に帰ってからやっぱりよくないなって思って、でも今みたいに素直に謝って東君に嫌われてしまったらどうしようかと凄く不安でした…』
『俺はこの世に聖人君子は存在しないと思ってる。だからやってしまった事実よりもその後にその行いを悔い改めることができるのか、どんな行動や言動ができるのかの方が重要だよ。その点でいえば今の西大路からはきちんと反省の意も誠意も伝わっているから、もう何とも思っていないよ』
『東君がそういってくれて本当に安心しました…』
西大路は胸をなでおろすようにそう言った。
『まぁ聞かれると少し恥ずかしい話をしていたからそこは気になるけどな』
俺は冗談めかしてそういった。結構春川の前で西大路のことを語ってしまっていたし、たぶんそれも聞かれただろうから、なんというか照れ臭さが凄い。
『いやっその件はありがとうございましたというかごちそうさまでしたというか…安心したら今度は照れでドキドキしてきました...』
『まぁ聞かれたみたいだから、改めて言うが西大路ありがとう。君のおかげで俺は過去の俺を殺さず、未来の俺に後悔をさせないチャンスを得られたよ。西大路のおかげで得ることのできたチャンス必ずものにするから、その…西大路も応援してくれると俺も嬉しい』
改めて本人に伝えるのは、さすがに恥ずかしいというか、なんだかむず痒いし、全身が暑くなる。特に顔なんて今鏡で見たら真っ赤なんだろうな。その点に関しては電話でよかったと思う。
『あの私も東君の力になりたくて、東君がもしよろしければ、次の全国学力テストまで一緒に勉強しませんか?もちろん東君が自分の挑戦だから自分一人でやるとおっしゃるなら大丈夫なのですが…余計なお世話ですか…?』
西大路は不安げに俺にそう言った。
『余計なお世話なんてそんなわけないじゃないか。ここ一年学業に関しては手を抜きっぱなしだったから、ちょうど明日から本腰をいれて勉強を始めなくちゃいけないと思っていたところなんだ』
俺のことをちゃんと考えて気遣ってくれていること、俺の助けに何とかなりたいという気持ちは素直に嬉しい。
『それに確かに俺の自身挑戦ではあるけど、誰も1人であの兄貴に勝とうなんて考えていないよ、そんな甘い相手じゃないことは十数年思い知らされてきたしな。最後に勝つのは俺自身だが、その過程はきっと色んな場面でも色んな人の手を借りることになると思う。だからその第一号に西大路がなってくれると俺は嬉しい』
『私も東君のお役に立てるなら凄く嬉しいです!なんとかお役に立てるように頑張ります!』
西大路は嬉しそうに、そして張り切った声でそう言った。
ほんと前に感じた思った事が素直に顔に出がちなこともそうだがこういう裏表を感じさせない言動や行動は本当にこの子の持つ素敵さだなと感じる。
『今日はもう遅いし、話はこれくらいにしよう。勉強を教えてもらう件についてはまた明日こちらからまた細かいことを提案させてもらうよ』
『はいわかりました。明日から改めてよろしくお願いします!』
『こちらこそ明日からお世話になります。よろしくお願いします。じゃあまた明日』
その言葉を最後に俺が電話を切ろうと通話終了ボタンに触れる直前にスピーカーから
『おやすみなさい』
と西大路は優しく囁いた。
俺も返そうとしたが通話終了ボタンに向かうその指を止めることはできず、電話を切ってしまった。
とどめの一撃だったな。真っ暗になったスマホの画面に映る自分の顔を見てそう確信した。
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最近感想が増えてきて、嬉しいです。きちんと読んでくださっている方から様々な指摘もいただきますが、御尤もなものがほとんどなので日々勉強になっています。ありがとうございます。
そしてついに今日でストックが切れました…こんなに続くと思わず、バイトを入れた自分が恨めしい。ということで遂に明日連続投稿が途切れるかもしれません...




