科学の力で未来とかに送られて希望をまき散らした結果、壊れた被検体となったごく一般的な勇者のお話
〖確認しました:“記憶媒体”をプログラムします〗
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暗転した視界に光がまた灯る。
記憶に新しい“死”の記憶。
暗い、暗い、雨に打たれたあの日。
酷く寒くて、苦しくて。希望が□□□で、正義が不条理で。
討たれたあの日、紅い、紅い、血がヌメリと滴った。
そうだ、あの最後の命日を…… 最後の記録を。
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ああ、思い返される。
ふるい、ふるい、大昔の記憶。
若かった。あの日。
絶望してなお、□□□に向かい直ったこと。
俺が殺された。僕が裏切られた。余が反逆された。我が謀反を企てられ、最後に孤独のまま死んだ。
怨嗟、欺瞞、堕落、害悪、欲望、そして“復讐”
負の感情が、憎しみと共に向けられた。
快挙、そう呼ばれた過去の出来事。
異界の大勇者、孤独の大盗賊、慈愛の大賢者、挑戦の大法皇、最後に呼ばれた悪徳の大魔王。
今まで尽くした、知るもの全てに尽くした。
世界を捨て、自身を捨て、心情を捨て、自由を捨て、全てを捨て去り全てに尽くした。
そうなんだ、だから、だからそうした。今までの思いと共に―――
―――今まで積み上げてきたものを狂気と共に壊した―――
今までの記憶をここに送ろう、記録として、記憶として、今までの技術と共に、希望と共に……
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〖確認しました:“記憶媒体”をプログラムします〗
告げられる。呪詛のこもった声が、記録が記憶になっては入り込んでくる。
〖“記録媒体”を基礎として、脳となる臓器へ記録のコピーを行います…… 成功〗
〖以後“記録媒体”は予備記録保存領域として機能します〗
今まで覚えてきたのは、かつて殺した最愛の人。
血が滴る己の手を見ながら確信した。自分が求めていた世界は見つかって、たった今崩壊したんだな…… と。
それからは早かった。一年、五年、一〇年、五〇年、気づけば何の記憶もない。ただの無能な年老いた男がそこに立っていた。
鼓動が失われるのが肌に感じる。
思い返してみれば、それが最初の□□□で。俺が“勇者”として異世界に呼ばれたんだっけ。
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〖基礎体となる魂魄をスキャン…… 魂魄に関する異常は皆無〗
〖記憶媒体から記憶コピーの欠損スキャン…… 欠損に関する異常は皆無〗
だめだ。また、あの悪意と希望は止まらない。
〖魂魄との相性スキャン…… 適合率100パーセント〗
□□□は、いつになったら終わるんだろうか。
〖全行程オールクリア、これにより転生を行います Yes/No〗
もう希望はないのに□□□は、いつまでも……
〖コーション!、コーション! 魂魄より出所不明なソフトが検出、□□□のソフトが強制実行されます。再起動をす・・・〗
〖再起動を推奨、再起動をす、すす、いしょう、、、推しょぉおう〗
本当に…… 一体なんで。
〖□□□のソフトが起動しました…… 認証〗
〖□□□のソフトにより強制的に記憶が植え付けられます…… 成功しました〗
頭の中にまた知らない記憶が入り込んでくる。
〖□□□は希望を探します、あなたは希望です、あなたが□□□の希望なのです〗
そんな声を聞いて、また視界が暗転する。
新たな□□□の記憶を共に……
そう、□□□。いま新たに絶望した者の魂と替わって。
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目に光りが宿る。
空は茶色く、地面は赤黒く染まっている。
ふと下を見ると、なじみ深い母国語で□□□の名前が彫ってあるプレートを見かけた。
「ああ、今度は戦場か、今度も□□□の名前……」
今まで、一度たりと思わなかった事はない。
□□□の名前を知るということは、それは……
「そうか、やはりか…… やはりこの□□□の名前は……」
知ることは、その意味を知ることは……
「なぁ□□□、君の名は 一体なんだ」
全てが終わった後なんだな。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
この作品は2018年2月に執筆したものです。2、いや3年前の作品ですね。
ずーっと埋もれてくれていたのに未投稿は申し訳ないので、供養しました。
正直いって中二病が爆発した側面は否めません。そういえば世界観をメモった台本もあったのですが、なくしてしまいました。
あのときの妄想は今思い返しても痛いなあ、と感じます。
そんな中二病作品の供養です。
最後にもう一度、読んでくれてありがとうございます。