8。
そこから先は、傍にいられなかったけれど。それでも大切な戦友としてお互いがお互いの心の中にいたと信じていた。
「フィリ、僕は嫡男だけど弟達はどっちも優秀だから、フィーリアにお嫁入りすることだってできるよ?」
「お嫁入りなの? ふふ。たしかにパッシィにはドレスも似合いそうね」
「ねぇ、フィリ。僕の友情を信じてくれないかな。僕なら君のすべて──笑顔も、望みも、全部守れるよ」
パーシバルは幼い頃からの友の瞳をじっと見つめた。
言葉にしきることのできない、言外の意味が伝わりますように、と願いを込めて。
「ありがとう。でも、やっぱり無理だと思うの。
最初はうまくいくかもしれない。でも、いつの日かきっと、パッシィ、貴方は私を、憎みだすわ。唯一の、最愛として、貴方を見れない私を」
懸命に振り絞るようにフィーリアはそれまで誰にも伝えたことのない己の心を形にする。
ここではない、後日二人きりの時ならば、ちゃんとはっきりとした言葉にできるだろうか。
一度は無くしてしまったと思った友情の下でなら。
でも、知られたら、それこそ本当にこの友情を失ってしまうかもしれない──
そう、本当に手に入れたいという想い。傍にいられるだけでもいい、そう願うだけの、それすらも。
フィーリアの目が不安に揺れ、その瞳から光が消える。
「フィーリア様、私はついていきます」
けっして大きい声ではなかったが、決意を込めた声で、マリが宣言した。
尊敬できない王族の婚約者との会話につかれた時も、この先の未来、領民への責任の重さに泣きそうになった時も、いつだってこの優しい瞳は傍にいてくれた。でも
「マリ。貴女を雇うわけにはいかないわ。私は自主的にだとはいえ蟄居するのですから」
「雇って頂かなくても構いません。私は貴女の傍におります。それだけです」
絶対に離れません── 美しい笑顔で言い切る。
「働く、ということでしたら私の方が一朝先んじておりますし。
フィーリア様に雇われるのではなく、フィーリア様を養っていくのはありですね」
やさしい瞳をしたやさしい人は、いつだってフィーリアの一番欲しい言葉をくれる。
今だって、そうだ。
その中身が、フィーリアが欲しているものとは違う形をしていたとしても。
「まぁ。マリが私を養ってくれるの? うふふ。すごい。頼もしいのね。
でも私個人の財産はそれなりにあるのよ。贅沢をしなければ私たち二人で一生暮らしていける程度には。でもそうね、マリの資産が私のそれを超えたら、その提案について考えることにしようかしら」
「では後程資産比べを致しませんか」
「あら、私に勝てる自信があるの?」
「どんなことがあろうとも貴女の傍にいようと決めた時から、ずっと準備をしてまいりましたから。
祖父の興したアライス商会は、この国一のものだと自負しております。
伯爵家を出されてからのこの3年、ずっとその祖父の下、仕事というものを教えて貰っておりました」
「…知らなかったわ」
「なので、これからの生活についても、それなりに自信はあるのです」
くすくすと笑いあう。楽しそうな夢の会話が続いていく。
双月の妖精とこの二人を呼び出したのは誰が最初だっただろうか。
月光の煌めきを集めた銀の髪と、玲瓏たる月の光のような淡い金の髪。白磁のように透ける白い肌と真珠の煌めきを閉じ込めたような白い肌。
背の高さも体形も。顔の造形以外はそっくりだった。
逆にいえばに、顔の造形も髪の色も瞳の色も全く違うのに、なぜだか二人はそっくりだった。
二人はまさしく一対となるべく存在していた。




