7。
「フィーリア・デイマック伯爵令嬢。貴女にここでそのまま帰られては困りますね」
ため息を吐いたフィーリアの前に学友トリオが立ち塞がる。
「まだ、私に御用がありまして?」
黙って帰っちゃえばよかったと思ったが一足遅かったようだった。
これ以上なにを何癖つけられるのだろうと、フィーリアに緊張が奔る。
「フィーリア・デイマック伯爵令嬢、私と結婚してください」
「私の背中を預けられるのは貴女だけだと思っているのです。殿下との婚約が破棄された今、私の手を取っては頂けないでしょうか」
「フィリを笑顔にできるのは僕だと思うんだ。君の笑顔を、僕に一生守らせて欲しい」
3人が、一斉に跪いてフィーリアへの愛を請う。その瞳はどれも真摯な想いに溢れ輝いていた。
3人がそれぞれに、これからの王国において重要な役割を担うと期待されている存在だ。
きっとどの手を取ったとしてもフィーリアは幸せになれる、誰もがそう思った。
「ありがとうございます。お気持ち、嬉しく思います。
でも、私は王家から婚約破棄を申し渡された女です。
デイマック伯爵家の親族に、私が兄と慕うとても優秀な方がいるのです。その方は現在父の片腕として領地を治めるお手伝いをしてくれているのですが、すでに妻も迎え子もいます。その方とご家族とともに伯爵家へ迎え入れ世継ぎとし、私は表舞台からは一切身を引いて領地の端にて静かに暮らしていくことで、婚約破棄を受けた不名誉の罰とさせて受けさせていただければと思うのです」
婚約破棄の罰を受け入れるといいながら、フィーリアは、なにやら胸の閊えががとれたような、すっきりとした表情をしていた。
貴族階級の女性の常とはいえ、やはり政略のみで愛情も尊敬も持てない相手と婚姻を結ばなくてよくなったということは大きいだろう。
それならば、この3人のどれか、いや、王国内どころか国外でだろうといくらでもいるであろうフィーリアの隣に立つ栄誉を欲っする優秀な男性の手を取ればいいのだ。
きっと誰もそれを咎めたりしないだろう。
しかし──
「お申し出頂いた事は本当にうれしく思います。
でも、差し出して戴いた手を取ることはできません」
フィーリアにとって、サリオとの婚約は枷だった。
貴族に生まれたからには避けられない義務。
尊敬できない相手ではあったが、それでも相手は王族だ。正しい道から外れることのないように、諭し、導き、その手伝いができるよう、自ら厳しく律していかなければならないと常に頭にあった。
そんな意に染まぬ枷を、サリオ殿下自らが外してくれたのだ。
新たなる枷を嵌められるような真似はしたくなかった。
そして。フィーリアには欲しいものが1つだけあった。しかし、それには手が届かないと判ってもいた。
だから──
つま先から指先まで、完璧にコントロールされた美しい礼。発する声の抑揚、視線ひとつですら優雅さを生み出せるように、フィーリアは、たくさんの練習を重ねてきた。
その努力をすべて、ここで捨てるのだ。
美しさだけではない、才媛と呼ばれるほど学問にだって時間と努力を割いてきた。
それは、これから一人で立つことになるフィーリアを支えてくれる糧となるだろう。
パーシバルは、その努力する様をずっと見てきた。途中からマリも加わり、一緒に研鑽に努めてきた。
フィーリアが見つめる高みを、3人で共に目指した。
殿下との婚約で、フィーリアが枷を嵌められ、パーシバルがその楽園から追い出されるまで。




