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「ちょ、どういうこと?! ひどいじゃない、ジェフリー君。『証拠は私にお任せを』って言ってくださったのに。なんなんですか、これ」
「えぇ、ですからきちんとした調査を行い、証拠も集めました。
私は陛下に認められた、殿下の学友ですからね。有能さは誇示しないと、ね」
綺麗な笑顔で宣言されたリズベットは、
「そうですよねー」つい見惚れてそう答えてしまった。
「か、階段からリズが落ちた時はどうなんだ。あの時、リズは足を怪我したんだぞ」
「そうですわ。怖かったですぅ、殿下」
「泣かなくていい、リズ。今度こそ大丈夫だ」
思い出した恐怖か現在の状況が想定より不利なままなのが怖いのか、殿下の腕の中でリズベットは震えながら嗚咽を漏らした。ちなみに涙は出ていないので泣いてはいない。
「殿下、その時のことは俺から話させてください」
まっすぐな強い瞳と力強い声。日に焼けた肌をした長身痩躯の男がすくっと殿下の前に立った。
体幹の良さを感じさせる姿勢ときびきびとした動きが美しい。
「陛下よりサリオ殿下の学友を拝命したガイ・パニエルです。こちらの件は、リズベット嬢を保健室へと連れて行った当事者の一人として私から報告させて頂く」
現騎士団長の三男であるガイ・パニエルは、卒業前からすでに騎士団へ予備入隊を果たしている騎士団期待のホープだ。短く刈り込んだ黒髪と意志の強そうな黒瞳、きりりとした眉。細身でありながら筋肉質な身体は、厳しい訓練を乗り越えてようやく手に入るしなやかに動く。正直エロい。
「実技訓練棟での実習が終わり、次の授業にギリギリになってしまったので胴衣のまま研究実験棟の階段を上っていた時だった。
上の階でフィーリア嬢とリズベット嬢がなにやら言い争う声がしたんだ」
ホラ見ろ、お前がリズに難癖付けてたんだろう犯人だと騒ぐサリオを手をあげて遮り、ガイが続ける。
「声が聞こえなくなって少しした頃だ。
階段の上に現れたリズベット嬢と目が合ったと思ったら、いきなり足を滑らせたのか体勢を崩して俺の方によろけてきたので、腕の中に受け止めることになった。
ちなみに、足の怪我というのはその時、俺の腕の中で急に身体をくねらせて騒ぎ出し、腕や足をばたつかせたリズベット嬢が階段脇の壁を蹴っ飛ばしたんだ。
『痛い、骨が折れたに違いない、このまま抱き上げて保健室へ連れて行って』と騒ぐので、そうしたのだが保険医の見立てでは骨折はなく、青タンになってただけだった」
「青…打撲の原因がそれでも、言い争った挙句に激高したお前に、リズは突き飛ばされたんだろ!」
「激高してないと思う。正確に何を言っていたかまではわからなかったが、冷静なフィーリア嬢の声と感情的に反論するリズベット嬢の声がしていたというのが正しいな」ガイから訂正が入る。
「しかし! リズはたしかにフィーリアのせいでって泣いてたんだぞ!!」
「そこは僕に任せて貰おうかな」
「…パッシィ」フィーリアの口から小さく、その愛称が零れ落ちた。
パーシバル・リスター。リスター公爵家嫡子である彼は、領地が隣り合っていることもあり、兄弟姉妹のいない一人っ子である幼いフィーリアにとって一番の仲良しで兄のような弟のような特別な幼馴染だった。
「やあ、フィリ。その愛称で僕を呼んでくれるのは久しぶりだね」
透けるように輝く金色の前髪の間から、深い藍色をした瞳が楽しそうに輝いた。
「失礼しました、リスター様」
「ちぇっ。戻った」艶やかなピンク色の唇を突き出して不満を訴える姿は、17歳という年齢の青年にしては驚くほど幼い。
背が低いというほどでもないのに、なぜか周囲から弟扱いを受けることが多いと憤慨する姿がほほえましい。
しかし、その見た目を裏切るように、成績は総合でも常に上位、理系に限っていえば数十年に一度の天才だ。災害被害をなくしたいという幼いころからの夢をかなえるべく、この学園を卒業したのち王立研究所への所属し治水土木技術における研究職につくことが決まっている。




