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1。

 


「フィーリア・デイマック嬢。ガゼイン王国第四王子たる麗しき僕、サリオ・デ・ガゼインは、不快なる貴様との婚約破棄を宣言する」



 王国の貴族子息が通うディアム貴族学院の卒業記念パーティーは在校生代表として生徒会長による開始の宣言が終わり、丁度ファーストダンスの開始を宣言されるところで、舞台となる中央にみんなの視線が集まっていた。

 華やいだざわめきが一瞬で静まる。


「そして同時に、僕の天使、男爵令嬢リズベット・エネス嬢と婚約する。みんな祝ってくれ!」


 第四王子の腕の中には、濃い蜂蜜色の髪の間から媚びた視線でサリオを見上げるピンク色の瞳をした肉感的な令嬢がすっぽりと収まっていた。

「殿下、嬉しいです」

 ニカっと口を開け真っ白な歯をみせてする笑顔は令嬢から右斜め45度を心掛けるのが、サリオのジャスティスだ。

 決してリズベットが押し付けてくる豊満な胸の谷間がよく見える角度を狙っているわけではない。多分。


「サリオ殿下。私、フィーリア個人としては殿下の御意志に背くつもりは全くありませんが、それでもこの婚約は陛下のご下命によるものでございます。陛下のご許可はすでに頂いているのでしょうか。そしてなにより、”何故”とお聞かせいただけますか」


 双月の妖精と謳われる美しき才媛。月光の煌めきを集めたように輝く銀の髪と夕日を受けて煌めく海のような朱と紫の色合いをした瞳を持つ令嬢は、折れそうに細いその身体をすっと伸ばし、伯爵令嬢として、淑女教育を究めようと努めてきたその矜持を胸に、崩れ落ちそうになる足の震えを一切外に表さないよう細心の注意を払って訊ねた。


「貴様が、可愛いリズベットが僕の寵愛を受けることに嫉妬し、貶し、嫌がらせの数々を行ってきたことは判っている」

 サリオ殿下とそのご学友3人組が、最終学年に転入してきたこの男爵令嬢に対して侍るように寵愛を競い合っているという噂がフィーリアの耳に届くようになったのは、わりとすぐのことだった。


 最初の頃は『授業に出ず、校内のカフェテリアで輪になって談笑していた』といった今となっては些細なものから、『放課後の廊下で抱き合うように寄りそって歩いていた』『空き教室で戯れるような声がした』『特別観覧席で、みんな揃って観劇をしていた』など婚約者がいる身分のある男性としてあるまじき行為としかいえないものになるまであっという間のことだった。

 そもそも、いくら学内で、学生同士でのことだとしても貴族位の女性1人に対して男性だらけで行動すること自体が破廉恥だと言わざるを得ないのに、学外でまでコンパニオンなしで出歩くとは如何なものかと眉を顰めるものも多かった。

 だからフィーリアも、サリオ殿下とそのご学友トリオ、そしてリズベット嬢に対してそれとなくではあるものの何度もそれを諫めざるを得なかった。


「私は、リズベット嬢に対して、お相手の男性に婚約者がいるいないにかかわらず、貴族令嬢としての慎みをもって男性にむやみに触れてはいけないのですよ、とお諫めした記憶はありますが、嫌がらせなどをした記憶はまったくございません」

「嘘を吐くな! お前がリズの制服に水を掛けたり、あまつさえ階段から突き落としたことまで! なにが理想の令嬢だ。とんだ悪女じゃないか」

「まったく身に覚えがありません。なにか私がやったという証拠があるのですか?」

「貴様、リズが嘘を吐いているとでもいうのか」

「フィーリア様、お顔が怖いですぅ。素直に謝ってくれたら、私だってちゃんと謝罪を受け入れて、許してあげますのに」

 サリオの胸元をそっと掴んで震えて見せる。しかし俯き加減のその口元はサリオからも後ろにいる3人組にも見えないだろうが、愉し気に弧を描いていた。

「リズベット、大丈夫だ。偉大なる僕がちゃんと君を守るから」

「殿下」

 見つめあう瞳と瞳。うざ甘い雰囲気がうざ飛び交う。


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