97 女王蜂様 リタイヤ宣言
「うわ、また思わせぶりなこと言ってるし。何なんですか? 奴らって?」
「奴らって、『F/Aー18』よん」
「え? えふえーじゅうはち? 何ですか? それ?」
蜂野先生はM1エイブラムス車長展望塔にいる車長の石積さんの方を顎でしゃくって、発言を促す。
「『F/Aー18』。アメリカのマクドネル・ダグラス社が開発した戦闘攻撃機。愛称は『Hornet』」
蜂野先生は大きく頷くと、今度は三俣の方を振り向く。
「はい。眼鏡っ娘ちゃん。『Hornet』って?」
「眼鏡っ娘ちゃんじゃなくて、三俣真理……いえ、マリ・キウリです。『Hornet』。日本語に訳すと『スズメバチ』」
「え? 「スズメバチ」って?」
三俣は続ける。
「『スズメバチ』。それは『ミツバチ』の最大の天敵。しかも、あれは『オオスズメバチ』。スズメバチ類の中でも最強の種族です」
三俣が指差した空中には三メートルほどの大きな蜂が「カチカチ カチカチ」と顎を鳴らし、ホバリングしていた。
◇◇◇
「みっ、三俣っ、あの「カチカチ カチカチ」という音は?」
「こちらを威嚇して音を出している。そして、もし、私たちが『セイヨウミツバチ』だとすると圧倒的に不利ね」
「そ、そうなの?」
「事例として、数十匹の『オオスズメバチ』が4万匹の『セイヨウミツバチ』を2時間で全滅させたこともあるの」
たっ、大変じゃないかっ!
◇◇◇
この大ピンチに「女王蜂様」こと蜂野先生が何を始めたかというと、ビール瓶を次々振って、底に残ったビールを肉を食べ終わった皿に集め始めた。
「先生! 先生は仮にも『女王蜂様』でしょう。何とかしてください。この大ピンチ!」
「ふあああ~」
蜂野先生は顎が外れるんじゃないかと思えるくらいの大欠伸をするとこう話した。
「何とかしたいのはやまやまやまだけどねえ」
「先生、『やま』が一つ多いです」
「あたしゃ、もうここの『女王蜂様』じゃないのよん」
「へ?」
「蜂幡市が記録破りの早さで発展した上に、新しい『女王蜂様』が生まれちゃったからねえ。まあた『分封』せにゃならんのよん」
蜂野先生はそう言うともう一度顎が外れるんじゃないかと思えるくらいの大欠伸をした。
「先生! そんなこと言ってないで、何とかしてください! 蜂幡市をこんなにしたのは蜂野先生でしょうっ!」
「そう言われても『自然の掟』で何も出来ないのよん。もし、蜂幡市を守りたいってのなら、あんたたちが新しい『女王蜂様』を盛り立てて、守るのよん」
新しい『女王蜂様』って誰だ? もしかして恒未のこと?