93 女王蜂様 二回連続出番なし 錬金術師活躍編
僕と紗季未はしばらくお互い沈黙のまま、歩いていた。
先に沈黙を破ったのは紗季未の方だった。
「こうちゃん……」
「ん?」
「ありがとう……」
「え? え?」
「多分、さっきみたいにはっきり言ってくれるとは思ってた。でも、やっぱり本当に言ってくれると嬉しい」
「あっ、ああ。でも、あんまり言わないでね。こっちが恥ずかしくなっちゃうからさ」
「真理ちゃんもさ……」
「うん」
「ああいうふうにはっきり言ってくれた方がいいと思う」
「うっ、うん」
「後さ、これはあくまで私の勘だけど……」
「うん」
「真理ちゃん。先に飛得先輩に告白されてたんじゃないかな? でも、真理ちゃんはこうちゃんに片思いしてたから、それに決着つけさせてほしいから待ってと言ったような気がするんだ」
三俣には悪いけど、全然、気が付かなかった。それより、同じ男として飛得先輩がそれを受け入れたのなら結構カッコイイ気がする。
紗季未はちょっと微笑んでから言った。
「だから、きっと、真理ちゃんは大丈夫だよ」
仕方なかったとはいえ罪悪感はある。そうあってほしいな。
◇◇◇
「ところでどこに行くの? 蜂野先生のところに戻るの?」
今度は僕が微笑む番だ。
「行きたいところがある。さっきからワクワクしてるんだ」
「え? ワクワクしてるの?」
「うん。錬金術師に変身してからずっとね。そして、こっちの方向にいい素材がありそうというのが何となく分かるんだ」
「ふーん。変身するとワクワクするのかなあ?」
「そうかもしれない。さあ、行こうっ!」
僕は紗季未の手を掴むと走り出した。自然にそういう行動に出た自分に自分自身がビックリしている。
紗季未も初めはあっけに取られていた。だけど、すぐに笑顔で頷いた。
「うん。行こうっ!」
◇◇◇
紗季未を連れて来たところは、もともと学校近くの公園だったところ。でも今はいい素材の宝庫だ。僕には分かる。
「え? ここ学校西公園だよ。ここに素材とかあるの?」
あ、そうか。紗季未には分からないか。では、杖を一振り。
「あ、何か白く光る場所が何か所が出て来た」
「そう、そこが素材のあるところ。さあっ、採取に行こうっ!」
紗季未は白く光る場所から素材を取り出す僕を茫然として見ていたんだ。
無理もないよね。錬金術師に変身した僕と違って、素材がはっきりとは見えない。
でも、僕は夢中だった。薬草、怪しげなキノコ、湧き出る清水、湧き出る温泉水、火薬の元になる鉱石、鉄鉱石、様々な色に映える木の実、そして樹液。ゲームに出て来た素材が本当に取れるんだ。僕より先に変身した奴らが夢中になった気持ちがいやってほど分かった。
「こうちゃん、あれ。後、そっちにも」
紗季未から声がかかる。何と僕が見落としていた素材のあるところを見つけている。しかも岩陰とかの見つけづらいところをだ。
「こうちゃん」
紗季未は何だかうずうずしてしているみたい。あ、また、身体が光を帯びて来た。
「私も一緒に採取していいっ?」
「どうぞどうぞ。大歓迎だよ。じゃあ、紗季未が見つけたところの素材を一緒に採取しようか」
「うん!」
「! そこで見つけたのはマンドラゴラ! オオカムズミ! ラスコヴニク! 稀少中の稀少のレア素材じゃないかっ! 良く見つけたね」
「え? お役に立てた。嬉しいな」
そう言ってはにかむ紗季未の身体はもう直視出来ないくらい光り輝いていたんだ。