92 女王蜂様 また出番なし 決戦は生物化学室
僕は硬直してしまった。
これが蜂野先生か母さんの発言だったら、また僕をからかっているんだと思う。
だけど、相手が三俣となると話は別だ。本当に真面目な委員長タイプで、あまり冗談は言わないはずだ。どう対応したものか。
◇◇◇
「真理ちゃん」
硬直している僕を見かねてか紗季未が口を開いた。
「さっきの真理ちゃんの言ったこと。いろいろととれるよね。『化学者』として『錬金術師』と交流したいのか、それとも……」
「男女として付き合いたいのか?」
「そうだね。どっちともとれるね」
三俣は微笑んだ。
「だけど、私は新川君の答えを聞きたいな。こっちもこれでも勇気を振り絞って言ったんだよ」
紗季未は小さく頷くと、僕の方を向いた。分かっている。相手が勇気を振り絞って言ってくれたのなら、こっちも誠意をもって答えるのが礼儀だろう。
僕は……
◇◇◇
「『錬金術師』としては『化学者』との交流は大歓迎だ。こっちからお願いしたいくらいだ。だけど、三俣が男女としての付き合いを望んでいるなら、悪いけどそれには応えられない。僕にはもう紗季未がいるから……」
「ふう~うっ」
三俣は生物化学室中に響き渡るような大きな溜息を吐いた。
「やっぱり駄目だったかあ。幼馴染が勝つこともあるんだねえ」
そして、三俣は後ろを振り向くと言った。
「と、言うことですよ。先輩」
すると、暗幕の陰から姿を現したのは生物化学部長の飛得先輩。人が悪いなー。そこで聞いてたんですか?
飛得先輩はこちらに来ると、僕と紗季未に深々と頭を下げた。
「新川君。きちんと答えてくれてありがとう。そして、『化学者』と『錬金術師』の交流を受け入れてくれてありがとう。真理のことは大丈夫。僕も支えるし」
え? 真理って名前を呼び捨て? この二人、兄妹じゃないよな。いやそんなはずはないぞ。三俣は僕や紗季未と小学生の頃から一緒だけど、同じ高校に兄がいるなんて聞いたことがない。と言うことは……
ふと見ると、三俣の眼に涙が溜まって来ている。いかん。この場に居続けてはいかん。紗季未の方を見ると、やはりしきりと頷いている。
えーと。生物化学室内を見渡すと、いつの間にやら「錬金術」の調合用の大鍋が置かれている他に、棚には「錬金術」の資料となる本がある。あの本を持って、この場を立ち去ろう。
「れっ、『錬金術』には素材の収集が必須なんだ。これから外で収集してくるよ。紗季未も一緒に来る?」
「うん」
僕は頷いた紗季未の手を引くと素早く生物化学室から出た。
そのすぐ後、生物化学室から「うわあああ」という三俣の泣き声が聞こえて来た。飛得先輩の慰める声も。
うーん。ここは飛得先輩に任せておくのがいいよね。
僕と紗季未は顔を見合わせ、また頷きあったんだ。




