9 女王蜂様 男性アイドルだって売り出す
さあ、どうする? 蜂野先生と見れば、右手に蜂の針を持ったまま、左手で器用にハンカチを取り出し、涙をぬぐった。
「まあ、苦労なさってきたんですね。先生がた」
このリアクションに三女傑。怒る怒る。
「はあ?」
「私たちのこと馬鹿にしてるの?」
「どういうおつもり? 蜂野先生」
これを全く意に介さないのが蜂野先生。
「分かってます分かってます。だ・か・ら、あたしは『働き方改革』を断行するんですぅ」
「『働き方改革』?」
「ここは『学校』でしょ? 何で『働き方改革』が出てくるんですか?」
「訳の分からないこと言ってないで、この馬鹿騒ぎを何とかしなさい」
「あ、せーのっ、どんっ!」
蜂野先生が三女傑に向かって、大きく縦に蜂の針を振ると、たちまちまばゆい光に包まれて……
◇◇◇
「キャアアアアアアアアアーッ」
校庭に巻き起こる黄色い悲鳴。
消えていく光の中から姿を現したのは、男性人気アイドルグループ「辛」だっ!
「のぼり坂くだり坂ま坂46」の生ライブを遠巻きに見ていた女子生徒たちも相手が「辛」となれば、話は別だ。
「え? 三人だけ? 誰が来てるの?」
「えーとね。『飼葉くん』と『舶来くん』と『活潤』」
「え? リーダーと『地鑿屋くん』は来てないんだ?」
「えー、でも、三人来てくれてるだけで、最高だよ」
「行こうっ、見に行こうっ」
突然のことに呆然としている「辛」に蜂野先生の喝が入る。
「はーい、『辛』のみんな、生ライブを楽しみにしている人たちがいるよ。ミュージックスタートッ!」
「♪ 舌が痺れるぜっ!(辛~い) 喉が焼けつくぜっ!(辛~い) 汗が噴き出るぜっ!(辛~い) GOGO! 俺たち辛だぜっ! 芸能界にスパイス効かせろっ!」
「キャアアアアアアアアアーッ」
◇◇◇
「むっふっふっ~。これで男女ともアイドルグループが揃ったね~。こうなると動画部門とかも増強したいね。湯千葉く~ん」
「はっ、お任せを。おいっ、洋津辺」
「おうっ。先生、お願いします」
前に出た洋津辺先輩に、蜂野先生は針を一振り。
まばゆい光に包まれて、動画部門二人目の誕生だ。