89 女王蜂様 少し変わった?
紙を食べ終わったしろやぎさんじゃなかった蜂野先生は、コホンと咳払いをした後、ニヤリと笑った。
「新川君さあー」
また、嫌な予感がありありとするけど、返事します。
「何でしょう?」
「何かこう、体がほてって、うずうずしてきてなあーい?」
「言われてみれば、変身してから何か落ち着かないんですよ。しなきゃならないことがあるみたいで」
蜂野先生、満面の笑みで紗季未に向き直ると
「北原さーん。新川君さあ、体がほてって、うずうずしてるんだって、何とかしてやってー」
紗季未は真っ赤な顔で大慌て。
「なっ、なっ、なっ、何を言ってるんです。先生っ!」
「そうですよ。先生。僕は何か落ち着かないとは言ったけど、体がほてって、うずうずとは言ってないですよ」
蜂野先生のにたりとした笑いは変わらず。
「何赤くなってるのん? あたしは変身の影響で体がほてって、うずうずしてるって言っただけよん。何を想像したのかなあ、北原さんは?」
「なっ」
紗季未は赤くなったまま絶句。そこに更に蜂野先生は
「やーいやーい。北原さんのむっつりえっちー! むっつりえっちー!」
わわわ。先生。そりゃセクハラっぽいし、あんまり紗季未をからかうと……
ドカッ ドカッ
ほうら、やっぱり殴られた―。というか、また、セクハラしたの蜂野先生なのに僕まで殴られたー。
「いい加減にしてくださいっ!」
「はいー」
蜂野先生、消え入るような返事。恒未はキャッキャッキャッキャッと大喜びの黄金パターン。情操教育上、どうなんだろ。
◇◇◇
「まあとにかく、新川君。『錬金術師』になった以上、しなきゃならないことを何となく感じてるでしょ?」
蜂野先生、珍しくもまともな質問。そうなんですよね。
「冒険者の子たちだって、アイドルの子たちだって、そういう気持ちが湧き上がって変身してんだから、とっととやることやっといで。北原さんも一緒に行きな」
うん。本当にそうなんだよね。やらなきゃなんないという気持ちがある。
「とっとと行きなさい。このむっつりえっち」
何でここでその単語が出るんですか? 話はそっちの方向じゃないでしょ。ほら、紗季未が冷たい目で見てるー。
「はい。行ってきますね」
そう言って立ち上がった僕に紗季未が一言。
「どこ行くの? えっちなところ?」
「だーっ、だから、蜂野先生の口車に乗っちゃ駄目だって。「錬金術師」として行くところだよ」
僕の弁明に紗季未はクスリと笑う。
「冗談よ。私もついていく。どういうところに行くか、ちょっと楽しみなんだ」
校長室改め女王蜂様室を出て行く僕たちに蜂野先生は声をかけた。
「いってらー。あ、お昼は『農場物語』のキャラに変身した子たちが校庭で、みんな集まって、バーベキューやろうって言ってるからねん。戻ってくるのよん」
昨日はラーメン美食対決で、今日はバーベキュー。豪勢なものばっか食べる気が。太らないかなあ。でも、蜂野先生、スタイルだけはいいよなあ。
◇◇◇
「うーん」
僕は思わずうなった。
「どうしたの?」
紗季未が僕の顔をのぞきこむ。
「何か蜂野先生。少し変わった気がしない?」
紗季未も頷く。
「あ、実は私もそう思った。言ってることやってることのほとんどが冗談だけど、真面目な時もなくはなかったけど……」
「うん。さっきのは今までとちょっと違う気がした。自分が変身したせいかとも思ったけど……」
「ううん。変身していない私もそう感じた」
何かが起ころうとしている……のかな?




